12月のニューヨーク
土屋大洋(GLOCOM主任研究員/ジョージ・ワシントン大学サイバースペース政策研究所訪問研究員)
12月初旬と中旬の2回、ニューヨークを訪れた。私にとっては9月11日のテロ事件以後、初めてのニューヨーク訪問だった。
1回目は飛行機、2回目は電車で行った。ニューヨークとワシントンD.C.の間は、テロ以前はシャトルと呼ばれる航空便が主流だった。シャトル便は、席が空いていればすぐにでも乗れる気軽さが受けて、ビジネスマンがよく利用していた。しかし、テロ以後は需要が一気に下がり、値段もぐんと下がった。値段をいくら下げても客はなかなか戻ってこない。片道59ドルというところも出てきた。
他方、アムトラックと呼ばれる電車は大盛況だ。こちらは時間もかかるし、運賃も飛行機より高い。おまけに値上げまでした。まったくもって市場メカニズムが生きている。しかし、安全を気にする人たちがこぞって利用し、案外乗り心地がいいことがわかって人気を博している。シートベルトを締める必要もなく、電源コンセントも付いているため、広い座席でゆっくりパソコンも使うことができる。
よく考えてみると、電車のほうが時間がかかるといっても、実は今ではほとんど同じぐらいだ。以前のシャトル便は空港に30分前に行けばよかったが、今では国内線は2時間前までに行かなくてはならない。結局は大差なくなってしまったのだ。安心感をお金で買うと思えば電車でいいという人が増えている。
話がそれたが、意外にもニューヨークは活気づいていた。人々は意気消沈し、ビジネスは落ち込んでいるのかと思っていた。ワシントンD.C.では観光客がめっきり減ったために、政治と観光が命のワシントン経済には大きな影響が出ているのが感じられる。しかし、ニューヨークの人々は何事もなかったかのように歩いている。
五番街に行ってみると、クリスマスのプレゼントを探す人々や、観光客がたくさん歩いている。閉まっている店はほとんどない。レストランもいつも通りの賑わいだ。
冬の名所、ロックフェラーセンターのスケートリンクに行くと、例年のように人々がスケートを楽しんでおり、大きなクリスマスツリーが飾られている。すぐ横にはニューヨークで初めて炭疽菌が発見されたテレビ局のビルがあることもあり、警官の数は多い。しかしその横では、サンタの衣装を着た救世軍の人々が鐘をカランカラン鳴らして募金を呼びかけている。
もちろん、人々の心の中では大きな変化があるのだろう。私は今回は、グラウンド・ゼロと呼ばれる世界貿易センター・ビルがあった場所には行かなかった。犠牲者のことを思えば気が引けるし、毎日のようにテレビで見せられて、これ以上見たくないというという気持ちもあったからだ。
テロ対策でマンハッタンからオフィスを移転させる企業や、少なくとも高層ビルはやめようとする企業も多い。しかし、「いつも通りの生活をしよう」という声もよく聞かれる。そうすることがアメリカの自由、民主主義、開放性を支持することにつながるというのだ。
ニューヨークでの自由時間にストロベリー・フィールズを訪れてみた。ビートルズのジョン・レノンを記念して、夫人のオノ・ヨーコが、セントラル・パークの西側の一部を買い取り記念プレートを埋めたところだ。同じくビートルズのジョージ・ハリスンが亡くなったばかりであり、ジョン・レノンの命日の前日ということもあって、たくさんの花が添えられていた。平和を願ったジョン・レノンの歌を多くの人が思い出していたのだろうか。