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智場、GLOCOM Review、コラム…


 

『個人情報保護とプライバシー保護』
GLOCOM Review 2001年12月号(通巻69号)
青柳武彦 著

 2001年3月27日に小泉内閣によって閣議決定された「個人情報の保護に関する法律案」(略称:個人情報保護法案)は、2001年12月現在でもなお国会での継続審議となっているが、この法案は憲法に保障された「表現の自由」を侵すものだとして、メディア業界を中心に強い反対が起きたことはまだ記憶に新しい。筆者は、この法案の反対運動や批判について考察し、そこにはさまざまな誤解や観点の欠落があると指摘する。個人情報とプライバシーの保護に関する議論は、その曖昧さや複雑さゆえに、法案の意図や本質的課題が容易に理解されにくい状況を招いているのである。

 本論における筆者の意図は、このような現状を鑑みて個人情報とプライバシーの保護に関して明確な定義を与え、歴史的経過と課題を整理・提示しようとするものである。

 まず、筆者は、プライバシー保護とは「個別的」な個人のプライバシー保護の問題であるのに対して、個人情報保護とは多数の人間に共通して生じる「集合的」なプライバシー権保護の問題であるととらえた。

 プライバシー権は、一般的には「自己情報をコントロ−ルする権利」と理解されているが、もう少し詳細かつ限定的に、「個人の不可侵私的領域を主張する権利、及びそれを一部開放する場合の範囲及び対象を自己決定しかつ制御する権利」として再定義を行った。また、プライバシー権の本質としては、任意規定中心の私法的領域における「受動的プライバシー権」と、強行規定中心の公法的領域における(公権力による公法的保護を必要とする)「能動的プライバシー権」に分けて概念整理を行うことを提唱している。

 筆者は、日本におけるプライバシー権をめぐる法環境は、憲法第13条の「幸福追求権」が唯一の法的根拠であり、実定法に明示的な規定がないためにきわめて曖昧で不安定である、と指摘している。

 現実問題として、すでにプライバシー権は多くの裁判において認められており、判例法を形成しているが、現状では事後の救済しか行えず、盗聴やパパラッチ行為等の取り締まりや事前の予防措置を取ることはできない。

 そのような情況に対処するためには、「プライバシー権保護」についての新たな立法的措置が必要である、と筆者は主張する。その法律は、社会法的な位置づけのものであり、個別的なプライバシー権と個人データについての集合的なプライバシー権(=個人情報保護)の双方を規定するものである。

 日本における「個人情報保護法案」は、民間事業者のデータベースに関連して、国民のプライバシー権を護ることを目指していたものであった。この立法措置により、プライバシー保護についての法的根拠がようやく確立されることになる。先に述べたように、この法案には強い反対運動が起こっているが、筆者によれば、これら批判論の大半には、個人データに関連して国民のプライバシー権を護る必要性についての視点が抜け落ちているという。

 最後に筆者は、情報通信産業や電気通信事業と個人情報保護との接点について取り上げた。情報通信産業において、個人データに関して顧客のプライバシー権をいかに護るかという課題は、電子商取引のターゲット・マーケティング戦略を展開する企業にとってきわめて重要な経営課題となっている。電気通信事業者も同様に、業務において知り得た顧客の情報の取り扱いについての仕組みを作り直す必要があるだろうと述べた。

豊福晋平(GLOCOM主任研究員)

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