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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

『ブロードバンド時代のネットワーク・セキュリティ』山田肇著

 インターネットの普及とともにネットワーク犯罪は急増する傾向にある。IPv6が本格的に導入され、多くの機器が直接接続されるブロードバンド時代になれば、ネットワーク犯罪の危険はますます増大する。インフラストラクチャの一つである通信ネットワークそのものが破壊され、それによって社会が混乱するサイバーテロの発生すら予見されている。

 物的証拠がほとんど残らないネットワーク犯罪捜査では、通信傍受や通信記録の解析以外にあまり有効な手法はない。しかし、これらは個人の人権を侵害する危険があり、捜査としてどこまでが許されるか、慎重な議論が必要とされている。

 日本では、通信傍受法が成立施行される過程で「盗聴法」との非難が浴びせられたこともあって、このような議論自体を進めようする意識が低い。また、ネットワーク犯罪やサイバーテロの危険が増すことで、通信サービス提供者自身が被害者となる可能性も高まっているにも関わらず、これら事業者の態度は必ずしも積極的とはいえない。

 このような状況下にあって、筆者は、「ブロードバンド時代におけるネットワークのセキュリティ問題では、個人のプライバシー保護とネットワークのセキュリティとのバランスが議論されるべきである」と主張する。

 社会に対するネットワーク犯罪のリスクをどこまで許容するかということと、犯罪に対抗するためには、どの程度の個人情報をだれがどのように使用することが許されるのかということの間の解決策を見出すためには、いまこそ、通信サービス提供者、通信機器メーカー、人権擁護団体、法執行機関、法律家など、すべての関係者がオープンに、かつフランクに意見を交わし、将来の大被害を未然に防ぐための処置を行うことが必要であるとしている。

 欧州では、様々な場で産官学の英知を集めた議論が活発に行われている。そこでは、政策的な課題、技術的な課題、あるいは通信傍受の費用負担までが議論されており、見習うべきものが多い。また、欧米では、強弱の差はあるものの、通信傍受に関連する標準化活動が進められている。このような活動は、電気通信サービス提供者にとっても法執行機関にとっても利益が多いと考えられ、わが国でも同様に取り組むことが望ましい。

 インターネットの国際性を反映して、欧米では国際協調の呼びかけがはじまっている。いわゆるG8各国の間では、ハイテク犯罪対策政府・産業界合同会合がすでに二回開催され、三回目は2001年5月に東京で開催された。第一回の会合は2000年5月にパリで開催され、個人の自由と私生活の保護、政府のハイテク犯罪への対策能力の向上、あらゆる関係者に対する適切な訓練、ハイテク犯罪対策に向けられた明白かつ透明性の高い枠組みなど、各テーマに考慮した解決策の模索が必要だとの共通認識が形成されている。2000年10月にはベルリンで第二回会合が開催され、ハイテク犯罪対策に関して、犯罪者の追跡・特定、犯罪の予防、産業界との一層の協力関係構築という3テーマについて、率直かつ実質的な議論を行ったとされている。

 この会合に際して、日本からは警察庁、外務省、法務省をはじめとした官庁、国内企業・団体が参加しているが、会合にあわせてオープンな議論が行われているとの話は聞こえてこない。むしろ、欧米の呼びかけに政府が応じ、関係業界の代表者と様子見のために出席しているだけのように見えるという。

 ブロードバンド時代には、ネットワークは国際的に接続され、ネットワーク犯罪も国際的に実行されるので、犯罪対策にも国際協調が必要となる。国内でもすべての関係者によってオープンでフランクな議論を開始し、またこのような国際会合にアクティブに参加をすることが望ましい、と筆者は述べている。

豊福晋平(主任研究員)