「ワイヤレスインターネット時代の到来とクアルコムの戦略」
講師:松本徹三(クアルコムジャパン株式会社)
2001年2月21日、「ワイヤレスインターネット時代の到来とクアルコムの戦略」と題するIECPコロキウムが、クアルコムジャパン株式会社の松本徹三社長をお迎えして開催された。本稿では当日の講演の概要を報告する。
100年の歴史を持つ電話サービスは、遠隔にいる人間同士を結び、リアルタイムで会話ができる環境を提供するサービスである。移動通信も、この電話サービスの一種であると考えられ、その考え方に基づいてシステムが構築されてきた。しかし、ワイヤレスインターネット時代の到来と共に、新しい考え方が生まれた。
人間同士の電話では瞬断も遅延も許されないが、両端にコンピュータが置かれるコンピュータ通信であれば、うまく送信できない時には再送すればよい。インターネットで「ベストエフォート」という言葉がよく使用されるが、要は再送を許すということである。そして、インターネットの爆発的な普及と共に、コンピュータ間に加えて人間とコンピュータ間の通信も増え、電話流の考え方は時代遅れになりつつある。
移動通信には、電力と通信容量と機器の大きさに制限がある。どんなに性能を向上させても瞬断があるかもしれないし、遅延も起こる。そうであるのならば、電話の延長線として移動通信を考えるよりも、ベストエフォート型のコンピュータ通信の仲間と考えたほうがよい。ワイヤレスインターネット時代が到来したとは、移動通信をコンピュータ通信の一種として考える時代が来たということなのである。
NTTドコモは、移動通信が電話サービスの一種であった時代に勝利を収めた。しかし、ワイヤレスインターネット時代に勝利を収めるとは限らない。NTTドコモの問題点は、電話マインドで経営されていることである。そこに、対抗するKDDIのチャンスがある。KDDIのcdmaサービスは、クアルコムの技術によってサポートされている。そして、クアルコムはHigh Data Rate (HDR)技術をはじめとして、ワイヤレスインターネット時代に適した移動通信技術を提供する会社なのである。
新しい技術とそれを利用するサービスを紹介しよう。GPS衛星を利用して移動通信利用者の所在を特定する技術がgpsOneである。渋谷でイタリア料理店を探そうとすると、iモードなどのブラウジングサービスを利用することになるが、東京→23区→渋谷と順番に検索していくのは面倒である。これに対してgpsOneで所在が特定できれば、その情報を利用して最初から渋谷の料理店が表示できる。利便性が著しく向上するので、iモードから利用者が移る可能性がある。
同じように、gpsOneを使えば、DVDの地図を積み込まなくても自動車のナビゲーションができる。その上、交通管制室側にも走行状態が刻々と伝わるので、空いた道への誘導が容易になる。自動車にgpsOneを組み入れるのは自動車会社であって、通信事業者でない。利用者もITSサービスの内容は問題にするが、ドコモかKDDIかは問わないはずである。KDDIにとって大きなチャンスといえよう。
ウォークマン、デジタルカメラ、PDAと移動通信の機能を組み込むことができる機器が数多く存在する。それらの機器で提供するインターネットと連動したサービスを、利用者は機器と同時に購入する。ここでも、サービスの内容は問題になるが、通信事業者は問われないだろう。
クアルコムは、ワイヤレスインターネット時代を支えるCDMA技術を開発してきた。すでに提供されているcdmaOneからcdma2000には、シームレスな移行が可能である。このため設備投資も押さえられる。このようなことから、第三世代サービスの開始と共に、移動通信の市場はこの数年で大きく変わっていく可能性がある。
以上が概要であるが、松本社長の講演は、移動通信をコンピュータ通信の一種として考えると、今までとは異なる市場が拓けるであろうということを終始主張するものであった。電話文化の風土からは考えが及ばない新しい発想であり、大変に興味深かった。
山田肇(客員教授)