く・も・ん・通・信
今月初め、大分のハイパー・ネットワーク社会研究所の研究員たちと一緒に、ソウルに3泊4日の見学旅行をしてきました。すでに500万世帯を越える人々の間にDSLやケーブルモデムでの広帯域インターネット・アクセスが可能になっている、広帯域世界最先進国の韓国で、それが実際にどんな使われ方をしているかを見聞したいというのが、今回のツアーの主眼でした。
そこで、会津泉さんや、もとリクルートの永井さんなどにアレンジをお願いして、ウェブのページの作成や編集を支援する“コンテント・マネジメント”用のプラットフォームを開発しているI-On社の訪問を皮切りに、オンラインの共同購入ビジネスを立ち上げて急成長したInternet Buy Together社や、サムスン系のスタートアップで通信事業者とISPの間に入って各種のソリューションを提供するビジネスをグローバルに展開しようとしているMPEON社などいくつかの企業や、情報通信部のインターネット担当局長さんのお話を伺うなど、集中的にあちこちをまわってみました。とりわけ圧巻だったのは、立席や椅子席、オンライン・ゲームやネット・サーフィンなどいろいろなセクションに分かれ、数百台のPCを配置している韓国最大のPC房、「メガウェブステーション」の絢爛豪華さでした。ちょうど明日から連休にかかるという金曜日の夕方(韓国は普段、土曜日は休日になっていないそうです)でしたが、けっこう混み合っていました。私たちはそこで1台のパソコンを借り、その画面を使って、韓国の民放の一つであるSBSの、インターネット部門(SBSi)のプロデューサーをしているベーさんから、同社の事業の解説をしていただきました。そのサービスは会員制になっていて、会員カードの発行がその中核にあるのですが、すでに700万人の会員を獲得しているそうです。SBSの放映した過去数年の番組のほとんどがデジタル化されてデータベースに収められ、会員はウィンドウズ・メディア・プレヤーを使ってオン・ディマンドで自由に閲覧ができます。現在の速度は200kbpsと比較的低速で、メディア・プレヤーの画面は小さいし、人気のある番組へのアクセスは容易ではありませんが、アクセスできさえすれば、かなりの品質の動画が楽しめます。また、音楽もすでに数十万曲がデータベース化されていて、15曲までであれば、無料でネットにアクセスして好きなだけ聴くことができ、オフィスで仕事をしながら自分の選んだ音楽を楽しんでいる人も多いのだそうです。あるいは、放送局の時間の一部を貰って、曲をリクエストするのではなく、自分がディスク・ジョッキーになって好きな曲を放送することができるような仕組みもあります。こうしたことは、インターネットへの高速常時接続環境が当たり前になっていればこそできることでしょう。加えて、韓国では著作権制度がそれほど発達していなかったおかげで、こうした新しいシステムを導入するさいの著作権の移転問題なども、比較的容易に解決できたのだそうです。
アルバイトで私たちの通訳を勤めてくれたイーさんは、大学院で日本学を専攻している女性ですが、お兄さんはネットの技術者で、自宅には高速接続環境があります。イーさんは、今回の仕事の間、路上でも地下鉄の中でも携帯電話をフルに使って(韓国では、地下鉄の中でも携帯電話が使えます。車中で人々は大声で話し合っているので携帯電話で話していても別に気にならないようです)連絡を取っていましたが、PC房に立ち寄った時は、そこのパソコンからさっとメールをチェックしていました。
そういったことも合わせて考えると、韓国の場合、無線と有線の通信が、また娯楽とビジネス、あるいはネティズン的なグループ活動が、相互補完的に利用され、相乗効果をもって発展していく可能性が高いように思われてなりません。アメリカの場合は、広帯域化が進むと共にマスメディアが勢いを取り戻すばかりか、コンテントの有料化が進み、その一方で“平等主義”的なインターネットは死滅するかあるいはネットの片隅においやられてしまうといった予測(www.wired.com/wired/archive/9.05/broadband.html)さえなされているのですが、韓国の状況を見ると必ずしもそうとは限らないと思われてきます。他方、新興通信事業者のハナロの挑戦を受けて立った既存通信事業者のKTテレコムが、ごく短期間に200万を越えるDSLサービス加入者を獲得してトップに躍り出たり、先のベーさんの会社のように、既存の民間放送事業者がインターネットにも進出して大成功をおさめているといったところからすれば、「第二次産業革命期の通信・放送事業者は第三次産業革命期の新情報通信企業には変身できない」と決めつけることもないように思われてきます。そういえば、ベーさんが解説の間に“ネティズン”という言葉を繰り返し使っていたのが印象的でした。SBSiは、まさに“ウェブ・ライフスタイル”のイネーブラー(enabler)そのものかもしれません。
ちなみに、ふと立ち寄った都心部の小さなPC房の主人が、専用線の回線料が高いのが悩みの種だが、最近こんな勧誘が来ているといって見せてくれたのが、何と無線LANの勧誘でした。今回の訪問先では、情報通信部でも、サムソン系のモバイル新興企業のMPEONでも、無線LANの話はほとんど出なかったので、ことによると韓国はDSLや携帯電話の成功の陰で無線LANには出遅れているのかなと想像しかかっていた時に、具体的な反例を目にして、あらためて心強い思いをしました。
当分、韓国の状況には目が離せません。とくに広帯域通信の応用分野で、どんな新しいアプリケーションやグループ活動の試みが出てくるのか楽しみです。パソコン通信時代からの私たちの旧い友人であるユー・キョンヒーさんは、70歳の今日でも、韓国の高齢者たちのネットワーク組織である「集賢殿」の代表者として、翻訳業務その他、高齢者の間でのテレワークの普及をめざしてがんばっておられます。その一方で日韓の地方自治体の間をつなぐテレビ会議を、すでに5回にわたって実現させ、このほど日本の総務省の表彰を受けることになったそうです。韓国のネティズンたちの活動のいっそうの発展を祈りたいと思います。
公文俊平