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OECD会議「大学/産業の関係をマネージする:ナレッジ・マネジメントの役割」

山田肇(GLOCOM主幹研究員)

 10月15、16日の両日、OECD(経済協力開発機構)と文部科学省、経済産業省の協力で「大学/産業の関係をマネージする:ナレッジ・マネジメントの役割」と題する国際会議が開催された。会議第一日は人数を限定したフォーラムで、第二日は経営層など各界からの聴衆300名以上を対象として、「知識経営におけるリーダシップ」を表題としたカンファレンスが実施された。本稿では主に第二日の模様を報告する。

長期的な視点から知の活用と創造を図る

 カンファレンスは、OECDのJarl Bengtsson氏と根津利三郎経済産業研究所理事による挨拶からスタートした。Bengtsson氏は、OECDにおける知識マネジメントの取り組みを紹介するとともに、第一日のフォーラムの成果として次の3点を提示した。第一は、専門家の間での情報と経験の交換が有意義であったこと、第二は、産学はより親密な協力関係を持つべきということが合意されたこと、第三は、暗黙知と形式知を結びつける価値システムの創造が必要と指摘されたことである。また、根津氏は、「科学技術が成長の源である時代が来た」としたうえで、「日本、フランス、ドイツのように科学と産業の結びつきが弱い国、科学を大切にしない国で失業率が増加する傾向にある」との数値を示し、産学連携の一層の強化を訴えた。

 続いて、野中郁次郎一橋大学大学院教授がキーノート・スピーチを行った。氏は、「グローバリゼーションとローカリゼーション、規模の経済と速度の経済などは二者択一のものではない。むしろ、同時に選択すべきものである」と指摘した。つまり、選択による最適化よりも、むしろさまざまな戦略の統合化が重要となる時代が来たというのが、氏の認識であった。そのうえで、長期的な視点に立って知の活用と創造を図ることの重要性を説いた。

 その後、カンファレンスでは、三つのパネル討論が実施された。

第一パネル「知識経営と産学連携」

 第一のパネルは「知識経営と産学連携」と題された。IBMのLarry Prusak氏は、「IBM社内でも、研究管理者と経営者の考え方にまだ相違がある」としたうえで、両者の相互理解を促進するための方策を提案した。なかでも、実際の問題を緊急に解決するため両者でチームを作るという提案は、興味深いものであった。小林陽太郎経済同友会代表幹事は、「他組織と接触することが知識創造につながる」として、日本の企業がよりオープンな方向に姿勢を変えることの重要性を強調した。末松安晴国立情報学研究所長は、「かつてから日本には産学の連携があり成果をあげてきたが、それらは非契約型で目に触れないものであった。これからは、それを目に見えるものに変え、また大学の中に競争的な環境を導入していくことが大切である」との認識を示した。坂田東一文部科学省大臣官房審議官は、最近、文部科学省で推進している大学改革と産学連携強化の動きについて紹介した。

 これらの意見発表に対して、繁田寛昭日本ロシュ会長から、「大学の中では研究成果をどのように評価しているのか」という質問があった。これに対し、「学会の評価が主体であるが、産業界からの評価はカバーしきれていない」(末松氏)、「教官の公募制、任期制の一層の導入が必要」(坂田氏)との考えが示された。また、岡村總吾国際大学理事長から、「日本は理学と工学の定義が他国と異なっているので、日本に理学博士が少ないという根津氏のコメントは再考の必要がある」との指摘があった。

第二パネル「知識の集積が拓く次世代経済」

 第二のパネルは「知識の集積が拓く次世代経済」ということで、知識に基礎を置くエコノミー(ナレッジ・ベースト・エコノミー)に関連する議論があった。最初に、公文俊平GLOCOM所長が、「情報化とともに智のゲームが始まった。このゲームではNGO、NPO、ネティズンといった言葉で表現される新しいプレーヤーが重要な役割を果たす。これらのプレーヤーを結ぶグループ形成ネットワークを、光ネットワークとして実現していくことが必要である」と講演し、続いて、青木利晴NTTデータ社長が、次のように論じた。「かつて、ITは経営の効率化の道具として利用されていた。今、それは新事業創出の武器になっている。供給側と需要側の情報不均衡がITによって解消されてきた。顧客がそれぞれの興味で集団を形成するようになり、またマーケットプレイスと呼ばれるIT化された市場の中で商取引が始まっている」。ついで、石黒憲彦経済産業省課長は、「異分野の研究者・技術者が交流するネットワーク上の場を作り、その中から新産業を創出しようとしている」と、産業技術知識基盤構築事業の概要を説明した。また、中原恒夫日本工学アカデミー副会長は、企業の抱える課題を、IT革命への対応、ボーダレス経済への対応、当面の不況への対応の三つとしたうえで、「新産業を創出していくことと、同時に企業倫理を確立していくことが、これらの課題を解決していくために重要である」と話した。

 これらの発表の後、討論が行われた。産業技術知識基盤構築事業のような事業を政府が主導することが適切かという論点については、「NPOなどと官との協力が重要である。また、事業の成功のためには、参加者が分散すると同様に、コンテンツも分散的に収容することが大切である」(公文氏)、「公共のスペースを提供することまでが官の役割で、それをどう利用するかは民の智恵を最大限に活かしたい」(石黒氏)、「事業の成功は、参加者に有料でも参加したいというようなメリットが提示されることが必要である」(青木氏)、「このような事業については一度試行した後、地道に改良していくことが重要」(中原氏)といった指摘がなされた。

 会場からは、「意見交換の場の維持、管理、発展には人的な投資が必要である」との発言があった。石黒氏はそれに応じ、「企業のコントロールを弱めて個人の参加を促していくためにむも、ぜひ成功例を創出していきたい」と語った。モデュレータを務めていた田中伸男経済産業研究所次長は、「産業のモジュール化が進むと、個人の能力発揮の場が増えていくだろう」と解説した。また、会場から、「この事業の成功と失敗の評価は、どのように行うのか」という質問があった。石黒課長の回答は、「仮に動かないことがあっても、智の場としての実験はできたことになるが、それ以上に参加者が集まってくることを期待している」とのことであった。さらに、会場から、「国際競争力のためには、場を作るだけではなく、どんな産業分野を対象とするか見定めることも必要ではないか」というコメントがあった。

第三パネル討論「企業経営における知識革新」

 第三のパネルは「企業経営における知識革新」と題され、モデュレータは竹内弘高一橋大学大学院教授であった。最初に、福原義春資生堂名誉会長が講演を行った。「資生堂の経営が苦境にあったとき、不良在庫の半減というシンボリックなアクションを取りながら、社内のパラダイムの転換に動いた。顧客の方を向いた経営に目標を置き、会社の歴史に含まれる知識(何年に何がどうして起きたのか)を語りながら、社員の意識革命を図った」。また、西室泰三東芝会長は、俊敏な企業への変革ビジョンについて語った。「執行役員制度の導入など経営の仕組みの変革、俊敏を標榜した企業風土・文化の改革、選択と集中による事業構造の変革を進めた。総合電気メーカーから『複合』電気メーカーへの変身を図り、また顧客の声を形式知化して新製品を創出する活動を展開した。そのなかで、事業変革プロジェクトの進捗管理、成果集計のための情報共有ツールを導入したことが特徴的であった」。さらに、繁田日本ロシュ会長は、営業における暗黙知の移植について報告した。「営業の仕事はブラックボックスの中にあった。特に医療機関や医師へのアクセスが、どのように行われているかは見えなかった。そこで優秀な営業と平均的な営業のアクセス方法を調査し、その相違を明確にした。そして最優秀20%の営業部員を社長の下に集め、それが残りの80%に対して、3カ月間連続して実地訓練するという方法で知識の移転を図った。1年半のプロジェクトで、売上を10%以上向上させることができた」。

 これらの講演を受けた形で、青木昌彦経済産業研究所長が、シリコンバレーに特徴的な企業経営の姿について紹介した。「シリコンバレーでは企業が相互に情報を交換している。企業内にすべてを閉じ込めていないことが繁栄の一要因」と語った。また、OECDでコンサルタントをしているJean-Michel Saussois氏は、智恵が知識の中で失われ、知識が情報の中で失われがちな傾向に対して警鐘を発した。そのうえで、「知識を基準に動く労働者に対しては、賃金といった形ではない新しい報酬を与えることを、企業は考えるべきである」とコメントした。

 以上、今回の催しはナレッジ・マネジメントの重要性を深く聴衆に訴え、盛会のうちに終了した。

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