WWVi国際シンポジウム「インターネット時代の通信と放送」第2回を開催して
去る2月26日、ワールドワイドビジョン・イニシアティブ(WWVi)主催によるシンポジウム「インターネット時代の通信と放送」が開催されました。このシンポジウムは、コロンビア大学CITI (Columbia Institute for Tele-Information)が、ニューヨーク、デュッセルドルフに次いで開く「TV over the Internet」会議の第3回として、日経BP社などの後援を受けて開催されました。WWViは1998年4月から"Enabling TV over IP"という標語を掲げ、これまで2年近く活動してきましたが、今回このような形でシンポジウムを開催できたことは、この問題の重要性が広く一般的に認知されてきたことを意味するのではないでしょうか。
第1セッション:ブロードバンド時代のテレビ
「ブロードバンド時代のテレビ」をテーマにした第1セッションは、キーノートスピーカーとして、コロンビア大学教授のエリ・ノームさんを迎え、アメリカのデジタル放送の状況などを中心にお話しいただき、その後、ビットメディア社長の高野雅晴さん、音楽プロデューサーの松居和さん、ジャズピアニストの松居慶子さんの4名のパネリストを交え議論を行ないました。
ノームさんは、「通信とテレビの融合の問題は、次世代のメディア環境にとって最も重要な問題だ」と指摘し、日本に先行してサービスを開始したアメリカのデジタル放送について報告しました。ノーム教授によれば、アメリカにおけるデジタル放送の問題点は、デジタル化の二つの側面、つまり送出のデジタル化という面と、デジタル放送対応機器によるデジタル放送の直接受信という面が同時に行われており、ここが混乱の元となっているものの、これは過渡的なもので、最終的には、DVDの存在などが追い風となって、デジタル放送は普及していくだろうという展望を述べました。
では、「インターネットテレビ」の場合はどうでしょうか。テレビ機器のほかにも追加機器が必要であり、双方向性を実現するために電話回線を必要とするなど、テレビ放送と比較した場合必ずしも優位だというわけではなく、現在は頭打ちと言われます。また、コンテンツの供給という観点からみると、インターネットテレビを最大限に活用したマルチメディアコンテンツは高くついてしまうといいます。
このような点から、ノーム教授はインターネットテレビが成功するための条件として、ビデオオンデマンドとしてのインターネットテレビは、他メディアに先行してコンテンツを配信できなければならないこと、一方向的なコンテンツではなく双方向性をもったコンテンツでなければならないこと、専門性やニッチ性の高いコンテンツが提供できなければならないこと、そして、全世界から「薄く広く」視聴者を募らなければならないことを挙げ、インターネットテレビ普及への条件を示しました。
第2セッション:電波は誰のものか
第2セッションでは、昨年の秋に行われた政府のIT戦略会議でもトピックに挙げられた、周波数オークションの問題を取り上げました。周波数オークションは、ヨーロッパやアメリカではすでに実施されていますが、この分野の第一人者である大阪学院大学教授の鬼木甫さんにキーノートスピーチを行なっていただきました。パネリストとしては、NTTで長く無線技術の開発をされてきた現慶應義塾大学の小檜山賢二さん、イーウィズユー社長の松田俊介さん、アメリカ連邦通信委員会(FCC)計画政策局長のロバート・ペッパーさんにご参加いただき、この問題について議論を進めました。
鬼木さんは、ご自身が関わった「IT革命を実現させる電波政策に関する提言」の紹介から、電波をめぐる現在の法制度の問題点を紹介しました。戦時中の周波数管理に端を発する周波数管理制度の歴史的経緯などに触れ、現行の制度が、今日のような新しいサービスが次々と出現する時代には向いておらず、サービスの担い手のニーズに合わせた周波数の割り当てを行う手段としてのオークションの必要性に言及されました。
また同時に、鬼木さんは、周波数の有効利用を促進するための道具立てとしては、オークションだけではなく、周波数の利用状況に関する情報公開も必要であるということにも触れられ、例えば土地に登記簿があって誰でもが利用状況を閲覧できるように、周波数について同様の公開制度が必要であると主張されました。
鬼木さんは、「オークションの真の目的は、決して政府に収入をもたらすことではなく、市場原理によって周波数の効率的利用を促進することだ」と強調します。これは、市場原理に基づくことで、ユーザにもっとも優れたサービスを提供できる自信がある事業者、言い換えれば、落札額に見合うだけの収入を得る自信がある事業者に周波数免許を与えられることが、オークションの役割だというのです。一方で、ヨーロッパのいくつかの国で実施された周波数オークションでは、本来の目的である適切なサービスの提供を妨げかねないほど落札額が高騰したことにも言及し、パネリストとのディスカッションに移りました。
第3セッション:21世紀の情報通信政策
これまでの二つのセッションでは、新たなサービス、新たなコンテンツが登場する中で、それぞれ、技術、ビジネスモデル、制度という既存の枠組みによる限界を、どのように突破していくべきかという視点での議論が行われました。ところで、新しいモデルが登場したときに、古いものを更新するという方法は果たして適当なのでしょうか。続く第3セッションは「新しい酒には新しい革袋が必要である」という問題提起から始まりました。
キーノートスピーカーとして、アメリカ連邦通信委員会計画政策局長のロバート・ペッパーさんをお迎えし、またパネリストとして慶應義塾大学教授の林紘一郎さん、規制緩和問題にこれまで尽力されてきたオリックス会長の宮内義彦さん、また規制を行なう行政の立場から総務省情報通信利用促進課長の吉崎正弘さんにご参加いただきました。
インターネットが、テレビや新聞などの既存のメディアをしのぐようになったとはいえ、インターネットと放送の関係は補完しあう側面が強く、容易には区別できません。そこで、このような状況下での「規制」をどのように考えるべきかが課題となります。
ペッパーさんは、電気通信や放送の分野においての既存事業者の保護というこれまでの制度を改め、競争政策を導入することで投資が積極的に行なわれるようになった事例などを取り上げ、競争政策の重要性を訴えました。電気通信の規制を制度的に裏付けたのは通信や放送におけるインフラの稀少性でした。しかし、今日においては、稀少性に基づいて行われた事業者の保護が、さらなる稀少性を生み出すという悪循環を生み出してしまっているとされます。伝統的な規制政策では、コンテンツとインフラを一体として規制してきましたが、デジタル化により両者は容易に分離できるため、コンテンツとインフラの一体的な規制の必要はもはやありません。
翻って、ユーザ主導、コンテンツとデータの融合、共同参加と双方向性に特徴付けられるインターネットテレビの場合はどうでしょうか。インターネットには、電気通信のような稀少性の問題はありません。だとすれば、何を規制の根拠とすべきなのでしょうか。アメリカでは、古い枠組みによって、新しいビジネスモデルに基づいた新規参入事業者については規制を差し控えるという「非規制」が、規制政策の要点なのだということが強調されました。
まとめに代えて
昨年12月1日より、いよいよ日本でもBSデジタル放送が開始されました。WWViでは、このシンポジウムに先立つ昨年3月に、インターネットと放送の「融合」について考える第1回のシンポジウムを開催いたしました。第1回のシンポジウムは、テーマであった「インターネットと放送は融合するか」という問いについては明確な回答はなく、強いていえば「インターネットと一定の距離を置くBSデジタルのような解があってもいいはずだ」というのが一応の回答でした。
しかし、その後、政府が設置した「IT戦略会議」が、「5年以内に1000万世帯に超高速インターネットを普及させる」という目標を掲げるなど、すでに社会の関心は、今ある放送の中で何が実現できるかではなく、通信を、つまりはインターネットをどのように充実させていくかということに移っているように思われます。
前回のシンポジウムから1年近くが経過し、放送と通信の融合の新しい試みが始まったこの時にシンポジウムを開催したことで、前回出された暫定的な回答について、改めて評価する機会となったのではないでしょうか。