第3セッション
情報通信ネットワークの未来
分散型システムの可能性
パネリスト 太田昌孝(東京工業大学大学院講師)
高橋達郎(京都大学大学院教授)
間瀬憲一(新潟大学教授)
コーディネータ 山田 肇(国際大学GLOCOM教授)
政府によって強く打ち出されたFTTH(Fiber To The Home)への方針を受けながらも、実際のインターネットインフラ整備においては、基幹網には光ファイバを、各家庭までのラストワンマイルには多様なアクセス形態を適用するあり方が一般化しつつある。このようななかにあって、広帯域化した回線を利用して、市民が地域網を共有し自主的に運営する動きが起き、地域網自体を無線LAN網として構築する事業も試みられるようになってきた。将来的にはこのような分散型ネットワークが主流となるとの見方がある一方で、分散型ゆえの脆弱さを利用してネットワーク犯罪者の温床となる可能性が指摘され、あるいは、移動端末を中心としたネットワークプロトコルについては技術的にも難しい問題解決が要求されるなど、課題も徐々に明らかになりつつある。そこで、第3セッションではこの分散型ネットワークに焦点をあて、主に技術的側面から議論が行われた。
モバイルインターネットサービスの展望
セッションの最初は、2001年よりモバイルインターネットサービス(株)CTOを兼務する立場にある東京工業大学大学院講師・太田昌孝氏から、無線によるモバイルインターネットサービス(MIS)についての報告がなされた。
太田氏は、テーマでもある「分散」とは、もともとインターネットに内在する要素であると指摘する。インターネットの原理はエンドツーエンド原理と呼ばれており、端末(エンド)側でできることは網側で受け持たないので、システムは単純高速かつ安価になる。また、直接関係する端末間でできることについては、他の端末は関与しないので、信頼性も高く、どこかに負荷が集中することもない。
また、インターネットは規制には馴染まない性格を持っているという。ダイアルアップインターネットでは、サーバはネット事業者が集中して運営するため、ネット事業者を通じた規制が可能だが、常時接続インターネットでは、誰もがサーバを運営可能な完全な分散(ピアツーピアモデル)になるため、規制すべき業者が不在になってしまう。とはいえ、課金や犯罪捜査などのためには、責任者を特定するために端末を同定する仕掛けが必要となるだろうと述べた。
インターネットの今後について太田氏は、光ファイバ中心になることは間違いないが、広域の移動端末には無線インターネットサービスの魅力も捨てがたいと語る。
光ファイバの圧倒的な帯域は10年後でも大丈夫だろうといわれているが、光ファイバの送受信は1対1で配線が必要なので1対多通信には向かないし、そもそも移動体通信には適用できない。高速安価で定額制の有線インターネット網上に高速安価な無線基地局を設置して基地局の設置密度を十分高くし、1基当たりのカバーエリアを限定すれば、高速安価な定額制無線インターネットが実現するという。
無線アクセス網の問題として指摘されるのは、有線と比べてセキュリティが弱い点である。無線は有線とは異なり、通信相手の特定が難しいうえに誰でも送受信可能であるため、犯罪防止や課金のためには、パケットごとに通信内容の認証・暗号化を行う必要性が生じる。このため、無線インターネットには、無線端末、無線基地局のほかに認証サーバが必須要素となる。これは多数の無線端末と多数の無線基地局間でセッション鍵を交換させる仕掛けであり、一度セッション鍵を取得してしまえば、認証にも暗号化にも利用が可能であるということであった。
図は、MISが行っているサービスを支えるプログラム構成であるが、既存の通信プログラムの上に、認証・暗号化を行うセキュリティモジュールと、無線端末が基地局間を移動した場合でも通信を可能にするIPモビリティ技術が付加されている。認証サーバだけは都合上集中管理されるが、それ以外の通信は完全分散化されているのが特徴である。
太田氏によれば、このような仕掛けを使うと現状のインターネットのサービス以外に、移動端末の特徴を活かした位置依存サービスを考えることができるという。異なる位置の複数の無線基地局に同じIPアドレスを付与し、無線端末が同じIPアドレスを持つ無線基地のうち最寄りのものへアクセスすることで、各基地局固有のコンテンツ、あるいは基地局位置情報を付加したコンテンツにアクセス可能になるということであった。
ボランタリーネットワークとアドホックネットワーク
続いて、新潟大学工学部教授・間瀬憲一氏からボランタリーネットワークについての提案がなされた。
移動通信への要求はますます多様化し高度化することが予想され、膨大なコンピュータのネットワークが必要になるが、もはや従来型の移動通信技術やネットワーク構築・運用方法だけでは、多様なニーズに対応することが難しくなっていると間瀬氏は指摘する。
従来型ネットワークとは、何らかの組織や事業者がネットワークを構築運用し、所属や契約等に基づいた正当な利用者にのみサービスを提供する、いわゆる「オーソライズドネットワーク」である。これに対して、次世代コンピューティングの要求として、膨大な数のコンピュータが、いつでもどこでも料金を気にせず常時ネットワークにつながるためには、新たなネットワークの構築と運用のパラダイムが必要とされており、間瀬氏はこれを「ボランタリーネットワーク」と名づけた。
「ボランタリーネットワーク」とは、個人や組織が自由意志に基づいて通信リソースを無償で提供し、そのような通信リソースを、自動的、自律分散的に無線リンクを用いて相互接続することにより構築・運用されるネットワークを指す。すなわち、全体を管理制御する主体は存在せず、個々の通信リソースは自由に参加離脱できることが前提になるという。
ボランタリーネットワークの例としては、アクセスポイント(住宅の玄関先やバス、タクシーの屋根に設置する)を利用する形態やモバイル端末を利用する形態が考えられ、オープンなアドホックネットワークによって構成されるのが特徴である。
アドホックネットワークとは、移動端末同士が無線通信するもので、基本的に基地局や固定網を持たない。近年無線LANやPHSの普及によって研究開発が活発化しているが、キラーアプリケーションがなく、使い方もいまひとつ明確でないと間瀬氏は指摘する。だが、次世代のアドホックネットワークはユビキタスコンピューティングを指向し、よりオープンで、汎用性が高く、常用でき、信頼のおけるものとなり、ボランタリーネットワークとして利用可能な技術となることが期待されているという。
間瀬氏によれば、ボランタリーネットワークは、高度なネットワーキング技術とアプリケーション構築技術を必要とし、チャレンジングな課題も多い。たとえば、モバイルアドホックネットワークでは宛先ノードへの経路を自律分散で確立する必要があり、ルーティング方式としても多様な技術が提案検討されている最中である。
ボランタリーネットワークの社会・経済的インパクトとしては、たとえば、情報共有を促進することで地域コミュニティの活性化を図ったり、ホットスポットサービスの地域展開を行ったり、環境・健康ビジネスの基盤形成に利用することが考えられるという。また、オーソライズドネットワークとのすみ分けや競合、相互の進化が起こり、ひいては移動通信産業の構造改革へとつながっていく可能性があるとの見通しが述べられた。
プロトコルからみたネットワーク技術の現状と将来
セッション3番目は、京都大学大学院情報学研究科教授・高橋達郎氏から、プロトコルを中心としたネットワーク技術の現状と将来について、三つの側面から報告が行われた。
一つ目の側面は光ファイバによる広帯域化についてである。
インターネットルータ間の回線通信需要は、たとえば、日米間あるいは東京・大阪間でみると年率2倍の驚異的な伸びを示しているが、光ファイバの波長多重伝送技術(WDM)を用いれば、大きな設備投資を追加しなくても広帯域化への要求に十分応えることが可能であるという。
高橋氏が現状、日本のバックボーンネットワークで、どのくらいの容量を実現できるのか試算してみたところ、日本国内の代表的3キャリアはそれぞれ1本100芯や400芯といったケーブルを引いており、最先端の技術では1波長当たり10Gbpsで160波ぐらいの波長を多重できるので、トータル1P(ペタ)bpsという数字になるという。1Pbpsというのは、仮に人口1億人で割り算すると1人当たり10Mbpsとなり、MPEGの映像だと10Mbpsもあれば十分な品質が得られるので、一人ひとりがそれぞれ24時間違う映像を見てもあり余るぐらいの帯域が、すでにファイバケーブルのレベルでは(現状ではまだWDMの機材導入は進んでいないので)準備されているといえる。
一方、ルータの世界ではすでに100ギガビットぐらいの電気ルータができているが、光の波長単位でクロスコネクトするシステム(光MPLS)がつくられ、波長単位でさまざまな編集をして広帯域化が実現されようとしており、さらには、光レベルでパケット単位に行き先を変えるような光ルータの研究開発が進行しているという。こういった技術も夢のような遠い将来ではなく、まもなく必要となる技術として今後研究開発も加速されるだろう。
二つ目の側面はプロトコルについてである。
太田氏の報告にもあったように、インターネットはフラットなネットワークでエンドシステムのほうにインテリジェンスをおいて、ネットワーク自体はダムなものでよいという意見があるが、高橋氏は、そういった状況は徐々に変わりつつあると指摘する。
以前はインターネットと電話との対比で、コネクション制御の有無や構造、品質、遅延、信頼性などさまざまな比較がなされてきたが、最近は多様なニーズによってコネクション・帯域の確保が必要になる場合もあり、インターネット自体がライフラインとしてより重要な役割を担いつつある。それはあたかも「ブラックホール」のように周囲のさまざまな技術の良いところを取り込んで、インターネットプロトコルが多面的な性格を持つようになってきたと述べた。
三つ目の側面は無線アクセス系についてである。
W-CDMAというネットワークは、ビルの屋上に設けられているようなアンテナで1基地局に四つのチャネルを持ち、1チャネル当たり384kbps、アンテナの方向が3から6セクタに設定できる。データから見ると1エリア当たり5〜10Mbpsの容量となっている。高橋氏によると、W-CDMAは音声サービスとしての意義は十分であるが、これをデータサービスとして見た場合、設備投資額と回収に必要なユーザ数の関係から1人当たりに配分される帯域を計算すると約10kbpsとなり、無線LANと比べるとだいぶ見劣りがしてしまう。このため、新たな周波数帯域の許可、あるいは画期的な周波数有効利用技術がなければ、高速なストリームサービスを低価格で実現するのは困難である、との見方をしている。
だが、W-CDMAは無線LANが苦手な音声サービスに優れており、また、現状のiモードがさらに高性能になり、端末・アプリケーションがワンセットになったサービスが提供されれば、無線LANと上手くすみ分けできるのではないかとのことであった。
無線LANを発展させ、端末相互間でパケットを交換しながら通信を行うようになると、コミュニティ内、あるいは特定の場内部の通信を行うパターンも考えられるが、むしろ、大多数の使い方はインターネットアクセス手段として、いままでにない新しいパターンの手段を提供するところに大きな力点が置かれるのではないかと高橋氏は予想する。
高橋氏によれば、たとえば、W-CDMAや無線LANを補完する技術として、電波の届きにくい所へアドホックネットワークを使って中継することで電波が届きやすくするといったことがある。また、間瀬氏から提案されたボランタリーネットワークの発想もある。ある家がADSLや光を敷いたときに、隣近所でアドホックネットワークを使うことで割引利用できれば、一戸建てでも集合住宅並みの低料金インターネットアクセスが可能になるし、近くの家の空いた帯域を他人がちょっと借りることができれば、モバイルコンピューティングの適用領域はどんどん広がることになる。このように、お互いに融通しあって使えるようになれば、今と同じくらいの料金を払いながらも、より使いやすいネットワーク構築が可能になるということである。
アドホックネットワークを構築するためのプロトコルとしては、現状さまざまな課題があるが、高橋氏によると、このなかでも特に難しいのは、他人のパケットを中継するための動機付けをどう扱うか、という問題であるという。仮想通貨なるものを定義して、人のパケットを中継した場合は仮想通貨をもらい、自分が人に中継してもらう場合は仮想通貨を使うというアイデアも出ている。仮想通貨以外にリアル通貨を使う方法もあり、こういった部分は通信事業との関連も含めて幅広い議論が必要であると述べた。
アドホックネットワークや無線LANの技術は、日本やアジアのように人口密度が高く渋滞が頻繁に起こるような場所に適したネットワークであり、特に日本でこのような技術が磨かれて、われわれの使うネットワークがより使いやすいものとなることを期待したい、ということであった。
サービスの全国展開への見通し
続くセッションの討論では、GLOCOM教授・山田肇氏からモバイルインターネットサービスやボランタリーネットワークについて、どのような方法で全国的にサービスが提供されるかという見通しについて質問が出された。これは、1事業者がサービスを拡大するという視点とともに、1利用者にとっても、どこへ行っても同様のサービスを受けることができるようにするという見方が必要とされるという。
太田氏は自社のモバイルインターネットについて触れ、無線LANのサービスエリアは半径100メートルほどであり、PHS局とほぼ同じ間隔で無線基地局を設けていく計算になるという。現状ではKDDIが16万局を持っており、その程度を目安に基地局を設置すれば全国でサービスできる。値段は厳密に決めていないが、月額2〜3千円で可能になるとのことであった。
間瀬氏は、ボランタリーネットワークの全国的普及のイメージについて、一般の車にアクセスポイントを設ける例を示した。車の価格と比べればアクセスポイントのコストは微々たるものであって、仮に自動車会社がアクセスポイントの搭載を決めれば車の販売と同じ割合で広がっていくことになる。ただ、ボランタリーネットワークの精神からいうと、自分の家の玄関にアクセスポイントを置こうとするのは個人の意志であり、自然発生的にできていくのが望ましいという。別な形としては、自治体などが勝手に置いていく方法もある。従来の無線LANの場合、設置場所や設計運用が大変なのだが、アドホックネットワークの技術を使えば、利用可能なリソースを使って勝手に上手くつながっていくだろうと述べた。
分散型への志向とネットワークの脆弱性
次に山田氏から問題提起されたのは、ネットワークが分散型へ向かう結果生じてくる脆弱性にどのように対応したらよいか、という点であった。分散型ネットワークの構築が進めば、ネットワークの管理やネットワーク犯罪者摘発、あるいは犯罪防止など、システム全体の安全確保についての課題意識が次第に薄れる危険性が高いという。
太田氏は、主にネットワーク機能の信頼性について述べた。モバイルインターネットサービスとしては、バッテリバックアップを持った無線基地局を置いたり、無線基地局のエリアをオーバーラップさせたりすることで、信頼性を保つことが考えられているという。
高橋氏によると、ネットワークの脆弱性についていろいろな課題があるが、そのほとんどはネットワークの上手な作り方によって解決できるだろうと見ている。ただ、氏が心配するのは悪意を持ったユーザへの対処である。セキュリティ対策を堅固にすれば、莫大なお金を対策に使わねばならないし、ユーザとしては使い勝手が非常に悪くなってしまう。特に、無線LANやアドホックネットワークは分散型システムなので、固定ネットワーク網に比べ、よりいろいろな問題を捕捉しにくいおそれがある。したがって、セキュリティ対策は、より重要な事項として考えるべき項目であると述べた。
また、第2セッションで重要通信を送信する義務についての議論が出たことを受け、分散型システムにおける重要通信の扱いをどうするかについて、間瀬氏はボランタリーネットワークの中で重要通信を考えるのは難しい面があるとしながらも、たとえば、自分が危険に遭遇したときに、すぐ助けを求められる範囲で自由に通信ができる可能性について触れた。
FTTHと分散型システムとの関連性
続けて山田氏から出された質問は、政府が強く方針を打ち出しているFTTH化とセッションのテーマとなった分散型システムとの関連性についてであった。
それぞれの立場からFTTHをどのように考えるかについて、まず太田氏の意見では、基本的に固定・半固定の相手は基本的に光ファイバでやればよいという考えであり、モバイルインターネットサービスは11Mbpsでサービスするため、回線の上り速度が遅いADSLでは力不足になる可能性が高いという。光ファイバの先に無線基地局を設置できれば、サービス品質も向上できるので、FTTH化の普及は歓迎したいとのことであった。
間瀬氏は、ボランタリーネットワークのコンセプトを広めるために、FTTHのような圧倒的な広帯域サービスを前提として、帯域の余りを自発的に他人に使ってもらう発想が広まってくればよいと述べた。
高橋氏からはFTTHに関して2点が指摘された。まず、技術的観点から言うと光の方が筋は良いので、いずれは光ファイバに変わると思われるが、問題はそのタイミングであるという。メタルの技術は予想以上にさまざまな可能性があり、たとえば無線技術を応用することで、随分メタルの寿命が延びている印象を受けるとのことであった。
また、光ファイバを誰がどう敷くのかという問題がある。米国の場合、インターネット技術の開発にはたくさんの税金を使って大変なサポートをしてきたが、実際にそれが上手く成功して商売になったとたんに政府はすべて手を引いて民間に任せる姿勢をとっている。国内では、自治体や政府が自らファイバを敷くという話もあるが、米国の政府とはまったく逆のアプローチであり、なるべく市場原理に任せたほうがよいのではないかという見解を示した。
山田氏は、FTTH化の方向性について、2001年9月11日の事件の際、現場で電話は通じにくかったのに対し、比較的インターネットでは連絡が取りやすかったことを例にあげ、「アクセス手段を一つに限るよりは、むしろ無線やCATVなど多様な手段が共存していくことが、結果としてネットワーク全体の信頼性向上につながるのではないか」とコメントした。
また、スウェーデンのストックホルム市でダークファイバサービスを行うストッカブ社社長・ホムステッド氏は、FTTH化について、「バックボーンに光ファイバを使うのはまず間違いないが、FTTHだけがすべての課題に対する答えではなく、各家庭やユーザをつなぐにはさまざまな異なるテクノロジーが使われることになるだろう」との見通しを述べた。
これまでのトップダウン型の電気通信事業とは異なり、社会的な意味でもすべての人々に複数の選択肢を与えようという方向へ動いているという。不思議なのは、このセッションで取り上げられた話題や技術についての議論は、スウェーデンでも同様に起こっているにもかかわらず、意外に互いに起こっていることを知らないことであるという。このことはまさに、アイデアが時期を得ている証拠であろうと述べた。
移動通信業界の構造改革は起こるか
会場からは、「先の三氏の報告によると新しい技術が移動通信業界の構造改革につながるだろうという見通しと、補完関係になるという話が両方出されていたが、たとえば、無線LAN上で携帯電話を使ったIP電話が定額制で提供されれば、業界再編につながるような大きなインパクトになると思うが、このような新しい技術はあくまで補完的なものにとどまるのか、それとも業界構造の改革につながるのか。仮に構造改革につながるのであれば、どのくらいのスパンでくるのか」という質問が出された。
太田氏によれば、無線でも有線でも電話網からインターネット電話網への移行は進むと見ており、モバイルインターネットサービスでは長くても3年以内に起きるだろうという。
また、間瀬氏によると、ボランタリーネットワークはこれまでのネットワークとは構築・運用形態が異なるため、自由勝手につくっていくネットワークが可能性として存在し得るかという問題はあるものの、技術的には実現に近い段階に来ており、5年から10年で形成されてもおかしくないと予測しているという。また、アドホックネットワークやボランタリーネットワークでは、一つのコミュニティネットワークをつくることができる点が特徴であるが、研究開発面でも従来の各企業が単独で研究開発することは難しくなっており、場合によっては、組織を超え、ときには大学の力も活用してもらって、上手く研究開発のコミュニティをつくることも必要ではないかと述べた。
一方、高橋氏の場合は先の二氏の見方とは異なり、分散型システムはあくまで補完的な役割を果たすと予想する。ハイエンドのユーザは確かに存在するが、その一方でマジョリティというのは、自分で無線LANを組んで管理するとはとうてい思えない。それぞれには適応領域があり、マニアやハイエンドのユーザは無線LANを使うかもしれないが、実際には、移動通信のキャリア(ドコモやJ-PHONE)から提供されるオールインワンシステムやサービスを使うユーザの方が多いと予測されるという。
また、会場からは、開発途上国あるいは人口過疎地域のインフラ整備について、無線LANやボランタリーネットワークの技術を使えないだろうかという提起がなされた。たとえば、PHSの技術は移動体端末として使わなければ、家にアンテナを立てて20kmぐらい電波を飛ばすことができるので、現にカンボジアでそのようなシステムが構築されている例もあるという。これについては、開発をより円滑にするために、人口密集地とそうでない途上国や過疎地といった場所の特性に応じて、柔軟に電波などに関する規制を変える必要性などが述べられた。
これら議論からまとめてみると、その分散型システムの具体像とは、移動端末用に特化した無線技術にあり、光ファイバの基幹網を前提としつつも、従来の有線・固定のネットワークと共存していく姿を描くことができる。アドホックネットワークなど、従来のインターネットの構築運用とは異なる新しい要素を持っているために、その普及方法や技術については難しい課題や未知数の要素を多く抱えていることがあらためて確認されたが、同時に、既存の通信・移動通信事業者に対するインパクトについても検討整理がなされ、将来展望としては意義あるセッションとなったのではないだろうか。
報告/豊福晋平(GLOCOM主任研究員)