『The Big Bumpy Shift: Digital Music via Mobile Internet』
Daniel P. Dolan著
インターネットの中で今年急成長を遂げたものを挙げるとするならば、NTTドコモのi-modeサービスと、Napsterのようなファイル交換ソフトウェアを忘れることはできないだろう。本稿は、この二つがこれから収斂(著者の言葉によれば“synergy”)していくシナリオを予測したものである。
i-modeの急成長が示したのは、適切な枠組みがあればコンテンツを売るサービスは成立しうるということであった。著者は、i-modeの成功をもたらしたいくつかの要因を挙げている。一つは、i-modeコンテンツの利用料金が電話料金と一括して請求される点である。これは、PCインターネットにおける課金、決済のための簡便で決定的な手段が結局いまだに出現していないこととは対比的である。加えて著者は、i-modeのコンテンツが安全(セックスや暴力といったコンテンツは排除されている)で、理解可能なもの(英語サイトにいつの間にか迷い込むこともない)に限定されていることを挙げる。そしてその結果、ユーザがi-modeに期待すべきものを、つまりi-modeには「何ができて何ができないか」を示すことができたのだと言う。
一方で、Napsterに代表されるファイル交換アプリケーション、あるいはp2pアプリケーションと呼ばれるソフトウェアの流れがあった。この流行の最大の貢献は、p2pアプリケーションの可能性を示したことだろうが、直接的には、著者が示すようにネットワークコンテンツとしての音楽が高い需要をもっているということに他ならない。
音楽業界も、自らのビジネスの一部として音楽配信に取り組み出している(例えば、NapsterとBertelsmannの共同など)が、著者は現在の大手レーベルのネットワーク配信は、四つの理由で失敗するだろうと見ている。音楽レーベルがそれぞれ独自にサービスを展開していること、オンライン音楽の価格に見合うサービスが十分に提供されていないこと、配布形態がユーザの求めるダウンロード型でないこと、アーティストへの誘因が欠如していることが、その理由である。
そこで、著者は新たな可能性として、ネットワーク音楽配信と携帯インターネットの二つの組み合わせに注目する。著者のこの視点は示唆的である。
著者はまず、i-modeのような携帯インターネットによる音楽配信が、音楽の“portability”(可搬性)を高めるという点に注目する。しかし、必要なのは可搬性だけではない。可搬性を求めるのであれば、Diamond MultimediaのRioなどの機器で十分である。音楽の再生しかできない専用の機器よりも、通話ができ、ウェブ、メールも使える携帯電話のほうがより多くのユーザを惹き付ける。著者は、携帯端末がもたらす音楽の可搬性と携帯端末としての機能的優位性から、携帯電話による音楽配信を支持するのである。事実、DDIポケットは、Sound Marketと呼ばれるサービスでPHS向けの音楽配信サービスを計画中であることを発表した。
もう一つ、アメリカにおける携帯インターネット普及の切り口としての音楽配信にも著者は注目する。日本では、携帯電話利用者(つまり、携帯インターネット利用者)とインターネット利用者が分離しているのに対し、アメリカの場合は、両者はかなりの部分が一致しており、同じ利用者によって二つの利用形態が使い分けられているという。そのため、アメリカでの携帯インターネットは、音楽ファイルのダウンロードや共有という、PCによるインターネットでは難しい領域から普及するだろうと著者は予測するのだ。
音楽をネットワークで配信することは、音楽レーベル、アーティスト、消費者それぞれにどのようなメリットをもたらすのだろうか。アーティストと、消費者にとってのメリットは明らかである。アーティストは自分のコンテンツへのより大きな権利をもつことができ、また、自分のコンテンツをより自由に公開することができる(もちろんリスクも負うことになる)。また、消費者は、自分の嗜好により合致した音楽を、より適切な形態(CDやDVDというパッケージとしてだけでなく)で利用することが可能になる。その場合の、レコード会社にとってのポジティブなメリットとは何だろうか。残念ながら、本稿はそこまでは言及していない。
上村圭介(研究員)