スポーツの効用
土屋大洋(GLOCOM主任研究員/ジョージワシントン大学サイバースペース政策研究所訪問研究員)
野球のワールド・シリーズが大熱戦のうちに終わった。野球シーズンが終わると、バスケットボールとアメリカン・フットボールの季節がやってくる。
ワシントンD.C. のバスケットボール・チームは、例年以上に盛り上がりを見せている。神様マイケル・ジョーダンがワシントン・ウィザーズの一員として現役復帰したからだ。ジョーダンは引退後、ウィザーズのオーナーのひとりだったが、経営権を返上して一選手として復活した。しかし、ウィザーズは今のところ連敗続きで、ジョーダン効果が結果に現れるのには時間がかかりそうだ。
ワシントンD.C. のアメリカン・フットボール・チームは、レッド・スキンズである。レッド・スキンズの人気は相当なもので、一試合だけ見たいと思ってもチケットが手に入らない。そもそも発売すらしていない。全部のチケットが、シーズン・チケットと呼ばれる一シーズン通しのチケットになっているからだ。
このシーズン・チケットは決して安くないのだが、これもすぐには買えない。長いウェイティング・リストがあって、空きが出るまでずっと待たなくてはならない。企業が接待のために買い占めているという噂もあり、普通の人がレッド・スキンズの試合を見るのは無理に近い。
かくしてフットボール・ファンは大学チームの観戦に行くことになる。私が先月まで所属していたメリーランド大学には、テラピンズ(Terrapins)というチームがある。「テラピン」とは、辞書によれば、「ヌマガメ科のカメ;(特に)キスイガメ、ダイヤモンド・テラピン《北米産食用カメ》」となっている。メリーランド州の「州の爬虫類(State Reptile)」が、ダイヤモンド・テラピンであることに由来している。マスコットのマークはまるでガメラのようだ。
私は実はアメリカン・フットボールのルールを知らない。ラグビーと違って前に投げてよいというぐらいの知識しかなかったのだが、11月3日のTroy State大学との一戦を見に行った。
フットボールのスタジアムは、メリーランド大学の広大なキャンパスの片隅にある。土曜日だが、キャンパスの中には駐車場に向かう長い列ができる。スタジアムはプロのものとそう変わらないと思わせるほど立派で、売店なども完備している。試合前にはブラスバンドの演奏やチアリーダーの演技などが行われる。
チケットは一律25ドルだが、学生しか買えない学生席はなかなか埋まらない。ところが、私の座った一般席は、試合開始20分前にはぎっしりと満席だ。だいたいアメリカ人はこういう場合にきちんと自分の席に座らないことが多いから、自分の席をちゃんと主張しないと座れなくなる。
どうやら一般席に来ているのはほとんどがOBやOGのようで、「Go! Terps! (テラピンズを略してタープスという)」という叫び声があちこちからあがり、校歌が流れるときは大声で歌う。私の前に陣取った子ども4人と両親の家族連れは、両親が卒業生らしく、猛烈な応援だ。学生席も試合が始まるといつのまにかいっぱいになった。応援の甲斐あって、テラピンズは前半戦は相手に1点もとらせない強さで、結局47対14で圧勝だった。
物騒な情勢のなかで大勢の人が集まるところに行くのは不安がある。しかし、そうした不安を共有しながらも、それをひととき忘れさせてくれるスポーツに、観衆は熱中しているように見えた。エンターテインメント色の強いアメリカのスポーツの効用は、こういう時にこそあるのかもしれない。