中国のIT人材開発
土屋大洋(GLOCOM主任研究員/ジョージワシントン大学サイバースペース政策研究所訪問研究員)
情報技術に関する人材が不足しているのはどこでも同じようだ。アメリカや日本で電子政府に対する注目が高まっているが、そうした公的セクターでの仕事の報酬は魅力的でないことが多い。優秀なプログラマーであるほど、魅力的なオファーを提供する企業に行ってしまうだろう。
状況は中国でも同じである。どんどん出てくる新しい技術に追いついていくのは、個々のプログラマーにとっても大変だが、最新の技術を持つ優秀な人材を引きとどめておくのも難しい。
中国でエリート大学といえば、北京大学や清華大学が挙げられるだろう。しかし、この2校も「アメリカの大学へ行くための予備校」といった批判を受けるときがある。つまり、優秀な学生たちは卒業するとどんどんアメリカへ留学あるいは就職してしまい、人材の流出が著しいというのだ。中国政府は「21世紀の重点大学」として全国の100大学を重点的に支援する方針を打ち出し、人材育成に力を入れはじめたが、成果があがるには時間がかかるだろう。
ただ、アメリカのIT不況を受けて留学生たちが戻りはじめているというのも事実である。シリコン・バレーを牛耳るといわれるIC(インドと中国)だが、マネジャー・クラスは中国人よりもインド人のほうが多いといわれることもあり、アメリカでの出世に限界を感じた若い中国人たちが、北京の中関村(ベンチャー企業の集積地)で一旗あげようと戻ってくるのである。中国のソフトウェア会社の3分の1が北京に集中している。
しかし、そうした優秀な人材の才能が埋もれてしまうのが今の中国のIT業界だ。北京星流諮詢服務有限公司の董事・総経理(社長)の須藤健氏によれば、創造性豊かなソフトウェアを開発しても、すぐにコピーされてしまうために、パッケージ商品を作るインセンティブが開発者になくなり、確実な収入の見込める企業向けのカスタマイズド・プログラムばかりを書くようになるというのだ。
かくして、浮遊するプログラマー集団が北京で形成されつつある。その大部分は未熟な技術で何とか稼ごうとする人たちだが、一部は本当に優秀な人たちで、より良い稼ぎを求めて企業を渡り歩いている。
さらに隠れた課題とされているのは、そうしたプログラマーたちを束ねるマネジャーの教育である。独特の仕事のスタイルを持つことが多いプログラマーたちを管理し、成果を着実にあげるには管理する側であるマネジャーの教育も急務なのである。
今月のビデオに登場するのは、中国社会科学院の汪向東(Wang Xiangdon)教授である。中国社会科学院と言えば、中国政府のブレーン的機能を果たしており、それこそエリートが集まるところである。汪教授に「中国政府はIT人材育成についてどう考えているのか」という質問をぶつけてみた。
汪教授は、「政府も人材育成に力を入れようとしている。もっとたくさんの人にPCとインターネットを使わせたいと考えている。民間企業の力も借りながら人々にトレーニングの機会も提供している。しかし、中国は広大な国であるために、これはとても難しい課題であり、大きな挑戦となるだろう。日本のiモードのような携帯端末によるアクセスを普及させることも、裾野を広げるために必要かもしれない。安く簡単に使えるようにすることが大事なのだ」と指摘する。