情報社会学をめざして
公文俊平(GLOCOM所長)
前田充浩(政策大学院大学助教授/GLOCOM併任研究員)
山内康英(GLOCOM主幹研究員)
山内 GLOCOMでは「情報社会学」という新しい学問領域の設立を構想しています。公文先生は9月にアメリカを訪問して、先駆者と目される何人かの研究者と対談をされますが、それに先立って、この研究領域の現状がどのようになっているのか、従来の学問のディシプリンと比べて、情報社会学の特徴をどのように考えておられるのかをお話しいただきたいと思います。
公文 「情報社会学」という言葉は、「情報・社会学」ではなくて、「情報社会・学」だと考えています。情報学一般とか、情報にかかわる社会学を考えるというものではありません。近代文明のある特定の局面において出現すると考えられる情報社会を対象にした学問です。ですから、狭い意味での社会科学だけではなくて、必要ならば他のいろいろな分野の学問も取り込んで、対象としての情報社会を多面的に研究するというのが情報社会学という言葉を選びたい理由です。
山内 ということは、産業化や文明の推移の中で、現段階の局面やフェーズを考察するための学問と考えてよろしいですか。
公文 そうです。今後、100年なり200年にわたって続くと考えられる情報社会とは何であり、どういう問題があるかということです。
「システム科学の方法」にみる情報社会学の方法論
前田 そのための方法論は特に限定せずに、使えるものは何でも使うということでしょうか。
公文 そういう面もあるでしょうが、その中でも、まさに情報社会の出現とともに出てくるような学問の新しい方法論というものがあるだろうと思います。その一つの可能性として、私が昔から関心を持っているのは、ラッセル・アコフが1970年代に言い始めた「システム科学の方法」といわれるものです。それは、それまでの20世紀の自然科学、社会科学を含めた基本的な古典物理学がパラダイムになっているような科学の方法に対置して考えられた方法です。古典的な科学の三つの柱は、アコフによれば、「還元論」と「分析主義」と「機械論」であるということです。
「還元論」という考え方は、私たちが関心を持つ学問や研究の対象を、その要素に分け、要素をさらにもっと小さな要素に分けていくと、最後には究極の要素に到達する。そして、対象はそうした要素とそれらの間のさまざまな関係の集まりからできているとする考え方です。しかもそこで想定されている要素間の関係は、基本的にリニアな関係ですから、要素間の関係を一次結合して足しあげていったものが全体になると考えているのです。
「分析的方法」とは、ある問題を解決しようとする場合に、それをいくつかの構成要素に分けて、それぞれについて対処すべき方法を研究し、それぞれに対処していけば全体の問題も解決されるはずだとする考え方です。たとえば教育の改革をしようとすれば、初等・中等・高等教育等のそれぞれを改革するための委員会を作り、初等教育委員会については、国語、算数、理科、社会等々を扱う小委員会を作り、等々という形で仕事を進めていくのは、分析的方法の典型的なものです。
前田 「機械論」は、因果関係を前提とするということですか。
公文 はい。アコフによれば、「機械論」というのは還元主義的な因果論です。ほとんど一つの(単線的な)因果関係でもって、ものごとは変化していくと考えるのです。アコフは、以上の三つの考え方で特徴づけられる科学の方法は、対象の種類によっては上手くいく場合もあるけれど、これからの時代の科学の方法論というには、どうも貧しいのではないかといっています。
新しい科学的方法論とは
山内 それは、全体は要素の単なる集合ではないということでしょうか。
公文 全体は要素とその関係とから成り立つのですが、古典的な方法の場合は、関係は単純な線形の因果関係であって、一次結合で全部が表せるはずだと考えるわけですね。
山内 システムは要素の集合ですが、システムとしたときに何か要素には還元できない創発性があるという言い方をしますね。
公文 それはむしろ新しい考え方であって、還元主義の考え方は、全部要素に分けて、要素間の関係さえ知れば、それらを総合すると全体についての知識が得られるというものです。それに対してアコフは、新しいシステム科学の方法として、還元主義に対しては「拡張主義」、分析主義に対しては「構成主義」、機械論に対しては「目的論」を対置するという考え方を提唱しています。
まず、「拡張主義」の考え方は、自分の考えている研究の対象は、実はもっと大きな全体の一部であって、そしてその大きな全体を見ると、さらに大きな全体の一部であるというようにずっと視野を広げていって、研究対象を、ある意味ではその中のいちばん小さな要素なんだと考えることによって、全体の中にそれを位置づけるというものです。20世紀に、記号論から言語学へ、さらにサイバネティクスからシステム論へと進んでいった新しい科学の流れは、より大きなもの、普遍的なものを追求するという流れでした。
「構成主義」は、そういったより大きな全体の中で、われわれが考えている対象は他のものとどういう関係を持って、どんなふうに全体を形づくっているか、全体の中でそれが置かれている位置だとか果たしている役割といったものに、関心を向けます。もちろん、分析とか還元をまったく否定してしまうわけではありませんが、システム論の中心はこちらのほうにあるのです。
さらに第三の「目的論」でいちばん重要視されているのは、対象の観察者や研究者自身がある目的を持っていて、それに合わせて対象を切り出したり、その対象と他の事物との間の関係を探ろうとしていることです。それもすべてを徹底的に調べつくすというよりは、限られた時間や能力の範囲内で、自分の目的に即して、ここまで調べれば十分だろうとか、とてもこれ以上は無理だといったところで、調査を打ち切るということが重要です。