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"Marketing on the Internet for the year 2001"に参加して

稲場秀司(リサーチ・アソシエイト)

 会社に勤める者にとって最も忙しい時期のひとつである年度末の、それも最後の追い込み時期である3月最終週に、私は幸運にも日本マーケティング協会(JMA)主催の「第2回アメリカ・デジタル・マーケティング最前線研修ツアー」に参加する機会を得ました。約1週間に及んだこの研修ツアーのメインイベントが、3月28日、29日にロサンジェルス郊外のパサデナ(ローズボールの会場があることで有名)で行われた、アメリカマーケティング協会(AMA)主催の “Marketing on the Internet for the year 2001” という会議への参加でした。今回はこの会議に参加して得られた知見と、あくまで私的な感想をこの場を借りて綴らせていただきます。

 オープニングスピーカーとして出てきた、本会議の議長でもありキーノートスピーカーでもあるDigitas社1のKathy Biro氏は、「“いつでも、どこ(から)でも”インターネットにつながることのできるユビキタス・インターネットの時代には、ウェブはもはや酸素のようなものとなり、“いつでも、どこでも”使えるものになる。つまり、ユビキタス・インターネット時代の消費者は、モバイル環境を通じて常にインターネット接続が可能となるので、ニーズが発生したその瞬間に、自分が今いるその場所で、そのニーズを満たすサービスを享受することが可能となる。逆にいえば、企業は、消費者に対して「欲しい時に、欲しいものを、その(思い立った)場所へ」提供できなければ、ユビキタス・インターネット時代には生き残っていけないのだ。そのために企業は、ユビキタス環境下での新たなIntermediary(仲介者、仲介業)としての役割、(つまりBiro氏らが提唱する) “Mobilemediary”としての役割を実現していく必要がある」と説いていました。そしてその成功事例として、NTTドコモのi-modeを紹介していました(会場のスクリーンには広末涼子がアップに!)。

 すでにi-modeに慣れ親しんでいる私(を含め同行した日本からの参加者)には、このコンセプトは特段目新しいものとは感じられませんでしたが、改めてインターネット上のビジネスにおけるIntermediaryの役割の重要性を認識しました。國領二郎慶応義塾大学教授1が説明する「購買代理業者」2や、『Net Gain』の著者としても有名なJohn Hagel III氏らの唱えるところの "Infomediary"3 も、このIntermediaryという概念の一種であると考えられます。私が最初にこの概念に触れたのは確か1997年で、当時、GLOCOMに在籍していた私が陪席させていただいていた「情報化研究会4」での勉強会における、奥野(藤原)正寛東京大学教授の発表であったと記憶しています。Herbert A. Simon氏の理論によれば、「人間は、その認知能力の限界を超えた情報の中で、最善の手段ではなく満足できる水準を設定し、それを実現する代替案は受け入れるという行動をとる」と言われています。人間の認知能力をはるかに超える量の情報を提供してくれるインターネットにおいて、消費者に対し自分のニーズや好みを“満足できるレベル”で、しかも“いつでも、どこでも、すぐに”提供してくれるi-modeを初めとする日本のケイタイは、このMobilemediaryを忠実に実現している鑑であります。コンテンツの価格を、駅のキオスクで買う雑誌並みの200〜300円に設定することで気軽さを演出し、エントリーバリアを下げた松永真理さんの価格戦略もさることながら5、高校・大学生が、結果として月トータルで何万円もの通信費を、そしてそのうち、月平均2000円近い情報(コンテンツ)料金をケイタイに支出してしまっている現状は、こうしたMobilemediaryとしてのバリュークリエーションの結果とも言えるでしょう。今年のBuzzwordと目される「無線インターネット」の普及や、近い将来実現される3G、4Gといった次世代無線通信時代には、現代のi-modeとは異なる、新たなMobilemediaryが続々出現することでしょう。

 さらにBiro氏は、「ユビキタス・インターネット時代のWebサイト(企業)は、特定の“Content”を重視する“Destination”サイトを目指すのではなく、顧客の属性や関心事といった“Context”を個別に深く理解してサービスを提供する “Contextual Marketing” が重要になる」と繰り返し説いていました。さらに、次のプレゼンテーターである、PalmやWindows CEなどのPDA向けにウェブソリューションを提供している、AvantGo社6CEOのRichard Owen氏は、自社の顧客であるCompUSAのPDA向けデジタルクーポンや、ノースウエスト航空のPDAによるフライト情報確認やチケット予約を紹介しながら、「消費者のContextを把握し、そこにチューニングすることができる “mCRM” (mobile CRM)こそが、ユビキタス・インターネット時代のキラーアプリになる」と予測していました。インターネットを駆使して、自分の好みやニーズをより確かに満たすものを一つ一つ調べ、比較し、最適のものを探し出しては集めてくる(Destinationへ直接アクセスする)消費者も確かに存在しますし、そういう人たちには、ContentにフォーカスしたDestinationサイト戦略が適していると考えられます。しかしながら、インターネットの提供するあまりに膨大な情報の中で、自らの認知・処理能力の限界をとうに超えてしまった大多数の消費者にとっては、自分でいちいち探すよりも「ここならニーズを満足させてくれ、信頼もできる」というサイトへ直行し、そこが提供してくれる自分のContextにあったRecommendation(推薦)や情報の編集(価値)、新鮮な経験などを享受し、期待通りかそれ以上の満足が得られることの方を望むでしょう。そしてこの仮説が正しければ、Contextual Marketingアプローチのウェブサイトの方がStickiness(滞在時間)も高まるでしょう。

 このようなことを考えている最中に思い出したのは、遡ること1994年、当時その斬新なデザインにミーハー心がくすぐられ、すっかりファンとなってしまった 『Wired』 という雑誌にPaul Saffo氏が寄稿していた “It's the Context, Stupid”7 というエッセイです。なんとSaffo氏は、アメリカでさえインターネット・ビジネスの黎明期にあった1994年5月、すでに次のように予言していました。「(インターネットの)将来は、通信事業者やコンテンツ・プレーヤーに属していない。それは、我々がこの広大なサイバースペースの中でナビゲートしてくれることを期待する、フィルタリングやサーチング(検索)のツール、センス(感性、意味)を理解するツールをコントロールするものたちにあるのだ」。時代は、消費者のContextを満たすサイトとして、検索エンジンサイトやポータルサイトに脚光を当ててきました。これらはMobilemediaryにその対象を進化させても、インターネットにおけるContextの重要性は当分変わらないでしょう。

 実は、今回の出張には自分なりに事前にテーマを持って参加しました。それは、「インターネットの本質が分散分権型アーキテクチャであるなら、P2P的なe-Marketing、すなわちNapsterのように、サーバは介するもののユーザ間でダイレクトにトランザクションを起こし、n対nの協働を実現するようなマーケティングの仕組みはないものか」という抽象的疑問であり、期待でした。この問いにずばり応えてくれたプレゼンテーションなり議論は残念ながらありませんでしたが、同様の考えは前述のHagel氏のプレゼンテーションの中に垣間見ることができました。彼は、「マスマーケティングやダイレクトマーケティングのように、自社製品へ消費者の目を集中させようとするマーケティング戦略の延長として、昨今ではOne-to-Oneマーケティングと称する、「1対1」の関係を構築して囲い込もうとするマーケティングがもてはやされているが、顧客側から見れば、好きなときに好きなチャネルにアクセスできる「1対多」の関係のほうが心地よいのであり、無理に「1対1」の関係に封じ込めようとするのはおかしい」と説明し、インターネットを協働の場ととらえた、新たなマーケティングモデルを模索しているようでした。

 そのほかにも、「顧客ライフサイクルとセグメンテーションを意識した、e-Marketing戦略をとれ」とか、「e-Metrics(効果測定)を用いた、徹底したデータ解析をすべし」などなど、別に “e”がつかないマーケティングでも、そのまま通用するプレゼンテーションが多く見られました。聞くところによると、昨年の1/2しかない会場や参加者の、さしずめ自省の念が充満しているかのごとき今年の “Marketing on the Internet”会議において、「インターネット・ビジネスもe-Marketingも、基本に立ち返り、地に足つけて取り組もう!」という、ある意味で当たり前の「決意」を感じた、今回のアメリカ出張でした。

1 http://www.digitas.com/

2 國領二郎(1999)『オープン・アーキテクチャ戦略』ダイヤモンド社 p.125他を参照

3 Hagel III, John and Arthur G. Armstrong (1999), Net Gain, Harvard Business School Press, pp104-108.

4 現、情報通信政策研究会 http://red.glocom.ac.jp/johoka/

5 松永真理(2000)『iモード事件』角川書店

6 http://www.avantgo.com/

7 http://www.wired.com/wired/archive/2.03/context.html

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