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智場、GLOCOM Review、コラム…


 

産業技術基盤構築事業第三回シンポジウム
「組織の壁を越えたグループ形成と産業創造」

山田肇(GLOCOM主幹研究員)

 2001年12月19日、福岡市のパヴェリアホールで「組織の壁を越えたグループ形成と産業創造」と題するシンポジウムが開催された。年末の忙しい時期であるにもかかわらず、およそ100名の聴衆を集めて行われたシンポジウムでは、以下に説明するような興味深い発表が数多く行われた。

組織のあり方を変えていくべき時代に

 シンポジウムは、日本工学アカデミー(EAJ)の得田与和専務理事の総合司会で始まった。はじめに、産業技術知識基盤構築事業の受託元であるEAJを代表して、九州大学梶山千里総長が次のような挨拶を行った。

 組織の壁を越えてグループを形成することで、組織のあり方を変えていくべき時代がきた。大学には学問領域間の協力が求められている。具体的な例として、考古学者の発掘に土壌学や自然科学の先生たちが参加すれば、研究が一層進展するだろうという期待がある。そのように、学内で協力関係を形成することが必要である。大学と産業の関係についても、特定の先生が特定の企業に協力するというようなレベルを超えて、もっと広範に相互交流する必要がある。大学が元になってベンチャー企業を興そうという動きも、組織の壁を越えたグループ形成によって、はじめて可能になるだろう。

 次に、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の公文俊平所長が、キーノートスピーチを行った。

 MITのDavid Reedが提唱した、グループ形成メディアが注目されている。インターネットを通じて、自由にグループを形成してコミュニケーションを図るという行為に、自動車に対するのと同じ程度の支出をする人々が出てきた。これに伴って、知識人とマスメディアの関係も変化している。知識人がインターネットを含むさまざまな場で、より自由に発言するようになりはじめた。軍事力や資金力よりも、説得の力が意味を持つ時代になりつつある。説得力を力の根源としてグループを形成している人々のことを、軍事力を保有している政府ではないという意味でNGO、資金の獲得や利益を目的としているわけではないという意味でNPOなどと今は呼んでいる。こういったグループに、もっときちんとした名称を与える必要がある。

第一部/パネル討論
「産業技術知識基盤構築事業」

 GLOCOMの山内康英教授の司会により、パネル討論が実施された。

 最初に経済産業省の石黒憲彦課長が、次のように発言した。「1990年代に日本が低迷した原因は、需要の減少にあると考えている。企業の場合には需要が減少すれば労働力をカットすればよいが、一国の場合には人口をカットするわけにはいかない。政府は公共事業に金を注ぎ、需要を喚起しようとしてきたが、そのような施策では資金が切れるたびに需要が再び減退してしまう。むしろ、今こそ、わが国に新産業を創出していくことが重要である。その点で、産業技術知識基盤構築事業は重要である」。

 次に、筆者が、産業技術知識基盤構築事業の進捗状況を報告した。「事業の中では研究者による自由討論の場、すなわちプラットフォームが準備される。すでに40を超えるプラットフォームが形成され、活発な議論が開始されている。その議論から新しい産業の芽が生まれてくることが期待されている。それが成功するためには、国内の関係する団体、すなわち、学会、工業会、公設試験所、大学などの協力が不可欠である。すでに100を超える組織が協力の意思を表明している」。

 以上の報告を受けて、牛島和夫九州システム情報技術研究所長が次のようにコメントした。「本年(2001年)4月に、大学からこの研究所の所長に異動した。二つの組織での仕事の進め方には決定的な相違がある。大学では、一つひとつの研究室がそれぞれ独自に活動していた。この研究所では、研究企画部とプロジェクト推進部が横断的に研究所全体を管理している。それによって新しい仕事が次々と生まれている。産学連携による技術移転には、このようなマネジメントを担当する組織と人材が不可欠である」。

 井出剛トランスジェニック社長は次のようにコメントした。「トランスジェニックは、遺伝子を解析して、その情報を販売することを業務とするスタートアップ企業である。国内の多くの大学には、いろいろなたんぱく質に関する情報が死蔵されている。それを掘り起こして、価値のある情報に変える仕事を行っている。大学の技術力とトランスジェニックのような営業力が組み合わさって、はじめてビジネスが進展するものと考えている」。

 筆者は、「研究者だけが集まってグループを形成しても、そこからすぐに産業が生まれるわけではないという意見に同意できる」とし、「産業技術知識基盤構築事業の場合には、弁護士、弁理士、会計士、技術士など、技術を商品に変えるのに必要な、サポート業務の推進者も参加をする仕組みを構築しているところである」と、牛島、井出両氏のコメントに返答した。

 会場からは、プラットフォーム活動と知的財産権の関係に関する質問が出た。「知的財産権に直接関係しない程度の学会活動と類似の活動として、まずはこの事業を進めることにしており、その趣旨で企業に参加の要請をしている」と、石黒氏は回答した。「しかし、そのように進めても知的財産権に関係することになったときには、参加者の合意で、非公開のプラットフォームに変えることができるようにシステムを設計している」とのことであった。

 また「国内にビジネススクールが少ないことが、新産業の創出が進まないことの一因ではないか」と、会場の参加者からの指摘があった。パネリストらからは「社会人の再教育のためにビジネススクールを創設したり、LSIデザインについて教育するコースを新設したりと、実務的な教育を充実する方向に国内大学は動いている」との回答があった。

第二部/報告
「グループ形成と産業創出:九州における実例など」

 パネル討論に続いて、矢野清之助北九州テクノセンター部長が講演した。同センターは、大学からの技術を移転するためのTLO(Technology Licensing Organization)である。それに加えて地元企業の技術を移転することも業務としており、その点、他のTLOとは異なるユニークな組織である。すでに特許の実施許諾契約が6件成立したと活動状況を報告したうえで、同氏は今後の日本の展望について、「国際競争力の低下に立ち向かうには、日本人に根づいている好奇心、改善意欲や精緻嗜好などを武器に、知的財産権に裏づけされた新製品を世界に送り続けるしかない。そのためには、効率的な技術移転システムが必要で、組織を越えて競争と協力をすることが肝要である」と述べた。

 次に、凍田和美ハイパーネットワーク社会研究所特別研究員は、大分県の情報化に果たしている同研究所の役割について講演した。「有体物の生産・流通・消費のサイクルの上に、無体物である情報の生産・伝達・享受のループを重ねることが本当の情報化である」と、同氏は基本的な考え方を説明した。「それを実現するには、有体物のサイクルが市民と組織によってボトムアップ的に構築されてきたように、情報のループもボトムアップ的に組み立てていく必要がある。公的にネットワークを構築すればおしまいというトップダウン的な考え方は間違っている。同研究所はそのように考えて、大分県の情報化に協力している」という講演であった。

 最後に、日工フォーラム社の出口俊一部長と森万抄雄メディアプロデューサが、同社で推進する産業店というシステムについて講演した。万民が情報を発信する時代に新聞社はどう対応すべきなのかを考えて、日本工業新聞では産業店というポータルサイトを構築した。企業は自由に新製品の情報をこのポータルサイトに掲載することができ、技術者や購買担当者は、それを自由に検索できる。すでに1日に2万回のアクセスがあるサイトに成長している。そのアクセスを分析してマーケティング情報に加工し、それを同社が有料で販売して、事業の経費を得る仕組みになっている。製品情報の電子カタログ提供事業ではなく、製品の供給者と需要者をつなぐナレッジレベルの連携の調整者になりたいと、両氏は考えているという。

 以上に報告してきたように、今回のシンポジウムでは、組織を越えたグループの形成が実際に起こりつつあることが、いくつかの事例で紹介された。これらは公文氏の説くグループ形成メディアの先行的な実例と考えられる。産業技術知識基盤構築事業に関連する過去のシンポジウムが概念レベルでの議論にとどまっていたのに比べて、実際的な内容を多く含んだシンポジウムであった。

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