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『情報政策とポスト開発主義:理論的考察』

山内康英・前田充浩・澁川修一著

 今や各国政府はこぞって社会の情報化や情報産業を推進するための政策を形成し、実施している。しかし、情報通信産業における急速な技術変化などもあり、どの国の政策も紆余曲折を余儀なくされている。日本の場合はどうだろうか。日本政府がインターネットを基軸にした情報政策に関する本格的な取り組みを始めたのは、1990年代後半になってからである。しかし、依然として十分な成果が上げられているという評価には至っていない。 著者らによれば、この理由の一つは産業としての情報通信産業が、そのライフサイクル(突破、成熟、衰退)の中で占める位置にある。情報産業は、新しい産業が急成長する「突破段階」にあり、これまでの開発主義的な産業政策が対象としてきた「成熟段階」の産業とは大きく異なっている。そのために、情報通信産業における従来型の政策は成功しえないのだという。著者らの結論を先取りするならば、これは日本政府による(個別の)情報政策が失敗であったということよりも、そもそも政策を形成するためのメカニズムが、突破段階の情報産業という新しい事態に対応しきれていなかったことが原因だということになるだろう。

 成熟段階の産業、つまり既存産業に関する政策形成の過程をめぐっては、利害関係者の声が反映される機会が確保され、適切な政策の形成に寄与している。著者らは、政策決定の過程を連合競争モデル、あるいは戯画的に「ムカデ競争モデル」と呼んでいる。このモデルでは、政策決定過程のそれぞれの段階が、ムカデの「体節」に、またその体節ごとにもつ利害関係者のネットワークが「足」に見立てられ、全体として一つの「政策ムカデ」を形作るものとして表現される。ところが、情報通信産業は、いわば「新参者」であり、彼らの利害は、このムカデ競争の中では反映される機会をもたない。

 著者らは、ムカデ競争の中で関係者の利害を調整する場として「審議会」がこれまで果たしてきた役割を評価するが、突破段階の産業においてはこのメカニズムが機能しない可能性を指摘する。審議会方式が機能するためには、関係する利害関係が比較的少数であること、業界団体など利害関係者を代表するトップダウンの組織が形成されていること、またその組織内での拘束力が強いことなどが前提となる。ところが、突破段階にある産業の場合、利害関係者を特定することが難しいだけでなく、利害そのものの特定も困難であるため、この前提を当てはめることができない。このような変化の時期にあっては、著者らが言うように、従来の審議会とは別の、「複数の利害関係者の調整のルート、すなわち複数の政策連合間の競争を作り出す必要がある」ということになる。これが突破段階における産業への政府の関わり方なのである。

 現在突破段階にあると考えられる情報産業、環境産業、バイオ産業においては、利害関係者が明らかでないために、これらの産業のための政策形成に必要な政治的資源や情報を供給できない問題点を著者らは指摘する。これらの産業は、これからの一世紀におけるわれわれの生き方の新しい可能性を拓くものとして期待されるだけに、彼らの声が適切に反映される新たな政策連合が編まれ、必要な政策が形成されることの意義は少なくない。

上村圭介(主任研究員)

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