情報バリアフリーに関する欧米の動向−新たな非関税障壁か
講師:中村広幸
5月30日、情報環境研究所代表取締役/GLOCOMフェローの中村広幸氏を講師に迎え、標記講演会が実施された。本稿はその講演の概要を報告するものである。(なお、29日に電子情報技術産業協会(JEITA)で同種の講演会が開催され、カリフォルニア州立大学のBud Rizer氏が関連する講演を行っているので、その一部も紹介し、読者の参考とする。)
情報バリアフリーは、情報自体のバリアを解消し、また情報へのアクセスに関わるバリアを解決することによって実現する。しかし、前者は言語や表記に関わる問題であり、解決には長い年月を要するため、ここではアクセスに関するバリアフリー化の動きを中心に、特にアメリカでの最近の話題を紹介した。
情報アクセスへのバリアは、ハードウェア、ソフトウェア、制度や社会環境のすべての側面に存在している。アメリカでは、1990年に制定されたAmericans with Disabilities Act (ADA)を基本法として、その解決に向けての取り組みが強化されてきている。その一連の流れの中で、1973年に制定されたRehabilitation法が1998年に改訂され、508条が新たに設けられた。
508条は、連邦政府および関連機関、さらには連邦から助成を受けている機関(各州政府や各大学)が調達する電子・情報機器、ソフトウェア、コピー機などのデジタル機器やホームページは、障害者にとっても利用可能でなければならないと定めている。利用可能とはどのような条件を満たすことなのかということについて、2001年4月に連邦調達基準が官報に公告され、6月から508条が適用されることになっている。
※Rizer氏によれば、各機関は6月21日までにそれぞれのバリアフリー機器の調達計画を作成し、以降は計画に沿って調達を実施することになっている。その計画は、すでに利用しているコンピュータなどを即日破棄するというようなものではなく、むしろ時間をかけて障害者にも利用可能な機器に入れ替えていくというもの。
アメリカの大学では、映像を送信して遠隔講義をすることがある。しかし、映像だけでは、聴覚障害者は理解できない。そこで、これからは映像に字幕を付加して送信することが必要になる。各大学は、いつまでに字幕を付加するようにするか、計画を作成し公表しなければならない。連邦機関が提供するホームページも同様に、たとえば視覚障害者が、音声読み上げソフトウェアを利用して聞き取れるように作成しなければならない。障害者は、不満・不便を感じたら訴えることができる。
マイクロソフト、IBM、サン・マイクロシステムズなどの各社は、政府からの要請もあって508条への対応を強化している。PDFファイルで有名なアドビ社も同様である。カナダでは、ホームページの見え方や操作方法を統一するように政府が自ら動き出し、そのような政策を通じてカナダ系各社の508条への対応能力を強化しようとしている。ヨーロッパ系のノキアなども同様である。一方で日本企業の多くは、508条のインパクトを図りかねている状態にある。
この法律にうまく対応できなければ、アメリカにおける市場を失う恐れがある。508条は連邦政府とその関連機関だけに適用されるルールであるが、アメリカでの同種の問題に関する動向を見ていると、次第に民間企業にも波及するだろうし、その先には諸外国にも同様の要求をするようになると予測される。「日本政府の英文ホームページは障害者にとって利用できないもので、アメリカ市民の利益に反する。日本語のホームページについても同様で、日本国民にとっても利益に反する。したがって早急に改善すべきである」という論理で、米国製品の調達を暗に要求するかもしれない。いわば「新たな非関税障壁への懸念」である。
しかし、この情報バリアフリーの問題に関しては、むしろそれを好機として捉えて、日本企業は自社製品を積極的に改良する方向に動くべきである。高齢者人口は増加の一途をたどっており、これら高齢者は何らかの障害を抱えるようになる。そのことを考えても、この分野の市場は拡大傾向にあり、日本企業は、特に情報家電分野を中心に取り組みを強化すべきであるというのが、中村氏の主張であった。
山田 肇(主幹研究員)