『エコマネーの新世紀』
講師:加藤敏春
2001年6月13日、経済産業省関東経済産業局総務企画部長の加藤敏春氏を迎えて、新著『エコマネーの新世紀』のIECP読書会があり、加藤氏の前著『エコマネー』以降のエコマネーについてお話を伺うことができた。以下はその要約である。(『エコマネー』についてのIECP読書会レポートは『智場』99年3月号を参照
1.エコマネーの世界
エコマネーは、マネーの世紀(=20世紀の画一的な経済価値)の限界と反省の中から生まれてきた。それは経済以外の、環境や自然との共生、少子高齢化の中での介護・育児・教育などコミュニティの多様な価値を多様なままで評価し、媒介できるマネーの追求が原点となっている。従来のマネーは、商品・サービスの使用価値と市場で取引される交換価値とが乖離している。インターネット上のIPはあたかも貨幣を代替して、その使用価値をネットワーク上で流通させる働きをする(ASPサービスなど)。これは、所有することよりも使用することへの価値のパラダイム変換である。リナックスも、オープン化の流れに乗って(ハードやソフトはタダ)、そのサービスで収益を上げるというP2P型ビジネスモデルとして開発されてきた。
2.エコマネーの拡大
現在、世界では、地域だけで流通する地域通貨(LETSなど)が2,500以上存在し、日本では、私が提唱した1997年から2年間は動きはなかったが、99年以降、北海道栗山町、千葉市、東京多摩地域、長野県駒ヶ根市など100以上の地域でエコマネーが導入された(2001年1月現在)。エコマネーの活動を支援する「エコマネー・ネットワーク」(99年設立)は、2000年から、エコマネー・ファンド事業(企業の社会貢献事業)やエコミュニティ企業コンソーシアム(企業との関連事業)など企業とのネットワークを推進している。
3.エコミュニティの創造
こうして、インターネットを活用したコミュニティビジネスが発展するエコノミーと、生活者が帰属するPPP(Public Private Partnership)型のコミュニティ、そしてエコロジーの3つの輪の重なる所にエコミュニティ (Ecommunity)が実現する。これは「モノとエネルギーは豊かに、情報とサービスは乏しく」という20世紀ライフスタイルに訣別し、「豊かさ」から「幸せ」へと目標の転換を意味する。そのためには、「知足(足ることを知る)」、「アフォーダンス(Affordance:環境の中に実在する意味ある情報)」、「共生(自他、公私の共生)」、「コンヴィヴィアリティ(Conviviality:時間消費の楽しみ、相互扶助)」、「知行合一(個業への行動)」によってエコライフを目指すのである。
4.エコマネーの課題
エコマネーは、地域の生活者自身が発行し、住民主体の組織で運営される。一物多価の取引を相対で決める場合、売買の間の共通の価値尺度が必要となるが、最も信頼されているのは時間を単位とした価値 (Value for time)である。現在、市場で交換価値のつかないNPOやボランティアの活動は、インターネットによって時間の交換・贈与が可能となり、「トキ」が資源となる(時間革命)。実際には、一定のゆらぎ(2倍以内)の範囲内で「互酬」を背景に一物多価の価格が構築されていく。ここではゆらぎの値づけの方が、労働力の熟練度など個々の状況を考慮しており、むしろ不満が少ないという日本の「結い」の知恵が生かされている。従来のマネーには、交換手段、計算単位、価値保蔵の3大機能があるが、エコマネーは貯めても利子がつかず、あるいは減価するという有限の価値である。このため、エコマネーを資産運用する意味がなくなるので、現在の価値を優先して投資するようになり、お金の循環が経済の循環を活発化し、実物資本を成長させる。エコマネー取引は債権債務関係ではなく、メンバー間の信頼醸成が前提となり、重要な点は、従来のマネーの欠点をリプレースすることではなく、社会をどう発展させるかというイノベーション生成の視点である。
小林寛三(フェロー)