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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

く・も・ん・通・信

 2月の研究協力委員会での議論に触発されて、小野善康さんの『誤解だらけの構造改革』(日本経済新聞社、2001年12月刊)を読んでみました。この本で展開されているのは“不況期のマクロ経済学”です。小野さんがそこで力説しているのは、好況期のマクロ経済で成立する命題や政策の有効性の多くは、不況期では意味を失うということです。

 そういわれてみると、確かに、経済が完全雇用状態からほど遠く、巨大なデフレギャップ(需要不足)をかかえている状態のもとでは、“成長率”を云々する議論はあまり意味がなくなります。昨年に比べて、国民総生産がかりに何パーセントか増えたところで、デフレギャップ率が増大していたとすれば、経済の病状はさらに深刻になっていることになります。効率の悪い部門をリストラして雇用を減らせば、経済全体に与える効果は、生産性の低い職場から生産性ゼロの(つまり、そもそも生産そのものをしない)場所に資源を移したことになり、かえってマイナスになります。

 バブルの崩壊が引き起こした株価や地価の下落で、日本人が失った資産の価値は1千兆円以上に上るだろうといわれています。これが人びとの消費意欲や投資意欲に水をかけていることは明らかです。また、6パーセント近い失業率があるということは、それだけでデフレギャップも約30兆円あることになり、さらに労働時間の短縮や不要な労働者のかかえ込みなどが広く行われているとすると、実際のデフレギャップは、その倍にも3倍にも及んでいる可能性があります。「それなのに、財政支出によってたかが数十兆円を、しかもその分を別の人たちから取ってきたおカネで戻すだけでは、景気に影響がある方が不思議」(p.104)だし、「政府がわずか数十億円規模で株式を買おうが、数兆円程度の積極財政を行おうが、人びとの信用の同調など起こらない。それを実現するには、巨大市場の出現や画期的な新技術の開発といった、社会的にインパクトのある大変革が必要となる」(p.28)と小野さんは指摘しています。

 また、小野さんの本を読んで私もあらためてなるほどと唸ったのですが、非効率な公的部門を縮小して民営化することで経済全体の効率化をはかるのは、好況期の完全雇用状態にあってこそ意味のある政策であって、不況期にそんなことをすれば、景気はますます悪くなるだけだというのは、マクロ経済的にはまさにその通りというしかないでしょう。しかし、その過程で“腐敗堕落した悪人たち”が追放されると国民の“(分配の)正義感”が満足されて、“やる気”、つまり消費意欲や投資意欲が澎湃として巻き起これば、そこで景気は本格的な回復に向かうのだから、“一時の痛み”は我慢せよという論理は、本当にそれで正しいのでしょうか。どうも、分配をめぐる正義感の満足やガス抜きと、経済的・社会的発展をめざす意欲との相関関係は、それほど高くないと考える方がより現実的かもしれません。そうだとすれば、マクロ経済的な景気振興策は、やはりそれと並行して実施する必要があるでしょう。

 小野さんはこう結論しています。「本当にやるべきこととは、せっかく余っている生産能力をいかに活用し、国民生活を単に物質面で豊かにするにとどまらず、廃棄物処理やリサイクル・システムの構築といった環境面、芸術や教育といった文化面も含めて、国民の生活をどのように豊かにするか、こうした長期ビジョンを提示することである。そうすることによって人びとの力を生かし、本当の意味で無駄が減るのである」(p.226)と。

 私はそれに、“CAN”の全面的な構築と利用を付け加えたいと思います。とりわけ、常時接続・双方向・高速の“コミュニティ・アクセス・ネットワーク”を、全国の各地域で、各地の実情にあわせて構築し利用する面での競争が、智民たちのリーダーシップによって全国いたるところで展開され、それに企業が協力し政府が支援するのです。それを日本再生の突破口にしていきたいというのが、私たちの夢です。GLOCOMは、今年度から、強力な地域情報化チームを編成して、研究活動をさらに深化させると同時に、その成果の実現をめざして、CANフォーラムと緊密に協力しながら共働事業の展開をはかりたいと考えています。

公文俊平

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