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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

2010年の移動通信を見通す四つのシナリオ

講師:山田肇(GLOCOM主幹研究員)

 GLOCOMは、アクセンチュア(株)と共同で、10年後の移動通信市場を展望する共同研究を実施した。2月18日に開催されたIECP研究会では、本共同研究に参加した山田肇GLOCOM主幹研究員により、その概要について解説がなされた。

 同共同研究の研究成果では、シナリオ・プランニングと呼ばれる手法にもとづき、第四世代移動通信(4G)の実現が見込まれる2010年の移動通信市場を、四つのシナリオで描き出している。それらのシナリオを描くカギとして、二つの軸を置いている。ひとつは、「既存キャリアが立ち上げつつある第三世代移動通信(3G)がどれくらい普及するのか」であり、もうひとつは、「3Gサービスの競合サービスとして注目を集めつつある無線LAN等の3G以外の有料無線通信サービスがどれくらい普及するのか」である。これら二つの軸にもとづき、『はてしない物語』『新時代の夜明け』『覇権争い』『神話の終焉』と名づけた四つのシナリオを描き出している。

 『はてしない物語』では、既存キャリアによる現行2Gユーザへの移行が成功し、音声・データともにマスユーザは3Gを利用し、3G以外のサービスは都市部のホットスポットサービスの一部利用にとどまるというものである。その結果、既存キャリア主導で4Gのサービスの統合が進められ、その他の無線通信サービスを集約していくことになるという。既存キャリア主導のマーケットが果てしなく続くというわけである。

 『新時代の夜明け』では、新規参入プレーヤがホットスポットから面的な拡大を成し遂げ、VoIP(Voice over Internet Protocol)技術をも活用しつつ、音声・データ共に3G以外のサービスがマスを獲得するというシナリオである。3Gはハイエンド商品として、一部ビジネスユーザを確保するにとどまり、既存キャリアはユーザの減少を補うため、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)を積極的に活用するようになり、顧客接点はMVNOが握り、既存キャリアはネットワークの提供のみに特化していく。そうした流れのなか、4Gサービスは、新規参入プレーヤや、それらから無線インフラの提供を受けるISPの主導によって統合がなされるとしている。

 『覇権争い』のシナリオでは、3Gおよび3G以外のサービスが共にマスユーザを獲得し、音声通話、データ通信等の利用形態によって使い分けがなされるとする。4Gサービスの提供にあたっては、既存キャリアと新規参入プレーヤ/ISPが主導権争いを演じ、その勝者がサービスアグリゲータの地位を獲得するとする。

 『神話の終焉』のシナリオでは、3Gおよび3G以外の有料通信サービスもマスに浸透することができず、ニッチにとどまる。ここでの主役は、最近その萌芽がみられつつある無料通信サービスである。FTTH(Fiber To The Home)等で実現される固定系広帯域サービスの余剰帯域が無線LAN基地局等を経由して、自発的な個人や組織によって無線通信向けに無償提供されるというものである。自治体や草の根ISPによるボランタリーネットワークが拡大し、特定用途向けのビジネスユーザを除くマスユーザを吸収してしまう。サービスを統合しうるプレーヤは存在不可能となり、有料通信サービス市場そのものが崩壊してしまうというシナリオである。

 本共同研究においては、こうした四つのシナリオに対する市場規模も試算しており、その概要を示したものが<図>である。ここでの試算対象は、ユーザ(人間)の利用に対する基本収入(基本料金、トラフィック収入)であり、モノ対モノの通信に対する収入やコンテンツ代金、プラットフォーム利用料金等は含まれていない。この図から、それぞれのシナリオによって大きな開きが現出することが見てとれる。そして、これらのシナリオすべてに実現可能性があり、それらのどのシナリオが実現するかは、技術革新や技術標準等の「技術的な要因」、各社のビジネス戦略や内外のマーケット動向等の「企業側の要因」、政府の政策等による「社会的な要因」、顧客ニーズ等の「ユーザ側の要因」等、さまざまな要因によって規定されるとしている。

 山田主幹研究員は一部私見も交えつつ、これらシナリオを規定する要因のなかで、3Gの普及に関しては、「ビジネスユーザにとどまらず一般ユーザを獲得していくうえで、既存キャリアのデータ通信料金戦略が重要なファクタになるであろう」、また、3G以外の無線通信サービスの普及に関しては、「混信やデータレートの低下を回避する周波数政策の動向が重要になってくるであろう」とした。そして、「ボランタリーネットワークの普及に寄与すると想定される光ファイバに対する政府の公的資金活用状況、諸々の事情により混迷を続ける欧米市場における3Gサービスの展開状況等が、これら四つのシナリオの方向性に関する大きな決定因子になるのではないか」とも説いた。そのうえで、このような不確実性の高い移動通信市場に携わる企業としては、どのシナリオのもとでも存続可能なように対策を施しておくリスク分散が必要であるとした。また、理想的なシナリオというのは、個々の主体によっても異なり、たとえば『神話の終焉』シナリオは産業にとっては悲劇かもしれないが、国民にとってはそれが理想的とも考えられるわけで、公共投資による光ファイバ整備等についても、それがどのような影響を与えるかを議論したうえで展開していくことの必要性を強調した。「ここで示されたシナリオのなかで、どのような方向に導いていくのが理想的なのか、広くコンセンサスを得ながら戦略的な行動をとっていくことが重要なのであり、今回提示したシナリオがそれに寄与できれば」と講演を締めくくった。

花井靖之(GLOCOM主任研究員)

※講師および報告者の所属、肩書きは3月31日時点のものです。

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