『米国の地域通信会社に対する構造分離規制』
(GLOCOM Review 2001年11月号(通巻68号))
城所岩生著
1996年アメリカ連邦議会は、電気通信法の制定により、通信法を62年ぶりに改正した。この法律の最大のねらいは地域通信への競争導入であったが、すでに制定後5年半以上経過したにもかかわらず、地域通信市場の競争は進展していない。既存地域通信会社が行ってきた音声通信だけでなく、新しいDSL等の高速ネット接続の分野でも、業績不振の新興地域通信会社を尻目に、既存会社は着実に業績を伸ばしている。このため、連邦や州では地域通信への競争導入を進めるため、既存の地域通信会社を卸売会社と小売会社に分離する、構造分離案に注目している。
本稿では、現在検討されている通信業の構造分離規制について、その歴史的な経過、先鞭をつけたペンシルベニア州の検討状況、上院に法案が提案された連邦議会の動向と、それぞれの実現見通しについて述べられている。
歴史的な経過では、まず、連邦通信委員会(FCC)によるコンピュータ裁定、Satellite Business System 認可に際する構造分離要求のほか、裁判所による1982年修正同意判決のAT&T分割、1996年電気通信法改正のおり、地域通信会社の長距離通信事業進出に際して連邦議会が取り決めた構造分離などについて触れている。また、ペンシルベニア州のケースでは、地域通信会社ベライゾン・コミュニケーションズの扱いをめぐり、州公益事業委員会に提出された二つの請願から、卸売・小売部門の構造分離/機能分離が争われた過程を詳細に紹介している。さらに、連邦議会の動向としては、2001年8月、上院商業委員会のホリングス議長から、地域通信会社の機能/構造分割をねらった法案(ホリングス法案)が提出されたことが紹介されている。
公正な競争を目的とした取り決めや規制を比較するうえで、本稿にあげられた各事例は興味深い。これらをまとめてみると、@行動規範や取り決め(96年法による地域通信設備開放義務、あるいは86年FCCの第三次コンピュータ裁定でのONA: Open Network Architecture)、A機能分離、B構造分離、C資本分離、の順に規制が厳しくなることがわかる。それぞれの方法は一長一短があり、A機能分離では同会社の部門間で収益の内部相互補助が行われる可能性があり、これを監査する側にコストがかかり、B構造分離では内部の監査を行う必要はないものの、事業に際する設備や要員の重複によって会社側のコスト増が懸念されるという具合である。
最終的にどの手段が選択されるかは、かなり状況に左右されることも明らかである。ペンシルベニア州の例では、構造分離によって予想される訴訟や過剰規制よりは、卸売・小売部門の機能分離と競争保障措置を実施することで、利用者の利益を優先させることになったが、82年のAT&T分割では、構造分離よりも強力な資本分離が選択された。
本稿のテーマとする地域通信会社の機能/構造分離については、著者も指摘するように、ペンシルベニア州以外でも検討されたが、採用した州は皆無であり、連邦レベルでも、構造分離の方法よりは、むしろ地域通信会社に対する地域通信設備開放義務(14項目のチェックリスト)についての罰則規定強化をもって、通信設備開放の実効を上げようとする意図がみられる。州あるいは連邦のレベルで機能/構造分離が実現する可能性は、それほど高いとは言えないようである。
豊福晋平(GLOCOM主任研究員)