GLOCOM - Publication

Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

シリコンバレーの企業「E2open」訪問記

宮尾尊弘(GLOCOM主幹研究員)

 この夏のカリフォルニア出張の間にシリコンバレーに行く機会があり、日本企業とも国際大学とも関係の深いスタートアップ企業を訪問しましたので、その時の報告をいたします。

 その企業の名前は「E2open」(イー・トゥー・オープン)で、その技術担当チーフのアイヌール・ウーナル女史(博士)が、国際大学の国際経営学科のディーンの職に応募して来日された際に知り合ったことで、ぜひ一度自分の会社を訪問するように誘われたのがきっかけでした。また、国際大学の国際経営学科1年生で台湾出身のトニー・シェー氏が夏の間インターンに行っている会社でもありました。

 そこで7月末にサンフランシスコ空港に近いベルモントという町にある「E2open」の本社を訪れて、丸2日間その会社のオフィスを使わせてもらい、創設者を含むあらゆるメンバーにインタビューし、その会社のゲストハウスにも2泊して、今シリコンバレーで何が起こっているかを観察してきました。

コラボレーション(共働)の重要性

 この会社の創始者のポール・スターン(元IBM財務マネジャー)が強調しているのは「インターネットの本質はコミュニケーションにある」という考え方で、それに基づいてB2Bの電子商取引で戦略的に重要なコラボレーションのソフトを開発しています。

 1年前に生まれたばかりですが、日本からは松下電器、東芝、日立製作所、さらにアジアからAcer, LG Electronics, また北米からLucent Technologies, Nortel Networksなどエレクトロニクス業界を代表する企業と、Crosspoint Venture PartnersとMorgan Stanley Dean Witterといった有力なベンチャー・キャピタルによって設立されました。ちなみに、E2openの日本支部のトップは松下から転職した60歳の人物とのことでした。主な事業の重点は以下の三つです。

  1. サプライチェーン・コラボレーション
  2. プロダクトデベロップメント・コラボレーション
  3. オープンマーケット(オークション)・コラボレーション

 これらのコラボレーションが、1対1のコミュニケーションの積み重ねではなく、多数対多数で同時並行的に実施可能なソフトを開発して提供しているとのことです。

 松下や東芝や日立はこのようなソフトを活用して、新しいIT関連の商品開発をグローバルな視点で行い、部品調達をオープンマーケットで行い、最終生産は例えば中国で、ソフトの開発とサポートはインドで、また最終商品はグローバルなマーケットで同時販売するといった国際分業を、より迅速に正確に行おうというわけです。

 詳細は、ウェブサイト<http:www.e2open.com/japan>をご参照ください。もともとの英語のホームページ<http:www.e2open.com>では、4カ国語(英語、日本語、中国語、韓国語)が選べるようになっており、大変見やすいつくりになっています。

 シリコンバレーの本社では約200名が常時働いていますが、その多くはアジア人で、あらゆる国から来ています。例えば、ウェブマスターはタイ人、ネットワーク管理者はフィリピン人、ソフト開発技術者はインド人、財務担当者は韓国人、アドミニストレーション担当はチベット人といった具合ですが、皆が協力してよく働いているという印象でした。

 人種や宗教などが異なる人々が、なぜ協力して仕事を効率的に進められるのかという私の問いに対しては、誰もが異口同音に「自分たちは人種や宗教以上に、技術者や経営者としての成果や能力を発揮して評価されるという共通項を持っていることが、協力して仕事ができる最大の要因」と言っていたのが印象的でした。この点は、人間的な側面を強調する傾向がある日本的経営では実現し得ないのではないかと思った次第です。

 シリコンバレーでは、私が滞在した3日間でも毎日のように、大きな通信関係の会社のレイオフが発表になったり、小さな会社が会社ごとなくなってしまったり、といったニュースが絶えなかったのですが、この会社のメンバーは大変強気で、今は競争相手もあまりいないので、顧客が満足できるような良い仕事に自分たちがじっくり取り組めると意欲を燃やして、皆(特にアジア系の技術者は)協力して遅くまで仕事をしていました。

多数対多数のアプローチ

 興味深いことは、多数対多数(many to many)のコラボレーションというアプローチを、商品だけでなく、自分たちの仕事の進め方やオフィスのレイアウトにも取り入れて、それぞれ異なった仕事を部門単位でうまく連携をとって情報を共有してまとめあげ、それをトップに報告して決断を仰ぐ、という体制が効率的に作用しているようで、日々新しいアイデアを取り入れて自分たちの経営をより良くしていこうという工夫がみられることです。また全社的にも、それぞれのプロジェクトがどの段階にあるかが誰にも一目瞭然となるようなソフトの導入が図られており、仕事をしている人たちの励みと効率的な経営の両方を可能にしているようでした。

 職場のレイアウトは一人ひとり仕切られていますが、個室は一つもなく、大部屋の中で人が自由に動き回って交流しやすい設計になっています。例えば通路が会社内を一周できるようにできているので、いろいろな人の仕事振りを覗きながら動き回ることができます。この通路が、皆につながるプラットフォームのアイデアに対応しているようでした(GLOCOMもホールの回りを一周できる通路がありますが、そこを回ってもメンバーの仕事ぶりを見ることができません。この会社では、ちょうどその通路に面して皆が誰とでもオープンにつながっているというイメージです)。

 無線LANが導入されているようでしたが、私は通常のイーサネット接続ですぐ誰とでも(GLOCOMとも)つながり、問題はありませんでした。それよりも、人と人との自由な交流で新しいアイデアや決定が進むメリットの大きさを改めて実感した次第です。

 そのおかげもあって、短時間ながら多くの人にインタビューして、会社のことだけでなく、特にハイテクIT不況がどうなるかの予想なども聞いて回り、よいアイデアを得ました。その成果は、また論文などの形で後日発表する予定です。

 今回の訪問の窓口となってくださったアイヌール・ウーナル女史は、来る10月16日(火)13:30〜17:30に、アーク森ビルの国際交流基金会議場で開催されるGLOCOM国際情報発信プラットフォーム主催の国際フォーラム「情報化社会のリーダー役を果たす女性と外国人」に、パネリストとして参加される予定です。この国際フォーラムに関する情報については宮尾<miyao@glocom.ac.jp>までお問い合わせください。

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