バディ・システム
土屋大洋(メリーランド大学国際開発・紛争管理センター訪問研究員)
先日、サンフランシスコから車で4時間ほどのヨセミテ国立公園で、ガイドつきのトラムツアーに乗った。ときどき、森の中に鹿の姿が見えることがある。ガイドは「何か見えたら自分に教えてくれ。すぐにトラムを停めるから。隣の人にも教えてあげるのがバディ・システムだ」とみんなに呼びかけた。「バディ・システム(buddy system)」とは、もともとは水泳・キャンプなどでお互いの安全を確かめる二人組のことである。
後日、サンフランシスコから車で1時間ぐらいの東パロアルトにある「Plugged-In」というNPOを訪問したとき、このバディ・システムのことを思い出した。
パロアルトはシリコンバレーの一角を占め、スタンフォード大学があることで有名な高級住宅地である。しかしすぐ隣の東パロアルトは、経済的に苦しむ人たちの住む地区になる。パロアルトから車に乗り、大きな道を文字通りひとつ隔てただけで、町の様子が変わってしまう。
Plugged-Inの活動は1992年から始まった。活動内容は、グリーンハウス、プラグド・イン・エンタープライズ、テクノロジー・アクセス・センターの大きく三つに分かれている。グリーンハウスは子どもたちの能力開発・育成を行っており、プラグド・イン・エンタープライズでは、グリーンハウスで技術をある程度身につけた子どもたちに、実際のビジネスを通じて自活する方法を体験させている。
テクノロジー・アクセス・センターは午前9:00から午後9:00までオープンしており、午前中は失業している人たちを対象に、コンピュータを使った仕事探しを支援している。履歴書の作成や求人情報の検索などができる。夜はコンピュータとインターネットの基本的な使い方に関する講習が開かれている。テクノロジー・アクセス・センターは、デジタル・デバイド解消のための活動のひとつとして、クリントン前大統領の訪問も受けた。
専任マネジャーであるアルビン氏は、自らをPlugged-Inの「ゴールデン・チャイルド」だと言う。というのは、彼はもともと別のフルタイムの仕事をしていたのだが、副収入を得るためにパートタイムで清掃の仕事をPlugged-Inで始めた。一番下の仕事から始めて、徐々に自分もコンピュータの使い方を身につけ、4年でフルタイムのマネジャーになったのである。
同僚のミラー氏は、デジタル・デバイドという言葉がさまざまな意味あいで使われているため、きちんと定義ができていないと指摘する。デバイドといっても、富裕層と貧困層の間の格差は情報技術が登場する以前から存在していたものであり、情報技術が発達した後でも教育、経済上の格差は依然として存在する。情報技術はあくまでもツールである。「みんながコンピュータのスキルを学んでいるから、貧しい人々も学ぶべきだ」というやり方ではうまくいかない。もっと重要なのは、人間を自由にすること、テクノロジーを使って、表現し、創造し、何かを作り出すことだと主張する。このセンターの特徴は「情報技術を教えてあげるから、より豊かになりなさい」ということだけでなく、「自分で好きなように技術を使いなさい」なのだという。
ミラー氏はヨーロッパを長期にわたって旅し、帰国した後はドット・コム企業で働いたこともあったそうだが、今の仕事に価値があると思って始めたそうだ。東パロアルトでこうした活動をすることは、どうみても利益の出ることではない。何がPlugged-Inで働く人々を突き動かすのか、いまだに納得がいかないのだが、アメリカに根づくコミュニティ意識、あるいはバディ・システムが関係あるのかもしれない。