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智場、GLOCOM Review、コラム…


 

中国型情報化―アメリカ型情報化へのオルターナティブ―

土屋大洋(GLOCOM主任研究員/ジョージワシントン大学サイバースペース政策研究所訪問研究員)

グローバリゼーションの波が押し寄せる北京

 11月に北京を訪問した。2年前の同じころ、初めて訪れたときには寒さに凍えたのだが、今回は異常気象だったらしく、滞在中ずっとコートは手に持ったままだった。

 それにもまして驚かされたのは、北京の街並みの変貌振りである。

 初めて北京を訪れた時には、自転車ではなくて自動車が多いことに驚かされた。シトロエンとシャレードの赤い小型タクシーが走り回っている。テレビで見ていた無数の自転車の群れはどこかへ行ってしまっていて拍子抜けした。しかし、乾燥した空気の中を、埃と排気ガスがもうもうと舞っているのには文字通り閉口した。

 2回目に北京へ行ったのは2000年5月である。このときはちょうど、建国50周年の記念式典の直後だった。天安門広場の前の大通りをパレードが行進し、それがテレビ中継されるとあって、通り沿いには近代的なビルがどんどん建てられた。実は中身は空っぽのままだったらしいが、中国の近代化が猛烈な勢いで進んでいることが感じられた。

 3回目の今回は、西側の象徴的なものがどんどん中国の人々の生活に入り込んできているのが垣間見えた。マクドナルドは早い時期から入っていたが、それと並んでKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)やスターバックスの看板が目立つようになった。香港でよく見かける衣料品店の看板もある。ベンツやレクサスの数も増えた。日本からは東芝やNECなどのパソコン・電化製品の他、牛丼の吉野家が12店舗出店している。

拡大する中国のインターネット・アクセス

 開店直後のスターバックスに入ってみた。ホット・チョコレートを頼み、2階席へ上がると、階段をロシアのプーチン大統領に似た男性が駆け上ってきた。私がどの席にするか迷っていると、彼は片隅に置いてあるノート・パソコンにまっしぐらに進み、電源を入れる。しかし、うまく起動しないらしい。階下の店員を呼んできて「▽*+%◎?」「&”○@??|◇」「謝謝」と話している。

 北京のスターバックスの一部では、無料でインターネット・サービスを提供している。無料といっても、スターバックスの飲み物は普通の中国人にとっては安くない。タクシーの初乗りが10元(約150円)、街角の食堂で10元出せば饂飩と小龍包が腹いっぱい食べられるのに、スターバックスのトール・サイズ(大中小の中)のホット・チョコレートは17元だ。
 プーチン氏が帰った後、私もパソコンを触ってみた。東芝の比較的新しいノート・パソコンで、ウィンドウズ98がインストールされている。無線用のLANカードがさしてあり、小さなアンテナが立っている。しかし、アメリカの会議場などでよく使われる IEEE 802.11b ではないようだ。スピードが遅すぎる。携帯電話用の電波を使っているのかもしれない。

 他の人がそのパソコンで何をしていたのかをのぞいてみた。アウトルックの中に残されていたメールには、中国語のスパム・メールらしきものの他に、「パパ、誕生日おめでとう」という英語のメールが来ている。プーチン氏のものかどうかわからないが、外国人が使っているようだ。

 相変わらずアメリカのサイトはつながらないものが多い。CNN.comとwashingtonpost.comには、スターバックスからもホテルの部屋からもつながらなかった。中国政府がネット規制を行っていることはよく知られている。しかし、最近は時機に応じて規制をやめたり再開したりということをしている。10月に上海でAPECが開かれたときには一時的にアクセス制限が緩和され、海外のニュース・サイトも見られるようになった。上海に押し寄せた世界中のジャーナリストに配慮したらしい*1。

 中国のインターネット利用者数は、CNNIC(China Internet Network Information Center)によれば、2,650万人に達している*2。無論、この数字は全人口から比べれば、約2.1%に過ぎない。しかし、絶対数としては十分に存在感のあるものだ。中華人民共和国以外の国に住む中国系の網民(ネットワーク利用者)を入れれば、相当な数になるだろう。中国系といっても、北京語、上海語、広東語などそれぞれ異なるから、簡単に一くくりにはできないかもしれないが、共通する基盤はあるだろう。

 同じくエスニック色の強いネットワークとしては、スペイン語を話す人たちのネットワークがある。特にアメリカではヒスパニックと呼ばれるが、ヒスパニックの人たちはデジタル・デバイドで取り残されている側にいるとされている。彼らにとってインターネットは自分たちの文化を反映するものではなく、熱心に取り組むインセンティブがないようだ。

 これに対し、中国系の人々にとってインターネットはとても重要になりつつある。台湾はもともと情報産業、特に半導体チップやコンピュータ製品の開発に力を入れてきた経緯もあり、インターネット推進には熱心だ。香港も都市国家という利点を生かして情報化を進めている。そして、何よりも大陸中国の政府がインターネット推進に熱心なのだ。

 しかし、中国のインターネットの採用の仕方、情報化の進め方は、アメリカ的な情報化とは大きく異なっている。政治体制が異なるのだから、当然といえば当然の帰結であり、これは「良い、悪い」の問題ではない。産業化の道が必ずしも一つではないように、情報化の道も一つではないということだ。「産業革命では多くを逃してしまったが、情報革命は逃してはならない」という思いが、中国共産党の中にはあるという*3。

インターネットは簡単だ

 中国が産業化で遅れているからといって(といってもすでに先進国には中国は世界の工場となりつつあるが)、中国のインターネットも遅れていると考えるのは早計だ。中国はレイト・カマーのアドバンテージを十分に活用しようとしている。すでに主要都市間には光ファイバー網が整備され、WDM(波長多重)を使った高速通信が行われている。特に上海は、中国網通と呼ばれる新興ネット企業が中心となり、ブロードバンドの整備を始めている。

 FTTH(Fiber To The Home)サービスを始めているのは日本だけではない。北京市内でもいくつかの地域ではすでに提供されている。北京のエリート大学である清華大学の教員は、自宅アパートに光ファイバーを引いている。市内にどんどん建築中の新しいアパートでは、そうしたブロードバンド・サービスが組み込まれている。ただし、入り口から出口まで、すべてのネットワークが光ファイバー化されているわけではないので、たとえば海外のサイトを見るときには思ったほどのスピードは出ないこともあるそうだ。

 大半のインターネット利用者は、ダイヤルアップ接続をしている。これが中国では至極簡単だ。ひょっとすると世界でいちばん簡単なのではないだろうか。文字通り、パソコン、モデム、電話線があればいい。ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)への事前登録はいらない。電話番号は「169」、ダイヤルアップのためのIDも「169」、パスワードさえも「169」でいいのだ。

 実際にホテルから接続してみた。設定は図1のとおりである。電話番号の前に外線発信のための「9,」を付けただけである。本当にたった3桁の電話番号で通じるのか疑っていたのだが、あっさりとつながり、パスワードの認証もすんなり通ってしまった。スピードは 24 kbps ぐらいで、それほど速くはないが、簡単であるということは重要だ。

 韓国ほどではないが、ネット・カフェもたくさんできてきている。たとえば、市内のパソコン・デパートの最上階にある百脳氾がある。「百脳氾」とは「百の(つまりたくさんの)電脳(コンピュータ)が溢れているところ」という意味である。

 平日の昼間に行ったせいか、使っている人はほとんどが学生風の若い人だった。70台ほどある端末はすべて埋まっており、5〜6人が列を作って待っている。それぞれの端末に椅子はなく、長時間使うためのものではない。

 実は、ここでは私たち外国人は、端末を使うことはできない。ここで使うためにはまず登録をしなくてはならないのだが、その条件の一つに「中華人民共和国の市民であること」というのがある。中国政府の発行する身分証がなければダメなのだ。

 ちゃんと身分証を提示できた人は申込書に記入し、30元(約450円)を支払う。これで半年間は料金を払う必要がない。1回の利用時間は30分で、30分経つと別の人に譲らなくてはならない。しかし、また並びなおせばいくらでも使える。

 別のところでも、インターネットは使われている。中国では、携帯端末でのIP電話が2年前から実用化されている。通りを歩いていると、店先に「IPカード」と書いてある。そこで袋に入ったIPカードを買い、袋の中のカードに書いてあるアクセスIDとパスコードを携帯電話から打ち込めば、すぐにIPネットワークを介した通話ができるようになる。つまり、手元の携帯端末と街中にあるアンテナの間はデジタル化された音声の信号を無線でやり取りし、そこから先はIP網を通って、普通の固定電話でも海外の電話にでもつなげることができるのだ。

 このIP電話は、最初は格安の国際電話がかけられるとして人気を博したが、そのうちどういうわけか偽のIPカードが出回るようになり、問題になっているという。しかし、こうした思い切ったサービスは、後発だからこそできるというものではないだろうか。

通信傍受は当たり前

 ところで、先述の169の料金はどうなっているのだろう。料金は正確にはわからないが1時間2元以下で、電話料金込みで請求される。北京滞在6日間で頻繁に使ったのだが、55.63元(約834円)にしかならなかった。饂飩5杯分をどう考えるかだが、やはり安いと感じられる。
 ポイントは、電話料金とともに請求が行われるというところだ。これは、電話会社がISPを兼ねているということを意味する。電話会社は、利用者がいつネットにアクセスしたかを記録し、それに基づいて請求する。欧米や日本の電話会社が是非ともやりたいサービスだろうが、競争上の理由から普通はできない。中国では今のところすべての通信会社が国営だからできるのだ。ホテルでもチェックインのときにパスポートと名刺の提示が求められるので、中国政府は正確に誰がどう使っているかを把握している。

 さらに言えば、通信会社はインターネット上で誰が何をどれくらい読み書きしているかを記録しなくてはならないと法律で定められている。中国でのインターネット利用について定めた法律「互連網信息服務管理弁法」(互連網はインターネット、信息は情報、服務はサービスのこと)の第14条によれば、コンテンツ事業者はそのコンテンツがどのような内容で、いつ公表され、どこにあるかを60日間記録しなくてはならない。同じく接続サービス事業者(つまりISP)は利用者のアクセス時間やネットワークのアドレス、電話番号などの記録を60日間保存しておかなくてはならない。そして、政府当局からリクエストがあればそれを提供する義務がある。

 同じく第15条では、中国憲法に反する内容や、国家の安全保障にかかわる情報、ポルノなど有害と考えられる情報を提供してはならないとされ、違反すると刑事責任を問われる。

 電子掲示板サービスについて規定した「互連網電子公告服務管理規定」によれば、掲示板に掲載された情報は、発信者に関する情報も含めて、すべて60日間保存されなければならず、有害情報を発見した場合には、政府当局に報告する義務がある。

 通信の秘密と自由を主張するアメリカでは考えられないことだが、中国ではむしろ当然のこととされている。アメリカが至上価値を置く「自由」よりも、中国は「社会の秩序の維持・安定」のほうが重要だと考えているからである。アメリカ的な価値観からこれを批判することは簡単だろうが、9月11日のテロ以来、アメリカもまた社会秩序を重視する方向へと転換してきているという事実を認めなくてはならない。出発点があまりにも離れている両国だが、アメリカのFBIは、中国のようなシステムなら捜査がどれだけ簡単かと思っているかもしれない。

網民が智民になる日

 こうした高度に管理されたインターネットに対する不満が、中国国民の中にないわけではない。いくら中国政府がアクセス規制をかけても、その気になれば海外のさまざまな情報にネット経由でアクセスすることはできる。海外の組織や個人に煽動されて、やがて大っぴらに批判をする人々が出てくるかもしれない。

 しかし、一般の中国の人々の受け止め方は違うようだ。インターネットは、これまで一方通行だった情報の流れを双方向にする可能性を持っている。中国政府の発表は人民日報とテレビを通じて一方的に発表され、国民はそれを受け入れるしかなかった。あるいは共産党のヒエラルキーを上っていくことで、影響力を行使することができるだろうが、それには長い年月と忍耐が必要である。

 インターネットは、中国の人々が政府に対して物申す一つのチャンネルになりえる。人民日報が主宰する「建国論壇」という掲示板には、政府の政策に対する批判も含めて相当自由な書き込みがある。その中の一部は先の法律に従って削除されることもあるが、貴重な議論の場となっていることも確かである。

 人々も、政府も、この新しいメディアの可能性を潰すまいと考えているように見える。政府はいつでもインターネットを止めようと思えば、止められるが、それがどのように中国社会と国家体制に影響するのかを確かめるべく、実験しているように思えてならない。

 中国のネットワーカー(網民)たちは、やがて智識と技術を蓄えた智民へと成長していくだろう。そのとき中国政府はどう対処するのかが重要な分かれ目となる。

WTO加盟と市場改革

 2001年11月、数年かけて行われてきた交渉がようやくまとまり、中国のWTO(世界貿易機関)加盟が承認された。

 WTO加盟は、これまで保護されてきた中国産業が徐々に競争にさらされていくことを意味する。世界経済の一角を占めることになる喜びを感じるとともに、グローバルな競争がもたらす負の側面に中国は怯えている。書店にはWTO関連の本が特設コーナーに山積みにされている。

 グローバルな競争に対処するため、中国政府は通信産業のてこ入れを行ってきた。かつては中国電信による独占事業だったが、規制部門として信息産業部を発足させ、事業体を分割、新設することで7社の通信会社を有するに至っている。つまり、中国電信、中国移動通信、聯通、吉通、網通、鉄通、衛星である。これらの事業者にはそれぞれ得意分野があり、全部が水平競争を行っているわけではないが、市場シェアのほとんどは中国電信、中国移動通信、聯通の3社で占められており、今後も政府の舵取りが必要だろう。

 しかし、通信産業がWTO加盟後の中国経済にとって重要な位置を占めるという点を、政府が強く意識していることは間違いない。情報関連のハードウェア産業においては、パソコンの聯想を筆頭に、ある程度の基盤固めは済んでいる。巨大市場を求めて進出してくる外資系企業との折り合いをどうつけていくのかが一つの課題となるだろう。

 WTO加盟後のもう一つの課題は、悪名高き違法コピーの問題である。プログラムを書くということで相応の報酬を得られるようにする、つまりは違法コピーを防ぐということが、人的基盤の強化につながるということがもっと認識される必要がある。

 北京で情報化プロジェクトに携わっている人が、「中国は観光とITに力を入れるべきだ。ITは工業と違って人材が一番重要なのだ」と言っていたのが印象的である。Netherlands Institute of International RelationsのPeter van Hamは、国家はブランド化を進めていくという議論を展開している。地理的・政治的な条件はどんどん些細なものになっていき、それに比して、ますますグローバル化する消費者の間で感情的に訴える力を持っているかが重要になるというのである*4。中国は良かれ悪しかれ強烈なブランドを有しており、それを良いイメージだけのブランドに変化させることができれば、中国の競争力はもっともっと上がるだろう。

中国型情報化

 ロサンゼルスに本拠を置くPacific Council on International PolicyのNina Hachigianは、中国はスリー・パート戦略をとっているという。つまり、(1)経済成長といくらかの個人の自由を提供し、(2)インターネットのリスクを管理し、(3)その可能性を利用する、というのである*5。

 これは、自由に至上価値を置くという点以外は、実はアメリカ型情報化とさほど変わらない。逆にいえば、インターネットが作り出す自由こそが最も重要な差異なのだろう。繰り返しになるが、自由か社会秩序か、どちらに重点を置くかで情報化の様相が変わってくる。

 中国型情報化は、アメリカ型情報化についていけない国々にとっては一つのモデルとなるだろう。少なくとも隣国の北朝鮮は参考にするだろう。アメリカ文化の流入に抵抗しつつも、グローバル経済に参加したい中東やアフリカの国々にも参考になるかもしれない。中国は社会主義市場経済という壮大な実験に、管理情報革命という実験を加えようとしている。

 中国は、自らを発展途上国として位置づけながらも、西側先進国と伍していきたいという強い欲求も持っている。そうした欲求が原動力となって、情報化は進んでいくのかもしれない。

*1 「中国が海外ニュースサイトを解禁 APECへ配慮か」
CNN.co.jp <http://www.cnn.co.jp/2001/TECH/10/17/china.internet.reut/index.html>(2001年10月17日掲載)。

*2 China Internet Network Information Center, "Semiannual Survey Report on the Development of China's Internet (2001/7)," <http://www.cnnic.net.cn/develst/rep200107-e.shtml> (published in July 2001: accessed on November 30, 2001).

*3 Nina Hachigian, "China's Cyber-Strategy," Foreign Affairs, March/April 2001, pp.118-133.

*4 Peter van Ham, "The Rise of the Brand State: The Postmodern Politics of Image and Reputation," Foreign Affairs, September/October 2001, pp.2-6.

*5 Hachigian, 前掲書。

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