「情報化時代の個人情報保護とプライバシー保護」
講師:青柳武彦(GLOCOM主幹研究員)
2001年最後のIECP研究会は、「情報化時代の個人情報保護とプライバシー保護」というテーマで、GLOCOM主幹研究員の青柳武彦氏が講演を行った。
「個人情報保護」というキーワードからは、先ごろ国会で継続審議となった「個人情報保護法案」が思い出されるかもしれない。この法案をめぐっては、表現の自由の侵害を懸念する報道機関や、個人情報保護という制度が濫用される可能性を指摘する専門家からの反論も根強かった。しかし青柳氏は、個人情報保護法の意義は、個人情報を利用したさまざまなサービスを促進しつつも、個人のプライバシーに属する情報が目的外に流用されることを防ぐことが趣旨だという点を強調した。たとえば、現在はさまざまな事業者によって大量の個人情報が収集されているが、この個人情報が目的外に利用されていないのは、その事業者の規律によるにすぎない。また、現状では、自分に関して登録されている個人情報を確認したり、必要に応じて修正を要求したりする権利が保障されていない。そこで、彼が主張するように「個人情報」を「保護」するための仕組みが必要になってくる。
青柳氏が、法律による個人情報保護に積極的なのにはもう一つ理由がある。それは、日本の現行法では、個人情報を含む、プライバシーを守るための法律的枠組みが事実上存在しないことだ。彼によれば、憲法第13条の、いわゆる「幸福追求権」の規定が日本において、個人のプライバシーを裏づける唯一の根拠だという。この状況ではプライバシーを侵害された場合にのみ、しかも事後的に民事裁判を通じて損害賠償を求めることができるにすぎない。このような枠組みでは、個人情報を保護するには十分とは言えない。個人情報を収集する事業者に対して、目的外利用を禁止するなどの予防措置をとるためにも、憲法以外の実定法の制定が必要となる。
プライバシーの権利とは、もともとジャーナリズムの好奇の目から「放っておいてもらう」ための権利として考えられたのが始まりだという。しかし、個人情報がネットワークを通じて広範囲に拡散し、その一方で、個人情報と引き換えに個人がさまざまなサービスを受けられるようになった今日、このような消極的なプライバシー権を認めるだけでは実情にそぐわない。人々が、より安全に、自分の情報を開示しつつ、本当に秘匿したい個人情報は保護していくための法的な仕組みが求められるのだ。
結局「個人情報保護法案」は、2001年度の国会では成立に至らず継続審議とされたが、このことに青柳氏は失望と懸念を示した。OECDやEUなどでは、個人データのプライバシーの保護が不十分な国へのデータ移転を制限しているため、この問題は、国際的な電子商取引に影響する可能性もあると彼は警告する。国会に上程された法案に対しては、彼自身問題なしとしていたわけではないが、少なくとも現状の何もないフリーハンドの状況からは早急に脱する必要があるという。
青柳氏は「個人情報保護」という言葉自体が、誤解を招きがちだった点にも言及した。そもそも個人情報保護という発想は、ある人物にかかわる情報のうち、個人のプライバシーに属するものを保護しようというもので、個人についての情報すべてを「保護」し、事業者を拘束しようとするものではない。ましてや、表現の自由や個人のプライバシーを侵害しようとするものでもない。彼が指摘するように、この言葉の影に問題の本当の意義が隠されてしまったとすれば残念なことだ。
上村圭介(GLOCOM主任研究員)