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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

米国の超広帯域ネットワーク

鈴木淳弘(リサーチ・アソシエイト)

 ナイエル・シャフェイ氏は、1998年のGLOCOMフォーラム箱根会議(テーマ「ステューピッド・ネットワークと21世紀の社会」)で、「ペタビットハイウェイ」と題した講演を行いましたので、ご記憶の方も多いと思います。

 当時、Qwest社の副社長でしたが、現在では、その時の構想を実践すべく、世界最大容量の広帯域サービスを提供できるという光ファイバ通信事業者、Enkido Inc.を一昨年に設立し、そのPresident&CEOとしてご活躍されています。今回は、米国における広帯域ビジネスの実情を中心にお話していただきました。以下、簡単にご報告します。

 通信ビジネスにはQwest時代の経験を元に言うと、2つの大きな問題がある。まず、光ファイバーをエンド・エンドでユーザーに敷設すると、両端のローカルアクセス部分に全体の3分の2のコストがかかってしまう点である。もうひとつは、Qwestのような新興通信事業者(米国のベンチャー企業全般に当てはまると思うが)は、いわゆる「Exit」ストラテジーをもっている点である。つまり、起業して早期に株式公開(IPO)を行い、株価の高いうちに会社を売却してしまう企業(株主)のストラテジーである。こういった会社は、コストの比較的かからない中継系(長距離系)の通信ビジネスに目が向き、地道にローカル部分のコストを下げる努力を怠ってしまう。

 光ファイバーネットワーク構築のコストの内訳として、85〜90%が 光伝送装置・部品であり、純粋な建設(土木)に要するのは、5%程度に過ぎないことがわかった。Enkidoを設立する直接の契機は、米国政府(国防省)が安くて超広帯域のエンド・エンドのファイバーネットワークを必要としていたが、それに対応できる事業者がいないことであった。

 起業に際して、金融機関(ベンチャーファンドや投資銀行等)からの出資などは一切受け入れていない。彼らは、たった20ページのビジネスプランしかない段階で、細かなチェックもせずに50億ドルの評価をEnkidoにつけたが、会社設立6ヶ月での売却(Exit)を目指していたので、支援は受けないことにした。

 Enkidoの特徴は、顧客にネットワークを構築「させて」、それを顧客に売る点だ。つまり、Enkidoは、顧客からの注文を受け、そのサービスに必要な光ファイバー(併せて「余分」も。詳細は後述)と管路敷設権(Right of Way)を、公益事業体などのダークファイバー提供者から調達する。そしてEnkidoがネットワークを構築し、受注から5週間以内に顧客へのサービスを開始する。ポイントは、こういった建設にかかわる資金をEnkidoが直接負担することなく、顧客からの支払いを受けたのち、それをEnkidoから工事業者やダークファイバー提供者に支払うことである。

 Enkidoは資金の回収及び配分だけでよいので、一切負債を負わない。いままでの通信ビジネスは、事業者自らが多額の資金を借り入れてネットワークを構築して顧客に売っていた。これでは、顧客がつかなかったら立ち行かなくなる。Enkido設立初年の1999年には収入がなかったが、2000年には6,500万ドルの収入を計上した。Enkidoは、世界に類をみない「無借金」キャリアである。

 ネットワーク構築コストそのものも、競合他社の数分の一である。その理由は、ルーセントやノーテルなどの従来型のベンダーは、100〜120波の波長をのせるファイバーを敷設しようが、波長がひとつしかのっていないファイバーを敷設しようが、「割り勘」をしないので、通信事業者にとってコストは下がらない。Enkidoは、帯域(波長)あたりのコストを下げるために、受注ベースでファイバーを敷設(あるいは購入)し、光伝送装置を自社開発している。具体的には、ファイバーを敷設(取得)する際、既にある顧客分と併せて、将来の顧客向けに余分に敷設することにしており、それらは、極言すれば「コストゼロ」のネットワークともいえる。また、光関連装置もルーセントやアルカテルなどと共同開発を行い、ロシアなどへ生産を委託しており、非常にコストがかからない。これらの装置は、1年程度の独占使用権がEnkidoにあるため、他社との差別化の重要な要因ともなっている。

 テレビ放送用素材伝送などのブロードバンドアプリケーションも、Enkidoには優位性がある。現在、非圧縮のHDTV(Mpeg2)を送受信できるネットワークサービス(1.5Gbps)を提供できるのはEnkidoだけである。また、2001年3月には、アカデミー賞授賞式をNBAがEnkidoのネットワーク(270Mbps)を使って全米に生中継する。

 ターゲットユーザは、帯域を大量に使う企業に絞られている。Disney、NBC、NASA、ドイツテレコムなど少数である。また、ローカルループも、需要の多い都市に集中的に敷設している。ちなみに、マンハッタン地区では、競合事業者のMFN(Macromedia Fiber Network)は200マイル、Verizonは500マイルといわれているが、Enkidoは3,500マイルのローカルアクセスを保有している。また、世界で唯一の米国国防省レベルのセキュリティを備えたインターネットデータセンタと全米20,000マイルに及ぶ中継ネットワークとあいまって、完全なエンド・エンドの広帯域サービスを提供しているのがEnkidoである。

 以上のように、シャフェイ氏のビジネス戦略は、従来のテレコムキャリアとは全く異質の「超」IPキャリアを彷彿させるものでした。2001年の上四半期には東京にも進出する予定であり、「マイライン狂騒曲」に明け暮れている日本の電話中心のキャリアは、少しでもEnkidoの明快な戦略をフォローする必要があると思います。

 「我々の敵は、いわゆるキャリアではない。エンド・エンドで情報の“小包(パケット)”を送れる唯一の企業Fedexである。かれらの“小包"をデータの“パケット”として奪うことが目標だ」と、シャフェイ氏はスピーチを締めくくりました。

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