Product Accessibility for Disabled People
講師:ローレンス・スキャデン(コンサルタント)
IT社会の到来に大きな期待が寄せられるなか、諸々の事情により、その恩恵を享受するのが難しい人々がいる。障害をもった人々による情報技術へのアクセス・活用についても、そのハードルは高く、多くの困難が伴うという現状があり、解決すべき課題は少なくない。ローレンス・スキャデン氏は、自らも5歳のときに失明し、ハンディキャップをもつという立場を踏まえ、こうした課題の解決に向けて長年取り組んでいる。GLOCOMでは、去る2月5日、来日した同氏を迎え、GLOCOMコロキウムを開催した。同氏は1986年以来、リハビリテーション法の実効化に尽力するとともに、1991年にはNSF(全米科学財団)のディスアビリティ・イニシアチブの所長に招聘され、さらに最近では米国アクセス委員会の電子情報技術アクセス諮問委員会の委員長を務めるなど、この分野において非常に重要な役割を果たしてきた。
デジタルデバイドの問題に関しては、パソコンの利用や情報へのアクセスを図書館等の公共の場で提供する、といった取組みが語られることが多い。確かに "Accessibility" を確保することは重要であるが、それは利用できることとは必ずしも同一のものではなく、アクセスだけでなく "Usability" を確保することこそに重要な意味があると氏は語る。そして、パソコンやインターネットは、健常者にとって有益なものであるが、それ以上に障害をもった人々の能力を拡大し、そうした人々の "Independence" を可能にし得るものであるという点の重要性を強調した。にもかかわらず、たとえば米国において、障害者のパソコン保有率は健常者の半分であり、インターネットの利用率においてはその4分1にとどまっているのが現実であるという。
こうした点を踏まえ、障害者の情報技術利用促進に向けて、これまでにどのような取組みがなされてきたか、米国リハビリテーション法を中心に解説がなされた。障害をもつ人々の権利を扱う法律は過去にもみられたが、ITの重要性が社会的に認識されるようになったことを踏まえ、2001年に同法508条が修正された。これにより、二つの考え方、方向性が定まったという。すなわち、米国政府は、
1)政府機関において障害をもつ職員が、職場の電子情報技術を利用可能にすること、
2)障害をもつ国民が政府の情報にアクセス可能にすること、
が義務づけられるというものである。これはあくまでも連邦政府のIT機器の調達やそのWebサイトに関する義務を規定するものであるが、連邦政府が世界有数のITユーザであることを考えるとき、IT関連業界の製品開発等に与える影響は非常に大きなものになると考えられる。同氏はこの法律が遵守されることにより、障害をもつ人々の権利が拡大されるのみならず、以下のような便益をもたらすであろうという。
第一に、これまで、情報技術の利用ができないために雇用機会を得ることができなかった人々も含め、より多くの人々に労働機会を与えることが可能になる。第二に、同法に基づく連邦政府による調達のみならず、国外の障害者、あるいは高齢者、一般の人々に対するものも含め、製品販売数の増加に寄与するという。障害をもつ人々は他国においても同様の割合で存在するし、障害をもつ人々が利用できるようにした製品は、高齢者や健常者にとっても利用しやすい製品となることが想定されるからである。そして、それらは一般的な製品の設計の改善にもつながり、より便利で使いやすい製品の供給へとつながるという。
このように米国リハビリテーション法508条は、重要な意味合いをもつ進歩をもたらしたが、障害をもつ人々が情報技術を活用し、さまざまな形で社会参加を実現していくにあたっては、まだまだ解決すべき課題は少なくない。最後に同氏が述べたように、さまざまな立場の人々が意見を交わしながら、時間をかけて取り組んでいくことが重要であろう。
花井靖之(GLOCOM主任研究員)