GLOCOM - Publication

Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

政策立案におけるメディア戦略

舛添要一(GLOCOMフェロー)

前田充浩(政策研究大学院大学助教授/GLOCOM客員研究員)

山内康英(GLOCOM主幹研究員)

前田  舛添先生は、去る7月の参議院議員選挙で、160万票でトップ当選されました。先生とGLOCOMの関係はすでに長く、情報化に伴うさまざまな変革について、われわれとともにいままで歩みを進めてきたわけです。その舛添先生が今回、大きな舞台に立たれたということで、われわれとしても大変、期待を高めているところです。今日は、先生に情報化とからめて、今後、参議院議員舛添要一として何を目指し、何に取り組もうとしているのかについて、おうかがいしたいと思います。

舛添  実は国会議員になる気持ちはまったくなくて、行政の長としていちばん大きい東京都で新しい実験をやってみたいと思っていましたが、石原慎太郎氏が出てきて負けてしまいました。でも、彼が辞めるかもしれないので、2年後の都知事選に出ようかなと。ところが、小泉首相に「出たら」と言われて、自分でも勝てるだろうという気がしたので出たわけです。ある意味では偶然です。選挙の1週間前ですから。

 選挙戦の総括的なことを言うと、確かにテレビに出ていることは情報化社会ではとても有利なことなので、それが持つ集票効果はあります。ただ、テレビに出ていても落選した現職議員はいるので、テレビだけの力ではないだろうと思います。では、どういう力で当選するのかというと、組織です。まさに自民党ですね。自民党は、比例代表で出る場合に、「あなたの傘下にある組織は何か」という調査があります。例えば、特定郵便局、下水道組合、医師会などです。青木幹雄氏(参議院幹事長)が、拘束から非拘束名簿方式に変更した一つの理由は、非拘束名簿だと、普通は組織を持っている人でなければ出られない。各候補者が組織を持っていて、その組織がフル稼動する。稼動したかどうかは、選挙の結果をみればわかります。例えば、下水道組合が集票装置として稼動していないところには、「あなたのところはもう下水道は作ってあげない」という脅しが効くわけです。きわめて脅しの効く選挙になるだろうというつもりでやったわけです。

 ところが、現実に動かしてみたら、まさに情報社会の申し子のような小泉純一郎氏が出てきて総理大臣になってしまった。純ちゃんグッズが売れて、あらゆる抵抗勢力も、純ちゃんをかついでやったわけです。他方で組織選挙がきかなかった。特定郵便局の大樹会というのは、100万票あると言われていたのが、結果は47万票でした。逮捕者が20人近く出て、高祖議員は辞職しました。つまり、いかに無理をしたかということです。日本医師会があるから医療制度の改革ができないと、武見太郎氏の時代から言われていましたが、武見敬三氏は20万票くらい、歯科医師会はたった10万票だった。自民党は2,100万票を比例で取っているのですが、ということは、郵政3事業を民営化するといって反対するのは47万人だけだろう、2,100万人は安泰だ。医療改革も20万人が反対するだけだということが見事にわかったんです。

インターネットでは選挙に勝てない

舛添  私の場合は組織がありませんから、全国をかけめぐって、いかに情報化社会の中でメディアに載るかということを考えました。メディア戦略は、都知事選のときに成功した面もありますが、失敗した面もあったので、今回は緻密にメディア戦略を練りました。いま、インターネットの効果は、日本の社会の中ではきわめて限られていて、過大評価した人が失敗しているんです。加藤紘一氏もそうです。今回の選挙では白川勝彦氏。私も、都知事選挙のとき、石原慎太郎という要素ももちろんありますが、やはりインターネットで失敗したんです。インターネットでは私の支持率はダントツでしたから、絶対勝つと思いましたよ。ところが現実はそうではありませんでした。いまでも、当選以来、靖国の問題、不良債権の問題、ミサイルの問題、テロリストの問題などについての発言を続けているので、ものすごい数の電話やメールがきます。例えば、「サンデープロジェクト」に出て金融の問題について発言しますよね。そうすると、10通、20通のメールがどんどん入ってきます。それを全部信じて読んでいると、ノイローゼになってしまいそうです、よっぽど強靭な神経の持ち主なら別ですが。だいたい批判する人がメールを送ってくるわけですから。賛成する人が1人いたら、10人は反対ですね。

 いまの日本だと、電話かインターネットのどちらをとるかと言われたら、電話ですね。つまり、電話をかけてくる人の方が、まだ普通のシティズンの平均像です。インターネットでくるのは、非常にオタッキーです。しかもほとんどが匿名です。まさに「加藤の乱」の失敗は、これだったんだと思います。加藤氏は自分で、「国会議員の中ではいちばんインターネットを使っているだろう」と言っているのですが、最近、加藤氏と話をしたとき、インターネットの話題も出ました。彼は、あの前後、4万通のメールをチェックしたんだそうです。そして、例えば、いい意見をくれた前田さんという人が石川県にいたとします。そうすると、その人に連絡をとって「いい意見をありがとう。仲間を集めてくれませんか」と言って石川県に出向いてミニ対話を繰り返しながら、自分の復権をはかってきたというのが、加藤氏の動きなんです。ただ、そういう人でも20人集めるのが精一杯、それでも多い方だそうです。つまり、1人でこもってメールを打つのはいいけれども、社会的なつながりで、どこかに集まって話を聞こうというのは苦手な人が非常に多い。選挙でいちばん大切なのは、つながりをもとにヒューマンネットワークをつくっていく、それが票につながるかどうか、ということです。それをやってくれる人がインターネット族かというと、きわめて疑問です。加藤氏は、いまでは、インターネットに非常にネガティブになってきています。

票を動かしたワイドショーとスポーツ紙

舛添  しからば、どうするのか、というと、非常に原始的に言うと、テレビメディアを上手に使うということですね。もう一つは、スポーツ新聞です。都知事選のときには、スポーツ新聞にまで手がまわらなかったので失敗しました。普通の新聞では、私が網膜剥離だということは一行も書かないんです。つまり、公平性の名のもとに、選挙が始まったら各候補者のことは一行も書かないわけです。テレビでも一度も映像は流しません。後ろ姿を映したり、たすきも名前の部分は消して放映します。 

 そういう状況の中で何ができるかというと、スポーツ新聞の利用です。スポーツ新聞をいかに取り込むかというのが勝負です。私は、網膜剥離で1週間病院に寝ていたのですが、その間、スポーツ新聞は、私の病状を毎日掲載していました。ベッドの中にいて選挙運動ができたわけです。女性はあまりスポーツ新聞を買いませんが、出勤前のテレビ番組で「今日のスポーツ新聞」というコーナーがあって、そこで一通り知るわけです。そうすると、選挙報道としては、ますぞえ要一の「ま」の字も言えないにもかかわらず、スポーツ新聞紹介のところでは「舛添要一は網膜剥離で入院したそうですね。選挙が大変ですね」と言えるわけです。これは、メディアミックスで、スポーツ新聞というゲリラ媒体がテレビにのる方法なんです。小泉首相の手法もこれです。それをやりすぎたのが写真集です。(笑)

 政治におけるインターネットの位置づけというのは、過大評価しても、過小評価してもいけないと思います。都知事選のときには、メールの返事を書くのに相当の時間を費やしたのですが、今回はいっさいやりませんでした。受け流しでした。そういうインターネットと政治の場を考えたときに、古代ギリシャ・ローマ時代からやっているフェース・ツー・フェースのどろどろとした人間関係と、これを遮断するインターネットがあり、政治というのは、そのどろどろとした人間関係をある意味では映したものですから、候補者にとってはそこのところの戦略の立て方が非常に難しいのです。結果的に、160万票という得票を見れば成功したということです。今回の参議院議員選挙を振り返るとそういうことでした。

 つまり私は、病院の中にいながら勝つ方法は何か、ということを考えなければならなかった。ホームページは選挙期間中はいじってはいけないんです。ですから、ホームページ上でも病気については言えませんから、スポーツ新聞に載せるしかない、ワイドショーでとりあげてもらうしかないということでした。もちろん、謹厳実直で朝のワイドショーなんて見ない、『朝日新聞』しか読まない、テレビは見ずに夜は読書をするだけ、もちろんインターネットなんてやらない、という人は、まず、私が立候補したことを知りません。第二に、病気で入院したことも知らない。さすがに、投票結果は『朝日新聞』にも出るので、その段階で初めて「出馬して当選したんですね」と言った人がいました。目のことを知らない人も結構いるので、情報化社会といっても、人によってツールが全然違ってきていると思います。

 今回は、地方も含めた全国のすべてのマスコミ500社にファクスで、舛添要一がいつどこにいる、ということがわかるように知らせました。そうすると、ローカル紙を含めて必ず取材に来るわけです。そのシステムがいちばん有効でした。選挙という限られた時間とスペースの中でやってみた場合、情報社会とのからみで、非常にいろいろな示唆があると感じました。

山内  私もそのお話を聞いて思い出しましたが、先生の網膜剥離のことは、電車の中で前に座っている人が読んでいた新聞で知りました。考えてみれば、あれは他の媒体には出なかったんですね。『東京スポーツ』だけではなかったんですか?

舛添  すべてのスポーツ新聞です。選挙におけるメディア戦略を知らない人が多かったので、今回は、そういう戦略が成功したということかもしれませんね。とにかく選挙戦についてはそういうことです。

前田  先生自身は、どういうところから、その戦略を考案されたのですか?

舛添  今回選挙にかかった費用は800万円でした。実働部隊は7人です。これは、都知事選の経験があって、野末陳平氏が途中から私の陣営に入ってきたので、野末氏のノウハウをもらったのですが、彼は組織のない選挙をやるプロですね。個人タクシーができるくらいに東京を知り尽くしていて、何時何分にどこの商店街は、どこの道が一方通行になって、どこの店に人が多いかということを知っているわけです。朝8時からまわってもうるさいだけですし、午前中にやっても無駄ですね。夕方、「舛添さんがしゃべってるな。電車1本遅れてもいいからちょっと聞いていくか」というように、仕事帰りの人に聞いてもらう。組織に頼らない選挙をいかにしてやるのかということです。

 うぐいす嬢やユニフォームというものをいっさいやめて、まったくいままでの選挙とは違うことをやりました。私のところでは、万歳の場面はありません。目が痛いこともありましたが、酒も飲みませんでした。達磨に目を入れるとか、そういうこともやりませんでした。いままでの概念と違うことをやるということは都知事選のときと同じでした。ただ、都知事選では、インターネットを過信しすぎたという面がありましたから、今度はインターネットをわざと評価しなかった。結果的に成功でした。

 この前は、サンプラザ中野さんの曲をバックミュージックに使い、政策をエンドレスでテープで流すということをやりました。これは、歴然とわかるのですが、遊説はものすごく効果があります。インターネットの時代だからなのかどうなのか、データを見ると見事にわかります。自分が出向いて演説して握手してきた所と、目が悪くなって行けなかった所では結果が全然違います。やはり自分が行ったところは、かなり伸びています。結局、人が何を求めているかというと、フェース・ツー・フェースで、同じ空間を共有すること、インターネットではなくリアルな空間を共有することなんです。「謦咳に接する」と言いますが、まさにつばが飛んでくるような距離で接して、握手をするということです。握手ほどリアルなものはありませんね。例えば、ある人が、「舛添さんがわざわざ秋田まで来てくれて、雨の中を歩いていて握手したよ」と、どこかで飲みながら話したとすると、そこにいた人たちは、「そうか、まだ誰に入れるか決めてなかったから舛添さんに入れよう」ということになるんです。

不況の中で構造改革をどう進めるのか

山内  先生は現在、介護、外交、不良債権の問題に注力されていらっしゃるのですか。

舛添  この日本をどうするかということが基本的にあるんですが、いろいろなことを変えなければいけませんので、構造改革は必要です。これは、ある意味で国民のコンセンサスがあるので、小泉政権がもっているわけですね。正面からそれをやると、当然のことですが、ものすごいデフレ圧力で、そうすると、財政の方でブレーキをかけているわけですから、つまり国債も30兆円でふたを閉めるといっているので、どこかでアクセルを踏む必要があります。それは金融しかないでしょう。それで、「日銀の金融政策をもっと緩和しなさい」と言いつづけていますが、そればかりがピックアップされてしまっています。

 もう一つは、金融政策だけではなくて、福祉政策を含めた問題です。「子どもができたんだけど、預ける保育園がないから女房が仕事を辞めた。それで収入が半分になった。2人で60万円稼いでいたのが30万円に減った」という話も珍しくありません。こういう場合に、手当てをしなければなりません。私の場合は、母が倒れた、どちらかが仕事を辞めて介護しなければならないということでしたが、そちら側でも援護射撃をしなければなりませんし、金融側からも援護射撃をしなければなりません。ただ、いっぺんにはできません。そういうときに今度はテロの問題も出てきました。

山内  さきほど医師会の話がありましたが、従来は数の選挙に支えられていたネットワークが崩れることによって、いろいろな既存の構造が変わる可能性が出てきたとお考えですか。

舛添  これは、まさに既得権益の力が、いかに少ないかということがわかってきた。所属がなくなってしまったんです。例えば、額面通り受け取れば、薬剤師会の人でも私に投票した人がいるわけです。つまり、みんながどこかの所属を持っていて、自分の組織から出ている人に入れれば、私のところにはこないはずです。自分が属している集団に対するロイヤリティがなくなったというか、属する集団が複数になればなるほど、その一つひとつの重みが少なくなっていくわけですから、自由に選択できるようになります。つまり、これは、社会構造の転換なのでしょうが、会社人間の終わりということと非常に適合的です。

 郵便局というのは特殊なんです。しかし、一郵便局員の立場にたてば、自分は郵便配達が好きだけど、別に宅急便の配達でも食べていければいいと思っている人が増えれば、郵政事業云々で投票する人はいなくなってしまいます。選挙違反は誰かが漏らしているからばれるのであって、それだけロイヤリティが薄れてきているということです。社会は大きく変わっています。にもかかわらず、政治も役所の組織も変わらないですね。ただ、政治は、かなり急速に変わりつつあると認識しています。抵抗勢力がその通り抵抗するなら、こんなに選挙で勝つはずがありません。総裁選挙で小泉氏が勝ったという現象はまさにそうで、自民党の地方政治家で、利権にまみれているような人でも小泉氏に入れている。なぜ入れているのかというと、自分の利権は失うかもしれないけれど、権力から離れたら元も子もないという判断の方が大きかったのだと思います。

山内  次の権力の再配にあずかれますからね。

舛添  そうです。権力の座から離れてしまったら、虻蜂取らずになってしまう。

山内  小泉政権は今後とも、継続するとお考えですか?

舛添  政策的には行き詰まっています。ただ、次になる人がいません。そういうことで継続するだろうと思います。ポリシーミックスから言って無理なんです。構造改革をやりますと言ってデフレ圧力をかけている。きわめて不況ですから、財政でやるか金融でやるかしかないわけです。ところが、財政を出動させないということですから、金融しかない。しかし、金融、つまり日銀は言うことを聞きません。私が当選してなんだかんだ言ったら「金融緩和はなんの効果もない」と言っておいて、8月14日に金融緩和をやっている。9月18日にまたやりました。

 小泉政権にはアキレス腱が二つあって、一つは実体経済を知らないということです。それは、二世政治家の弱いところです。つまり、彼は、父親が亡くなって大学院のときに後を継いだわけですから、いっさい実業の経験がないんです。ですからバランスシートとか、会社の減価償却がどうだということについては、まったくわかりません。財務指標というものも見たことがないでしょうから。

 もう一つは外交です。あまり興味もなければ知識もない。これを支えなければなりません。「9月経済危機、10月外交危機で非常に危ない」と私は言いつづけているので、政権からも睨まれているんですが、外交危機が前倒しできてしまったので、対応に苦慮しています。ただ、これは政治的に見ると、政策転換する最高のチャンスです。絶対に緊縮でやるつもりだったが、あのようなテロで株価が1万円割れしたでしょう。このまま続けられないから…ということで、変えることはできると思いますが、それはまだやりませんね。ですから、政局は非常に難しいのですが、支持率はまだ高いというのが現状です。もし、小泉首相がいなくなったら誰がいるのかといったときに、本来なら民主党の菅直人氏や鳩山由紀夫氏の名前があがるはずですが、さらにひどいというイメージがあるので野党にはいきませんね。しかし、政権党の中で権力をたらい回しにするとなると後がいない。他の人にするなら小泉首相でもたせたほうがいいだろうということが、70%の支持率につながっているのだと思います。

前田  さきほどおっしゃられたことは非常に重要です。われわれはこれまで、「鉄の三角形」、特に既得権益の利害集団の政治力がきわめて強いので、その利害に反する改革は、何であれ不可能であると思い込んでいたのですが、実は既得権益の利害集団の政治力とは裸の王様であったということですね。

舛添  それが今回の非拘束名簿でわかったんです。制度改革で面白いのは、その制度をつくる人の意図とはまったく違う結果が出ることがあります。まさにそれが出てしまった。自民党首脳部が非拘束に変えたのは、既得権益を守って、鉄のトライアングルの力を示すためにやったんです。それで報復するぞというつもりでやったのに、全然効かなかった。ですから、実体がそれを示したわけですから、改革して、その既得権益を切り刻んでいく絶好のチャンスなんですね。50万票捨てるつもりでやれば郵政民営化ができるわけですから、やればいいんです。

山内  人々が既存の組織や構造から離れて流動化するということは、それこそ、竹中平蔵大臣が言っているような構造改革、より高付加価値の産業領域に国民全体を移動させなければならないというチャンスでもあるわけですね。この見方は正しいですか。

舛添  そうです。不況だからということもありますが、やはり心理的に言うと、1997年に山一證券が破綻したということは大きいですね。山一が破綻したことによって、会社人間が終わりになってしまったのです。「山一に入っておけば一生安泰だった」のが、「山一でもだめなんだから、オレの会社はいつだめになるかわからない」ということになると、自衛しなければならないわけですから、転職するなり、会社を変えるなり、なんでもやろうということになってきています。私が個人のレベルでの大きな変化の始まりは、この山一ショックではないかと思います。その後、そごうがつぶれる、マイカルがつぶれるなど、どんどん出てきました。

山内  人間のメンタリティの変化というのは大きいですか。

舛添  大きいんですが、ただ、そのときについていけない人が必ず出てきます。これをどうするかという雇用の問題があります。職業再訓練をするとか。40歳以上で失職したら、転職先がほとんどありませんから。それは社会全体として見ていかないといけません。

大学改革後の知的生産の担い手

山内  そうすると、大学というのは、どうでしょうか。大学人のメンタリティは変わっているのでしょうか。

舛添  大学は改革する第一のターゲットでしょう。要するに、官でやるか民でやるかという争いで、「官はやめて民でやりましょう」というのが今回の路線ですから。官でやるならやるで、イギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパの社会民主主義のように、そういう路線でやってもいい。ただ、ヨーロッパの教育の自由というのは、宗教という要因を入れないとわかりにくいのです。政府からの自由ではなく、教会からの自由です。教会が、ダーウィニズムではないアダムとイブの聖書の物語を教えていたのでは、生物学は発達しませんね。つまり、教会権力からいかに中立的な教育にするかということが、ヨーロッパの社会主義の始まりなんです。フランス社会党は、それが目的でやって、20世紀になってようやく教会と国家の分離法ができたのです。そういう経緯があるので、フランスの大学は基本的にはすべて国立大学です。国が介入することによって、宗教的な中立性を担保するという路線でいっている。その長い歴史のある教育の自由と、日本のようにとにかくキャンパスに権力が入ってはいけない、独立法人になってはいけないという話とは、まったくコンテクストが違うということを、まず押さえておかなければなりません。それから、大学から役に立っている人たちが出てきているか、即戦力になるかということです。競争がないところが落ちぶれるのは当たり前でしょう。

 われわれが大学生のころは、インターネットも何もないので、何か調べるためにはすぐに図書館に行って調べましたが、いまはそういうことはやりません。歴史研究は別かもしれませんが、相当なことはインターネットでわかるし、情報の取捨選択はしなければならないけれども、ツールがまったく変わってきています。そういうときに、教育の手段というのは何なのか。もし残る価値があるとすれば、オックスフォードやケンブリッジではありませんが、大学というのは哲学と歴史だけ教えればいいのではないかと私は思っています。ゼミも、外で読書会のような形でやればいいわけですから。

山内  そうすると、社会的な知識生産というのは大学の外に、つまりシンクタンクとかNPOが担うことになるのでしょうか。

舛添  そういうものをつくらなければいけませんね。アメリカに比べると、今回の事件でも対応がすごく遅いですし、テロだとわかっていて対応できないのは、そういう機関がないからです。政府のシンクタンクは官僚機構です。どうしてもスクリーニングされた情報しか入ってこない。やはり、情報の世界でも自由競争する。きちんとペイを出せばいいのです。要するに、「GLOCOM教授」とか「GLOCOM助教授」という肩書きがあればいいのです。

山内  「GLOCOMフェロー」ではだめですか?(笑)

舛添  例えば、「国際大学教授」といえば、これは身分安定で、社会的地位も高いという感覚があるわけです。ですから私が東大助教授を辞めるときに、「東大に入るのも難しいし、先生になるのはもっと難しいのになぜ辞めるんだ」と言われました。そういう権威主義のようなものは、民間企業では変わってきているでしょう。つまり、どんなベンチャービジネスでも成績を上げればいい。例えば、金融ビッグバンのときに、松井証券が野村證券よりも利益率が高かったというような話も出てくるわけです。それは、智恵の競争が正当に行われていないということです。GLOCOMフェローの例を出すと叱られそうですが、どこかのわけのわからないシンクタンクの研究員になったと言ったら、親は嘆きますよね。

山内  私の親も嘆きました。(笑)

舛添  やはり東大というのは、権威があるからしがみつきたがるんですが、現実の場で、証券会社の例を出しましたが、銀行にも同じことが言えるわけで、大きいからいいというわけではありません。

山内  情報社会の研究についてであれば、GLOCOMはどの大学にもひけをとりませんよ。

舛添  ですから「東大に就職しても将来はない、GLOCOMに入れば将来有望だ」ということを、いかにPRするのかということですよ。東大の方は、財政的に国家に守られています。ですから、財政的な面で、税制の優遇措置とか、寄付控除とか、NPOの体制をもっとつくっていくことが必要です。AEI(the American Enterprise Institute)やブルッキングス研究所にしても、外交評議会(Council on Foreign Relations)にしても、ちゃんとしたシンクタンクが政権に影響力を持っています。つまり、「GLOCOM“A”」と「GLOCOM “B”」があって、前者は民主党、後者は自民党だとします。私がかりに総理大臣になったら、GLOCOMというシンクタンクがあって、山内という人が財務大臣に就くということになるわけです。大統領制という問題もありますが、そういうところにまでいくべきです。

小泉政権を支えるブレインの危うさ

舛添  さきほどある会合で、皮肉を言ってきたのですが、ばらまきで拡大路線をとっていた小渕内閣でアドバイザーをやっていた人が、なぜ緊縮財政の内閣でアドバイザーができるのか。みんな引き続き入ってますね。私はこれを称して「なんでも官邸団」と言っています(笑)。なんでもいいから官邸に行きたいという人たちです。

前田  自民党については、国民の目から見ると面白い状況にあると思います。古典的な見方をすると、自民党は「鉄の三角形」を構成する既得権益集団に支えられた政党、という面は否定できないでしょう。したがって、既得権益集団以外の勢力に政治的力の源泉を置き、既得権益の構造を抜本的に変える構造改革をやるとすれば、それは別の政党が政権を取ってやることになりそうな気がします。しかしながら実際には、自民党の小泉政権がそれに取り組んでいるわけです。となると、日本社会の構造改革以前の問題として、自民党自身の構造改革が必要になると思いますけれど、その点はどうでしょうか。

舛添  徐々にしか変わらないということはあります。ペリーが来たとか、戦争に負けたとか、大革命的なことがあればいいのですが、民主主義のルールの中でやろうとすると、なかなかできません。本来的には、民主党が担うべきなんですが、民主党の政策をほとんどまるごと取ってしまっているのが、いまの小泉政権なんです。政策という基準で言えば、はるかに民主党に近くて、自民党の大部分は反対です。非常にいびつな政権が、できあがっているわけです。ただ、少しずつ変わっているのは、まず派閥均衡をやめたということです。現実的には森派が多いといっても、それは首相が個人的によく知っているからです。それから、当選回数至上主義もなくなりました。つまり、各派閥に入閣予定者リストを出させて、そこから均衡にやるということはなくなりました。ですから、石原伸晃氏のように若くても入閣する人が出てきます。いいか悪いかは別として、田中真紀子氏や竹中平蔵氏もそうです。このようにスタイルは新しくなっていますが、非常に逆説的になっているのは、ブレインがいないということです。つまり「なんでも官邸団」です。公文先生と佐藤誠三郎先生は大平、中曽根内閣でブレインでしたね。これは「なんでも官邸団」ではありません。きわめて筋が通っています。今度は、「昨日までばらまき、今日から緊縮、よく同じアドバイスができるな」という状態です。そして他方では、官僚依存がものすごく深まっています。郵政事業の民営化は、小泉首相がずっとやってきた問題なので、誰に聞かなくてもできるわけですが、自信のない政策、つまり、危機管理とか不良債権処理ということになるとわからない。通常は、自分が不得手の分野だったら誰かに聞きますが、いちばん身近にいるべきブレインがいないとなると、完全に官僚依存になってしまいます。

 つまり、ネットワークというものをキーワードで考えたときに、単純化して言うと、小泉首相は、ネットワークのない人間なのです。私も同じです。だから勝ったとも言えます。「では、あなたのネットワークは何ですか」と聞かれたときに、答えはマスメディアです。マスメディアはとてつもなく広いネットワークを持っていて、広範の国民がいるわけですから、それは選挙には強いです。けれども、いざ政策形成といったときに、どれだけの才能を集めることができるのか。

 小渕元首相のやり方が非常によかったのは、自分は何も知らないというふりをして、本当はそうではないのですが、ある問題について、それを一番よく知っている人を呼ぶというセンシティビティがあったことです。例えば、Y2Kという大変な問題が起こりそうだというときに、いちばんこの問題をよく知っている公文俊平氏を呼んで、意見を聞き、テレビで言うわけです。「ブッチフォン」なんです。小渕氏は外務大臣のときからそうでしたが、私が外交についてやっているのを知っていて「これから中国に行くんだけど、どういうことをやったらいいかメモを出してくれないか」と突然電話がかかってくるんです。あれには驚きました。これは、きわめて上手にブレインをリクルートする方法です。もう一つは、大平氏とか中曽根氏のように、250人でも何百人でも、その世界の右から左まで、いちばんよく知っているという人を組織として固めていって、ペーパーを出させるという方法です。この方式で、ある程度成功したわけです。大平氏は途中で亡くなりましたが、中曽根氏は長期政権になりました。

 そういう二つのやり方があるのですが、小泉首相が、電話をかけるかというと小渕流はとらないんです。それが変人というところですが、きわめて友だちの少ない人です。通常、総理大臣人脈というといろいろな文化人などが載っているわけですが、小泉首相の場合、「なんでも官邸団」くらいしか、そこには載っていないわけです。小渕流もとらない、中曽根・大平流もとらない。そうすると結局、政策決定は官僚機構に頼ることになってしまいます。田中真紀子大臣もプラスマイナスがあって、外務省の不正を暴いています。かき混ぜ役をやっているわけだから、それでスキャンダルがどんどんあぶりだされて、それはそれでいいんですが、では、人事や政策をどうするか。そうすると、干された人たちが官邸に行って、そちらから巻き返しを図る。つまり、実を言うと、主役は両方とも役人なのです。これが、もし、外交評議会のGLOCOM版のようなものがあったとして、社会的地位も高くて、前に大臣をやった人とか大使をやった人が入っている、そこの言うことは誰でも聞く。そういうところがガンと言って変えられるのであれば、新しい政治はできると思います。役人のたらい回しではだめです。

 私がいま関与している金融政策も、結局、金融庁と日銀のケンカみたいになってしまって、昔で言うと、大蔵省と日銀がケンカしているようなもので、日銀の言うことを聞く、大蔵の言うことを聞くということで、外の言うことは聞きません。きわめて皮肉なことに、いちばん悪い形での官僚依存の政策決定に落ちかかっているのです。私は、強い危機感を持って厳しく言っているのですが、1年生議員で力がありません。

議員立法への研究会とメディア戦略

舛添  ですから、メディアを持つというのは一つの手ですね。とくにテレビメディアです。ですが、そこから先をどうするのか、それは別の課題です。そのときに、利権集団と組むということではなくて、いかに、政策立案において、役人でも民間人でも学生でもいいのですが、一種のフォーラム的なものを持てるのかということが非常に大きいですね。私は、テレビ以外にも人脈があるので、電話をかけて意見を聞くということはいつもやります。いま、毎週木曜日に「日銀法改正研究会」を自民党の中で立ち上げて、研究会をやっています。この研究会が推進役になって「財政金融部会」で法案の素案をつくってあげる。この法案は容易には通らないと思いますが、徹底的に議員立法ですよ。参議院は独自性を示したいということで、青木幹事長に確認したら、「プロセスを踏めばどんどんおやりください」ということでした。ですから、参議院の中で議員立法という形でやるつもりです。

前田  ただし、参議院での議員立法には、参議院法制局の審査能力の問題がありますね。

舛添  確かに、「3年前につくった日銀法をまたすぐ変えるとは何事か」という声もありますが、関係ありません。私はそのときには国会議員ではなかった。昨日つくった法律でも悪ければ今日変えればいいわけですから。突破口はいろいろあります。旧来型の部会システムがガンだと思っています。例えば、農林部会では、政治家の先生たちが朝食を食べて勉強会をしますが、そこに講師として来ているのは、ほとんどが役人です。役人が政治家を洗脳する場として使われているのです。そういうものは何の役にも立ちません。それよりも、完全に議員が牛耳れるような研究会をどんどんつくるほうがいい。そして、それを積み上げていって、こんなに重みがあるんだということで、部会に乗り込んでいくというパターンをつくるしかないと思っています。私は、参議院は意外と能力主義の場だと思っています。半分は年功システムがあるけれども、半分は能力主義だという気がしているので、できる限りやってみようと思っています。

山内  先生のさきほどのブレインのお話ですが、政策決定には、タイムリーに役に立つ情報と知識を入れていかなければならないということだと思います。そのためにはネットワークづくりが必要で、従来は大学の教授たちがそういう活動の一翼を担っていたはずなのに、そういう社会的知識生産のモードはもうなくなってしまった、ということなのでしょうか。

舛添  ないですね。

山内  そうであれば、大学に限らず社会に分散して存在する情報や知識を政策決定の中に入れていく、その中でまた情報や知識が生産されていくという仕組みをつくらなければいけないということですね。

舛添  そうです。しかし、コンピュータ画面を見ていてすべて入ってくるかというと、そうではありません。旧来の組織とは違うんですが、財政的控除を認めるなどして本当にいいシンクタンクをつくるべきです。NPOなら別ですが、シンクタンクは確か控除の対象にはなりません。私が福祉で寄付する場合、いちばん簡単なのは地方公共団体です。市町村でやればすぐに寄付控除が出ます。あとは社会福祉協議会とか、決められたところだけです。GLOCOMに寄付しても、税制上控除の対象にならないでしょう。ある程度の生産性をあげたところには、そのステータスを与えるということをやってもいいと思うのですが、現状ではそういう場がありません。

山内  舛添先生が議員立法をなさったときに、実際に法律を書くエキスパートは十分に集まりましたか。

舛添  これとこれをやるんだということになったら、それぞれの議院に、そのための役人がいて調査室もあるわけですから、それを上手に使うしかないですね。参議院には独自性という意地があって、また参議院自民党という確たる組織があるのです。これは、個々の組織とうまくつきあっていかなければならず、能力主義と言ったのは、勤務評定があって全部に成績をつけているのです。この人は資料請求を何回したとか、ちゃんと勉強しているとか、現場の人はわかりますからね。かなりシビアな勤務評定です。当選してすぐ「全世界の銀行法を調べてください」とお願いしました。あとは政治プロセスです。自民党の政調(政務調査会)を通して、そのプロセスを上手に踏みながらやっていく。非常に伝統的な前例墨守をやりながら、そこからはずれたら実現しませんから、実現のルートに乗りながら、そこに新しい要素をいかに入れていくのかということですね。

国会のメディア化で審議の質が変わる

山内  それを使えば議員立法の道が開けると感じていらっしゃるんですか?

舛添  開けます。いまの総理大臣は、さきほど言ったように、外からの意見をあまり聞かないですから、だからこそ、国会の比重は相対的に高まると思います。例えば大平・中曽根型のように、外からの意見を聞いてパッパッとやっているときには、国会はセレモニーで済みました。いまは国会の場でしかコントロールできないんです。メディアは圧倒的に「純ちゃんフィーバー」「田中真紀子フィーバー」ですから。やるとすると国会の場しかありません。相対的に国会の機能は高まると思います。

山内  それは小泉首相ご自身が、国会をメディアの場として使おうとしているということですか?

舛添  ですから、こちらも逆用すればいいということです。それだけ、全国民に見られて、メディアにさらされても勝ち抜かないとだめなんです。ですからものすごくシビアです。おそらく、ネクタイの色一つから調整しないといけない。

山内  そうなると、国会の審議の質も変わってきますか?

舛添  変わってきます。各役所で、「国会で待機願います」ということはなくなって、基本的には自分で質問して自分で答えるというシステムに変わっていくでしょう、細かいデータは別ですが。本当にわかって質問しているのか、答えているのかということは、見ればわかります。

前田  官僚の側からすると、大臣が自由にやるということになると、労働量が格段に増大することになりますね。官僚が書いた答弁を読んでもらう場合には、答弁を準備するだけで済みますけれど、自由に発言してもらうとなると、ものごとを正確に理解してもらっていなければならないので、膨大なレクチャーが必要になります。

舛添  レクチャーが必要な人を大臣にしなければいい。

前田  しかし現実はそうなっています。また、事前に質問を通告しない先生が多くなりました。つまり、通告してもらえれば、例えばその10問の答えを考えておけばいいものを、そうでないと、すべて想定対象です。想定ですから毎晩100問くらい考える。

舛添  仕事が増えるわけですね。

前田  また、こんな話もあります。官庁の幹部は、ご存知の公務員倫理規制法で夜外出できなくなったため、役所に居残るようになり、国会答弁業務に精を出すことになったそうです。幹部が残っていると、部下は全員残ることになりますから、省庁単位の残業時間の合計は大きく増えるわけです。

舛添  そうですか。それは困りますね。(笑)

山内  最近、インターネットの審議中継放送では、国会の様子が、各委員会も含めて流れています。また審議の経過を、録画で見ることもできます。

舛添  どれだけ見ているかですね。自由に発言してしまうと、つい失言をしますので、口をつぐまないといけません。

山内  楽しみにしています。今日は、どうもありがとうございました。

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