お客が所有するIPネットワーク
IP革命はお客が所有するネットで実現
講師:ティム・デントン(法律家)
IP革命を実現するのは顧客が所有するネットワーク(Customer-owned Networks)である。回線交換による電話ネットワークとパケット交換によるインターネットの世界における発想の違いを対比した論文「ネットヘッドvsベルヘッド」で知られるティム・デントン氏は力強くこう主張する。2月のIECPコロキウムでは、同氏を迎え、その拠点でもあるカナダにおいて現在進行中のネットワーク革命についてお話を伺うとともに、氏の説く顧客所有のネットワークの可能性について活発な意見交換が行われた。
世界中でネットワーク革命が進行するなか、政権交代によってこれまでにもまして政府の役割が小さくなっていくことが予想される米国に比しきわめて対照的なだけではなく、世界のなかでもきわめてユニークなアプローチがカナダにおいては展開されつつある。それは一言でいうならば官民協調型のアプローチであり、1993年に設立された非営利団体CANARIEが中核となり、産官学との連携のもと、全国光ネットワーク構築、次世代の製品・アプリケーション・サービスの開発・展開に取り組んでいる。こうした流れに昨今の技術革新による光ファイバの急激な価格低下が重なり、顧客、自治体が自らインフラを所有することを可能にした。それはまたDWDM、OBGP等の新技術により、単に所有するに止まらず、ユーザが自らの波長をコントロールすることまでを可能にしつつある。そしてユーザは、相互の同意に基づきそれぞれの波長を交換しあうようになる。こうしてユーザ主導のネットワーク(customer empowered networking)が発展しつつあるのだ、と同氏は語る。こうした状況下においてはネットワーク管理者ではなく、エンドユーザが創造性の担い手となる。そしてこのような形の新しいネットワークの仕組みは、様々な組織の協力、情報の交換のなかから現在では想像さえできないものが創出される可能性をもたらすことになる。それはネットワークを動かす主体が事業者からエンドユーザへと転換することを意味するわけであるが、こうした動きはインターネットが芽生える土壌となった大学や研究コミュニティですでに始まっており、インターネットの自立・対等接続モデルがテレコムの世界にも拡大している。そして、このような形のネットワークの発展は、マネージド・ネットワーク・サービスとキャリアによるインフラ所有を前提とする、既存キャリアのビジネスモデルを無意味なものにしてしまうのだという。
参加者との意見交換のなかでもみられたように、こうした顧客自らがネットワークを所有・コントロールするという発想に対しては、果たしてどこまで発展する可能性があるのか、そしてそれはカナダのみならず、次世代のネットワークのあり方として普遍的なものとなりうるのか、といった疑問が生じる。既存キャリアにとって、顧客が自ら所有・管理する煩わしさを解消することにその存在価値を示すことはもはやできなくなってしまうのだろうか。こうした疑問に対し同氏は次のように語った。生産コストの低下は、例えば印刷技術の登場が修道院の価値・役割を変化させたように、組織・制度といった社会システムに根本的な変化をもたらす。技術の変化とともに、メインフレーム中心の時代からデスクトップ中心の時代に移行していくなかでコンピュータ産業に大きな変化が見られたように、電話の世界においても技術の変化に合わせてそのあり方そのものに変化を余儀なくさせることになるだろう。こうした大きな転換期にあることを認識することが重要であると同氏は強調した。次世代ネットワークがいかなる形で発展、成熟していくのか、まだまだその解はみえてこないが、いずれにせよ今回とりあげたカナダにおけるアプローチについては、今後もその動向を注目していく価値がありそうである。
花井靖之(主任研究員)