家庭用テレビゲーム機市場での競争〜デファクトを目指す争い
山田肇(客員研究員)
1. 市場の急速な動き
家庭用ゲーム機は、アメリカでアタリなどの先例があったが、ファミリーコンピュータの誕生によって市場が発展した1。それ以降、この市場で競争を続けてきたのは日本企業だけで、その歴史は表1に示す通りである。この間、わずか17年の間に主流の機種がファミリーコンピュータから、スーパーファミコン、そしてプレイステーションへと交代してきた2。
スーパーファミコンからプレイステーションへの交代は、市場シェアの動向で見ることができる。プレイステーション発売前の1993年度には91%だった任天堂のシェアは、1995年度には33%、1997年度に18%と急降下した。一方、SCEは1994年度に15%のシェアをはじめて獲得し、1997年度にはそれが68%にまで拡大した4。1994年に後者が登場した時点で消費者の選択が急激に変化して、大きなシェア変動が起きたことがわかる。絶対量で見ても、後者の国内出荷台数は、1994年度は80万台、1995年度には164万台、1996年度は400万台で、大きな需要が発生した。
2. ネットワークの外部性による説明
ある機種が市場に広く受け入れられたとき、その機種は事実上の標準(デファクト)であるという。家庭用テレビゲーム機における市場競争は、このデファクトをめぐる争いであった。主流の機種が市場を席巻すると、他の機種は市場から排除される。勝ち組と負け組を分ける理由は、次のように説明されている。
消費者が家庭用テレビゲーム機を選択する時には、ゲームソフトの種類が多い機種を選択する可能性が高い。あるテレビゲーム機が多く売れるとなると、ゲームソフトメーカーはそのゲーム機用のソフトを多く開発するようになる。その結果、その機種のゲームソフトが充実し、ますますそのゲーム機が売れるという好循環が始まる。このように供給者と消費者の意思が繰り返し作用し合って、好循環を享受する企業と悪循環に苦しむ企業が生まれる現象が、ネットワークの外部性である5。
しかし、プレイステーションの発売当初にはスーパーファミコンに膨大なソフト資産があり、ネットワークの外部性は前者に不利に働いたはずである。それにも関わらず市場シェアの変動はなぜ起きたのだろうか。
3. 世代交代に関する考察
技術の進歩に対する企業戦略を、S曲線を用いて議論することがある6。この場合、S曲線は電子デバイスや自動車といった大きな技術単位毎に書かれる。S曲線と対を成す考え方に「支配的なデザイン」がある。これは、製品の典型的なデザインは競争の中で確立されていくという理論である7。これらの考え方では、真空管から半導体素子へといった技術的に大きな移行のことを世代交代と呼ぶ。
本体をテレビ受信機に接続し、手持ちのコントローラで操作するという家庭用テレビゲーム機の設計は初期から変化していない。しかし社会では広く世代交代という表現が用いられている。家庭用テレビゲーム機の他、パソコンなどのハイテク製品では、基本設計は大差がなくても世代交代という言葉が使われることが多い。それは、ハイテク製品では性能がべき乗にのって向上するからである。他方、馬車から自動車に進歩しても、速度は数倍になったに過ぎない。
べき乗の性能向上を、例を用いて説明しよう。8ビットのCPUは、28すなわち256の状態、たとえば横が25cmのテレビで1mmおきの位置を制御することができる。かつて流行したインベーダーゲームは8ビットのCPUだったので、UFOが落とす爆弾の幅は1mm位であった。それが16ビットCPUになれば、その1mmをさらに256に区切る分解能が実現できる。このようにCPUが向上すると、画面は急激に改善され、自然画を見ているかのようになる。
ネットワークの外部性だけを考えては不利なプレイステーションが急激にシェアを獲得したのは、この圧倒的な性能向上が消費者の選択に衝撃を与えたからである。ハイテク製品の基本的な性能が爆発的に向上することは、社会生活への大きなインパクトとなる。今のパソコンの計算能力を「何年か前のスーパーコンピュータと同じ」とたとえて議論することがあるのは、インパクトが大きいからである。
しかし学術的には、ハイテク製品の世代交代ではS曲線や支配的なデザインといった理論を修正すべきなのか、あるいは新たな理論を確立すべきなのか、議論が必要である。
4. ビジネスパートナーとの関係
1999年下期のゲームソフト売上数ベスト50を、機種ごとに集計すると表2が得られる。ただし、ゲームボーイは携帯用の機器で他とはジャンルが異なる。そこで家庭用テレビゲーム機用のゲームソフトだけについてシェアを計算すると、プレイステーション用76%、ニンテンドー64用14%、ドリームキャスト用10%となる。この時期には、シェアの高い家庭用ゲーム機用のゲームソフトが同様にシェアが高い。この傾向は1990年代後半を通じて継続し、ネットワークの外部性が機能していた。
ネットワークの外部性が機能した時には、ゲームソフトの品揃えがゲーム機本体メーカーの成功と失敗を左右する。
任天堂のゲーム機については、表2にあるように、ゲームソフトメーカーの数が少ない。ニンテンドー64のソフトメーカー数2社のうち1社は任天堂で、販売数では91%が自社製である。任天堂は家庭用テレビゲーム機という新市場を創設した企業である。その当時、ゲームソフトは自社で開発するしかなかった。任天堂はこのビジネスモデルを続けている。しかし、任天堂のビジネスモデルでは、良質のソフトができたときには大ヒットとなるが、豊富な品揃えにはなり得ない。
SCEは、任天堂の手法を学習した上で市場に参入した。ゲームソフトメーカーの製作意欲を高める施策をうち、ソフトも直接販売できるようにした9。表2でも、ゲームソフトメーカー数は12と、他社に比べて圧倒的に大きい。SCEの成功要因としてゲーム機本体の性能差について先に言及したが、他の要因は、多くのソフトメーカーと協力してゲームの品揃えを増やしたことである10。
市場競争が小さく発展段階の初期にある産業では、その製品に必要な要素をすべて社内で開発し、生産する垂直統合が重要で、市場が大きくなり競争が可能になるにつれて垂直統合が解体されていく傾向が生ずると予想されている11。家庭用テレビゲーム機の場合には、任天堂は垂直統合型で、SCEは分業型であり、この予想と合致している。
この業界で分業型の事業を営む時には、ネットワークの外部性の好循環を働かせるために、ゲーム機本体のメーカーはゲームソフトメーカーの協力を得る必要がある。家庭用テレビゲーム機にはCPUが内蔵され、それに命令を送ることでゲームが実行される。この命令セットを知らなければ、ゲームソフトを設計することはできない。SCEは、ゲームソフトメーカーに対してこの技術情報を提供している9。その上、新しいゲーム機とそれ用のソフトは同時に発売される。つまり技術情報はゲーム機の発売以前から提供されていることになる。
ゲーム機本体とその部品メーカーとの間にも、提携関係が存在する。SCEとその親会社のソニーは、プレイステーション2のCPUを東芝と共同で生産している。セガのドリームキャストに使用されている画像処理LSIは、NECが開発した。同様に松下電器と任天堂は、任天堂が2000年末に発売する次世代ゲーム機向けに、松下がDVD再生装置を供給するといった内容の合意を発表している12。NECは任天堂にもセガにも画像処理LSIを供給しており、セガはNECとも日立とも関係を持っているというように、業務提携関係は1:1のパートナーというよりも、もっとドライな関係である。このことはゲームソフトの場合も同じで、この産業分野では、企業間で競争と協調が同時に進行しているのである。
5. これからの技術的な主戦場
家庭用テレビゲーム機では、搭載しているCPUのビット数が、初期の8ビットから最新モデルでは128ビットにまで増加した。しかし、これからも増加していくと考えるのには疑問がある。ビット数の増加によって、よりリアルなゲームが楽しめるようになったことは事実である。しかし、これ以上のリアルさは、テレビ受像機の性能限界を超えてしまっているので、消費者にインパクトを与えない可能性が高い。
家庭用テレビゲーム機では世代が代わる都度、それまでのソフト資産は放棄されてきた。しかしプレイステーション2では、旧機種のゲームソフトがかけられる。これは新機種購入の経済的な、また心理的な負担を軽減し、消費者のソフト資産を継承するという戦略である。しかしこれは、リアルさ等が消費者にとってすでに満足できるレベルにあるからこそ取れる戦略でもある。
家庭用テレビゲーム機の技術的な主戦場は、ビット数から他に移動した。最新機種は、DVDソフトが再生できることやインターネットに接続できることが「売り」になっている。これに関係して、新しい技術提携が発生し始めた。たとえばセガはドリームキャストをインターネットに接続し、映像・音声の新サービスを提供する事業に動いている13。
6. S曲線の解釈を見直す
ハイテク製品の典型として家庭用テレビゲーム機を取り上げ、デファクトをめざす競争について分析した。この分野での産業の発展について、この分析を元に、図を用いて、S曲線と支配的なデザインの理論に関する新解釈を提案する。
図において@で示しているのは、一般的な製品でのS曲線である。これに対してハイテク製品Aでは、一つの製品カテゴリーの中に、サブセットとしてS曲線A−1、−2、−3、−4、−5が書かれている。ここで一つのカテゴリーにあると見なせるのは、支配的なデザインを共通とする製品である。
Aの製品カテゴリーの各サブセットでは、@で示される製品に比較して、性能の向上と飽和の速度が速い。しかし、この性能の飽和を打ち破るような技術的な改良も頻繁で、支配的なデザインは共通したままサブセットの交代が起きる。これを一般には世代交代と呼ぶ。
ハイテク製品Aでこの世代交代が起きると、S曲線はA−1から、−2、−3、−4、−5へと順に移る。性能の向上は急激で、特に初期のS曲線A−1からA−2、A−2からA−3への移動では、図に示すように性能が飛躍する。しかし、この飛躍の量は世代交代を重ねるにつれて少なくなり、A−4からA−5への乗り換えの場合には、性能的な向上が少ないので、二世代の製品が市場に並存する事態となる。そして一つの製品カテゴリーとしては性能的な限界に達した時には、一般的な製品が限界に達した時と同じように、新たな概念の製品が市場に登場する。この新製品の登場を「真の世代交代」と見なせば、その交代の周期は数十年の単位になる。
この解釈を家庭用テレビゲーム機に当てはめてみよう。まず、家庭用テレビゲーム機全体で、一つの製品カテゴリーが形成されていると考えることができる。それは、本体をテレビ受信機に接続し、手持ちのコントローラで操作するという支配的なデザインが変わらなかったからである。
家庭用テレビゲーム機の中でCPUが8ビットから、16、32と進歩するにつれ、ゲームのリアルさといった性能は向上してきた。特に初期には、新機種は圧倒的に高性能であったので、消費者は蓄積したソフト資産を放棄しても新機種への乗り換えに動いた。しかし、128ビット機が販売され始めても、消費者の立場では32あるいは64ビット機の性能で満足できるので、旧機種が市場に並存する事態が起きている。こうして家庭用テレビゲーム機としての単純な発展は、限界に達しつつある。このため、ゲーム機メーカーは、インターネットに接続された情報家電機器として家庭用テレビゲーム機をとらえ直すなどして、新らしい支配的なデザインを求めはじめた。家庭用テレビゲーム機全体で見れば、すでに寿命は約20年に達しつつあり、「真の世代交代」の速度は普通の製品並となる可能性が高い。
ここで示した解釈は、性能を示す指数が特定されていないなど、未熟である。しかし、直感的には半導体やパソコンなどについても同様の解釈ができそうに思われるため、今後、考察を深めていく価値がある。
7. まとめ
3月にプレイステーション2が発売されてから半年が経過した。この間に任天堂の次機種も発表されている。インターネットに接続できる携帯電話で通信型ゲームを楽しむという新しい製品カテゴリーも生まれつつある。このように市場は世代交代の時期にあり、まだどれが次の勝ち組になるのかわからない状態である。消費者が圧倒的に魅力を感じる、従来からの支配的デザインの枠を超えた新しいゲーム機が、次のデファクトとして市場を支配するだろうというのが、小稿の予測である。
1 矢田真理、『ゲーム立国の未来像』、日経BP (1996)
2 本論文は、山田肇、「家庭用テレビゲーム機に見るデファクト・スタンダード」(『世界標準と国際競争』、日本国際問題研究所(2000秋予定))の要約である
3 「プレステ2狂奏曲 発売初日 秋葉原に5千人」、朝日新聞、2000年3月4日
4 日経産業新聞の国内市場シェア・データ、1994年6月22日、1995年7月3日、1997年7月15日、1998年7月7日を参照
5 林紘一郎、『ネットワーキング 情報社会の経済学』、NTT出版 (1998)
6 R.フォスター、『イノベーション−限界突破の経営戦略』、TBSブリタニカ (1987)
7 たとえば、W.アバナシー、K.クラーク、A.カントロウ、『インダストリアルルネサンス−脱成熟化時代へ』、TBSブリタニカ (1984)
8 「GAME of 1999 下半期」(『ナイスゲームズ』、キルタイムコミュニケーション (2000))
9 山下敦史、『プレイステーション大ヒットの真実』、日本能率協会マネジメントセンター (1998)
10 新宅純二郎、「先端技術産業における競争戦略−囲い込みからオープンへ」、経営研究所 (1998)
11 長岡貞男、平尾由紀子、『産業組織の経済学−基礎と応用』、日本評論社 (1998)
12 「松下、任天堂と提携 デジタル家電に照準」、日本経済新聞、1999年5月13日
13 「セガ、AT&Tと提携、ドリームキャスト ネット展開」、日本経済新聞、1999年8月14日夕刊