IEEE EMS Japan Chapterシンポジウム報告
山田肇(GLOCOM主幹研究員)
IEEEのEngineering Management Society日本支部が主催するシンポジウムが、10月2日、GLOCOMにおいて開催された。シンポジウムは「情報革命の本質と技術経営の変革」と題され、GLOCOMに組織されたIECPの協力イベントとして、研究・技術計画学会と日本工学アカデミーの協賛のもとで実施されたものである。
公文俊平GLOCOM所長と加藤邦紘NTTアドバンステクノロジ(NTT-AT)副社長の講演の後、これら講師を交えて、パネル討論が実施された。参加登録者は46名、出席者30名と、日本支部の会合としては最大のイベントとなった。
公文氏の講演は「情報革命の本質とは何か」と題するものであった。彼は、次のような講演を行った。
1550年頃から、軍事力で争う国家化の長波が動き出した。それに続いて1750年頃から、経済力を争う産業化の長波が立ち上がった。そして1950年頃から、知力を争う情報化の長波が動き出した。このような長期的な視点で見れば、情報化はまだ出現の時期にある。情報化は智のゲームの普及に向かって、今後も発展を続けていくと考えられる。
情報革命の中では、今までの国家や企業に代わって、NGOやNPO、あるいはネットワークの中で知的に連帯する市民、すなわちネティズンが力を得ていくと考えられる。これらの人々が容易にグループを形成できるようにするグループメディアこそが、これからのメディアである。
ところが、日本の産業は情報家電というデバイスを、どのようにして消費者に大量に提供していくかということしか考えていない。産業化の長波の中での大量生産の発想に止まっている。一方、米国も、産業化の成熟段階で成功したマスメディアの発想から抜け出していない。どちらも間違いだ。
カナダのように市民がコミュニティで情報通信システムを共有し、その中からネティズンによるさまざまなグループが形成されていくことが望ましい。国内でもCommunity Area Networkや無線LANの動きが注目される。
ついで加藤氏が「変革を続ける技術経営」と題する講演を行った。概要は次の通りである。
NTTに長い期間勤めた後にNTT-ATに移ったが、その間にNTTにおける研究開発の位置づけが大きく変化したことを体験した。1980年代前半までは計画経済的な事業運営であった。研究所には10年を単位にした長期的な研究が期待され、その成果は計画に沿って事業に導入されていった。その後NTTは民営化され、それとともに他社と研究所の技術が比較される時代が訪れた。その結果、事業と研究所の間には対立も生じることになった。2000年が近づいて、研究所でやっていることがあらゆる社会構造と相関を持ちはじめ、技術こそ経営の要ということが、社内に理解されるようになった。
しかし、事業の期待に応えるための応用研究に力点が置かれだしたということは、10年単位の長期的な研究が推進できないということと等価である。その点では、1970年代の方が研究所としては安定で、ハッピーだったということができるだろう。基礎研究は弱くなってしまった。それは世界中どの企業も同じで、短期的な競争で生き残っていくために、長期的な研究開発は切り捨てられている。大学等における研究と、そこからの移転が期待される所以である。
現在、企業が抱える課題には、次のようなものがある。第一は顧客の特定である。顧客の単純な特定は危険であることが認識されはじめている。第二は商品の特定である。サービス業への参入障壁が低くなった影響で、非常に多くの競争相手が現れ、それらに対抗できる自社製品は何かということが、真剣に問われるようになった。技術や人材を自社内に止まらず外部に求め、そのためにアライアンスの関係をつくっていくことも課題となっている。これらの課題に対処していくために、経営者は視野を広く持つ必要がある。
以上の講演の後、亀岡秋男北陸先端科学技術大学院大学教授がモデレータを務め、公文、加藤の両氏に加えて松井好(社)科学技術と経済の会常務理事が参加して、パネル討論が実施された。
日本にはそこそこの技術はあるが、マネジメント力が弱いという国際的な評価がある。どのようにしたらそれを打ち破ることができるだろうか、という亀岡氏の問題提起があり、そこから議論が開始された。
加藤氏は、「米国で競争力の低下という問題が起きた1980年代には、どのようにそれを挽回するかについて米国は大研究をした。日本の場合には、誰もそのような研究をしない。その負け様が気に入らない」との意見であった。一方、公文氏は、「産業として展開していくチャンスは十分にある。社会と経済の発展に対する長期的な展望を持って進むことが大切である」という意見で、松井氏も10年単位で国家戦略を立てることの重要性を強調した。
個々の技術は強いのだが、新しいコンセプトの提案が少なく、それを強化する必要があるという点でも、パネリストの意見は一致した。その議論の過程では、「産官学の各セクターのうち、産では研究開発にこれ以上資金を投入することは困難である。官と学には潜在的な力があり、その舵取りと技術移転が重要である」との指摘が出た。産官学が組織の壁を越えて交流するということは、いわば研究者、技術者がネティズンとしてのグループを形成することに対応する。公文氏の説明した方向性から考えても、推進すべきと考えられる。
また、コンセプトの創出から製品の提供までを広い範囲でマネジメントする技術プロデューサーが必要であるということについても、議論が及んだ。この議論の中では、人材育成の必要性が強調された。米国にはManagement of Technology Programと呼ばれる人材育成プログラムが160以上存在する。日本でも、同様のプログラムを用意していく必要があるとの指摘であった。