米国電子商取引―第1章の終わり―
講師:エリオット・E・マックスウェル(アスペン研究所・デジタルエコノミープロジェクトSenior Fellow/前米国商務長官特別顧問/GLOCOMフェロー)
クリントン政権当時、商務長官特別顧問、FCC(連邦通信委員会)特別補佐官などを歴任し、米国IT政策に深くかかわったElliot Maxwell氏によるIECPコロキウムが2001年11月27日に開催された。以下はその概要である。
副題にあるように、電子商取引は終章を迎えたわけではなく、第1章が終わっただけ。これから種々の展開があり得る。米国ではインターネットバブルが崩壊し、いま不況の中にある。テレコム業界の株価は2001年初より15%(=1.7兆ドル)も下落し、シリコンバレーの失業率は2.8%から6.4%に上昇した。それでもITに対するベンチャー投資は1997年の規模を維持し、インターネットのユーザ数は2000年より15%増加した。ECベンチャーで破産したのは9%に満たない。
次の章にはすべての産業でIT統合が起こり、新たなビジネスプロセスが注目されるようになる。サイバー空間とリアル空間との二者択一はあり得ない。たとえば、Wal-MartのようにITを活用するリアルビジネスが伸びる。eBayはオークションをサイバー化し、売り手も買い手も社員のようにして成功した。ブッシュ政権の下でもEC政策は進化している。ただし、政策は、セキュリティ、電子政府、ブロードバンドなどに重点が移っている。
電子政府の役割は、政府自身のイニシアチブが特に重要である。資産の売却や資材調達、世論調査、各補助金申請、税申告、認証、危機管理、研修や採用など、電子政府の課題は民間と基本的には同じで、プロセスを改善することで初めて効率アップとなる。
ブロードバンドに関しては、コップの水半分の進捗状況であり、これをまだと見るか、もうと見るかの違いはある。ブロードバンド関連は、1998年までは5万ドル以下だったが、2001年には1,000万ドル以上と予測されている。実際の普及よりもユニバーサル・アクセスが可能かということがより重要である。JP モルガンの予測では、ケーブルモデムでは73%の世帯がアクセス可能であるのに対し、DSLは45%に過ぎない。一方、固定無線、移動無線、衛星、FTTHと多様なメディア選択ができることも重要だ。
ブロードバンドの普及の障害としては、プロバイダにとっては、ナローバンドと比べて投資効率が必ずしも良くなく、既存のサービスが影響を被る可能性があり、価格も2001年になって、DSLは月額48ドルから52ドルへ、ケーブルモデムは40ドルから44ドルへとむしろ高騰している。ブロードバンドのユーザも、まだメールやチャットに使っている状態である。放送型の応用では、著作権問題が不安要因である。なお無線によるブロードバンドは米国ではまだ認識不十分である。
政府はブロードバンド普及のために、まず政府機関、学校、図書館などで利用を図るとともに、優先的な敷設やダークファイバの利用、償却方法、ユニバーサル・サービスなどの法的整備、プロバイダに対する補助金、低利融資、減税など種々の刺激策を進め、さらに次世代の創造的破壊技術のための投資を行っている。
EC政策には七つのCがある。Connectivity, Compatibility, Competition, Confidence, Content, Cost, Customer friendlyである。ECにおいて、イノベーションを引き起こすために最も重要な点は、アイデアも、仕事推進の組織も、技術標準も、市場への参入退出も、Essential facilityへのアクセスも、資本市場も、労働政策も、ソフトウェア開発も、基本はすべて "Openness principle" にあるということである。
会場からも活発な質問があった。それらに対する主な回答は、次のようであった。
Q1:新政権下のIT政策の変更は?
A:ブッシュ政権では超党派によるIT政策となっている。
Q2:米国はブロードバンド普及に後れを取るのでは?
A:ブロードバンドは韓国、カナダ、スウェーデン、米国が先行しているが、その普及の理由は各国で異なる。
Q3:知的所有権の扱いは?
A:Digital Millennium Copyright Actは実効があがるか疑問だが、copyrightの問題は著作権者とフェア・ユースとの対立の中で、いかにR&Dや教育に配慮すべきかが議論のテーマである。
Q4:ブロードバンド投資が先か、需要が先か?
A:ブロードバンドは投資規模が拡大してきているのは事実だが、政府が推進母体や方法を指示するのではなく、オープンな競争によって生じる技術の多様性こそが重要で、結果として優れた技術が残る。
Q5:日本でのブロードバンドの価格が、米国の半分程度になってしまったが?
A:日本の価格レベルが長期に続くのか、あるいは日本の方が、米国より効率が2倍いいのかどうかをも含め、現在適切な回答は見つからない。長期的なサービス提供を可能にするコスト構造があるのかどうかが一番問題。
Q6:米国のITバブルは何だったのか?
A:米国のITバブルは崩壊した。ITが無限に成長するという群集心理的な幻想そのものがバブルであった。そして市場で退場すべき敗者は退場した。
Q7:米国のIMT2000は軍が所有している周波数帯がネック。解決の見通しは?
A:無線技術そのものの将来性は楽観視しているが、その他の技術との多様性のなかで、今後の標準化、互換性の確保、アクセスの範囲の拡大が行われるだろう。人生を特定のデバイスに合わせる必要はない。なお、9.11以降は、軍に周波数を返せという交渉は悲観的になった。
小林寛三(GLOCOMフェロー)