P2Pの理念及びその実現技術:SIONetの全貌
講師:星合隆成(NTT未来ねっと研究所ネットワークインテリジェン ス研究部主幹研究員)
11月のIECP研究会は、「P2Pの理念及びその実現技術:SIONetの全貌」と題し、NTT未来ねっと研究所の星合隆成氏を講師として開催された。一昨年あたりから世界中で注目を浴びているP2P(peer-to-peer)に関して、その本質はいったい何であるのか、同氏が開発を手がけたP2P実現技術としてのSIONetとはいかなるものか、といった点についてデモンストレーションを交えながら熱心な解説がなされた。
星合氏はコンピュータネットワークの発展形態を考えるとき、今日Gnutella等により実現されるP2Pの世界は、第3世代として分類可能であるという。同氏によれば、第1世代のコンピュータネットワークにおいては、「ブローカ」として位置付けられるパソコン通信会社等の情報配信者が、ユーザと情報提供者の間を介在する役割を果たしていた。同氏はこれを「ブローカ型配信モデル」と呼ぶ。
これに対して、第2世代を開拓したのがWWWであるという。それは、ユーザに対してネットワーク上のあらゆる情報をブラウザを介して利用することを可能にしたと同時に、情報提供者には「ブローカ」の手を借りることなく、情報を直接利用者に配信することを可能にした。配信という側面において、仲介者を不要なものとしたということで、同氏はこれを「ブローカレス型配信モデル」とし、そうした意味ではWWWもP2Pの原初形態であったといえるという。しかしながら、氾濫する情報、急速に増加する利用者のなかから、必要な情報の探索、あるいは相応しい情報配信先を特定するにあたっては、WWWとともに登場してきたポータルサイト、リコメンデーションサービス、トレーダ等の新たなブローカの介在を要する結果となった。同氏はこのように、探索により発見された相手とのやりとりはpeer-to-peerで行うものの、探索においてはブローカの手を借りる形態を「ブローカ型探索モデル」と位置付けており、Napsterもこの域を越えるものではないという。
こうした変遷を踏まえて、第3世代として登場したのが、情報の探索から情報配信までを「ブローカレス」で行う「ブローカレス探索モデル」であり、Gnutella等によって実現される本質的なP2Pの世界であると説く。すなわち、これまで存続してきた「ブローカ」の存在を必要とせず、利用者と情報提供者が、直接探索し、自らの求める相手を発見し、さまざまなネットワークサービスを構築・運営することが可能となる世界である。また、生成されたネットワークは、参加者の一部が障害等によって脱退しても、自律的に自己組織化され、サービスは維持・継続されるという。そしてGnutellaなどと同様に、こうしたP2Pの世界を実現するのが、同氏が開発した意味情報ネットワーク(SIONet: Semantic Information-Oriented Network)であるという。
3台のパソコンを駆使して実施されたSIONetのデモンストレーションにおいては、アプリケーションの一つとして、ネットワーク上にチャットルームが生成される模様とともに、その生成のきっかけを作った端末が脱退したあとも、チャットルームが継続して機能する様子が実演された。SIONetをベースとするアプリケーションとしては、同様にネットワーク上でのファイル交換や個人放送局を可能にするものが、試作品として開発済みであるという。さらにこの技術を利用することによって、分散コンピューティング環境を構築し、あるいは、特定の参加端末のグループにサーバ機能を持たせ、それ以外の参加端末をクライアントにみたてることにより、クライアント・サーバシステムとして機能させるといった利用も可能になるという。それは、サーバを構成する一つの端末が災害等でダウンしても、他の参加端末によってサーバ機能の維持を図ることが可能な障害に強いシステムといえよう。このように単にエンド端末間でグループを生成しサービス提供するのみでなく、その運営の仕方いかんで、さまざまなビジネスモデルが共通の仕組みをベースとして運営することが可能になるのである。
参加者とのディスカッションにおいても見られたとおり、P2Pについては、今日さまざまなとらえ方がなされており、同氏の説くP2Pの定義付けには違和感を持つ向きもあるかもしれない。しかし、それは、むしろP2Pが多用な側面を持ち、まだまだ多くの可能性を秘めた技術あるいは概念であることを物語っているといえよう。
花井靖之(GLOCOM主任研究員)