米国破産法第11章
青柳武彦(GLOCOM主幹研究員)
破綻相次ぐ米国企業
米国の電気通信事業会社やドットコム企業の経営破綻が相次いでいる。過日、某社の海外営業担当の方と雑談していた折に、その方が「あの会社はいろいろ問題が多くて、巷間ではそろそろイレブンかな、と噂されている」という表現をされた。「そろそろイレブンかな」とは、「そろそろ米国破産法*1第11章適用の申請かな」という意味である。弁護士でも法務関係でもない日本のビジネスマンが仲間内でそういう表現で話をしているほど、米国の電気通信事業会社やドットコム企業の破綻のトラブルは広まっており、関心の的となっているのかなと感じいった次第である。
アトランタには“Chapter 11”というふざけた名前の書籍のオンライン・ディスカウントストアがある。「あまりに安いから、これではこの店は破産法第11章行きではないか」と顧客が心配してくれるだろう、という意味だそうだ。一般国民の間にもこうした表現が通じるようになってきていることの、一つの現れといってよいだろう。
破産法第11章は日本の会社更正法相当か?
破産法第11章についての日本語文献にはほとんどの場合、「日本の会社更正法に相当する」と解説が付記されている。たしかに会社を更正するための法律には違いないが、日本の「会社更正法」とは異なり、むしろ「民事再生法」*2の方が近い。
米国破産法第11章と日本の民事再生法の最も特徴的な点は、ともに従来の経営陣が引き続き再建計画を策定し、債権者の同意と協力を得てこれを実行する点にある。逆にいうと、その点が米国破産法第11章と日本の民事再生法の最大の弱点でもある。能力や識見に問題があったかもしれない経営陣が引き続き経営を担当するために、同じ間違いを引き続き犯す危険性があるからである。
これに対し日本の会社更正法は、会社更生手続き開始の決定と同時に裁判所は債務者の資産の保全(債権取り立てや担保権実行の停止)を行い、一人または数人の管財人を選任指名する。その時点で従来の経営陣は経営上のあらゆる決定権と当事者能力を失い、更正管財人の監督下に置かれる。管財人は更正計画案を作成して裁判所に提出する。債権者と株主が再建計画案に同意すれば、裁判所の認可を得て、裁判所の監督の下で再建計画を実行する。
米国破産法第11章の概略
米国破産法第11章の適用は、必ずしも即、倒産/破綻を意味するわけではない。あくまでも現状のビジネスを継続しつつ、事業の再建を行うために必要なメカニズムを確保するための法律的手続きである。適用申請者は債務者または債権者である。
米国破産法第11章の適用を裁判所に提出して承認されると、次項以下に述べる手続きが実行されるが、同時に、現状のビジネスを続行することを前提にして、当該企業は特別融資を受ける道が開ける。取引企業に対しては、従来どおりの決済条件で当該企業との取引が継続できるように保全措置が講じられる。当該企業の従業員も、従来どおりの給与を確保するための保全措置が講じられるのである。
米国破産法第11章の手続きのあらましは次のとおりである。
(1)資産保全
申請が受理されると、ただちに自動停止措置(Automatic Stay)と称する保全措置が発効し、当該企業に対するすべての債権回収行為や担保権の実行が停止される。この自動停止措置は手続き終了まで継続される。
(2)債権者会議
裁判所は、債権者すべてに第11章の適用開始を通知し、債権者会議を招集する。債権者会議は7大債権者とその他の債権者で構成され、裁判所はそのメンバーの中から当該企業の財務、経理、労務、製造、その他の分野別の現状を調査し分析する委員を任命する。また債権者会議が承認した監督委員を任命するが、この監督委員は、他の破産関連の手続きにおいて実質的に社長権限を持つ管財人とは異なる。裁判所はこの監督委員や債権者会議と協議しながら、当該企業がすべての経営資料を提出したか、支援環境の中であれば本当に事業継続が可能かどうか、を判断する。
(3)経営権
手続き開始後も、現状の経営陣は「通常営業行為」(Ordinary Course of Business)に関する限り、経営権や資産管理処分権を継続して持つことができる。通常営業行為を越える行為は、裁判所の個別的許可を要する。管財人は任命されないが、裁判所が必要と判断するに至ったときは、この限りではない。
(4)再建計画
救済命令の日から120日以内に、再建計画案を提出しなければならない。現経営陣が期間内にこれを提出できなかった場合には、債権者や他の利害関係者が再建計画を提出することができる。再建計画が裁判所の承認を受けられなかったときは、第7章に規定する清算手続きに入らなければならない。
(5)再建計画案の認可
債権者は債権の種類に応じて組分けされ、組ごとに再建計画に対する諾否(賛成は人数にして過半数、債権金額にして3分の2以上の合意が必要)が問われる。すべての組が同意するか、同意しない組があっても再建計画が公正・衡平原則に合致していると認定されれば裁判所は認定する。
米国破産法第11章の適用例
次に米国破産法第11章が適用され、あるいは適用されつつある大型倒産の例を二つ見てみよう。
(1)イリジウム
これは再建計画の失敗例である。米国イリジウム社は、米モトローラ社が推進した衛星による国際携帯電話事業計画「イリジウム計画」の事業会社として1991年に設立された。イリジウムの原子番号に相当する77機の低周回軌道(LEO)通信衛星を打ち上げて、国際的な携帯電話網を構築するという総事業費47億ドルの壮大な計画は、当時、世界中の注目を浴びたものである。後に衛星の数は72機*3に訂正されたが、事業名はそのまま存続となった。同社は1998年11月からサービスを開始した。日本でもDDI(現KDDI)や京セラ等が設立した日本イリジウムが、1999年1月からサービスを始めた。
しかし、端末のサイズと重さ、通話タイミングの遅延問題、サービス料等の問題により加入数が伸び悩み、遂に1999年8月には15億5,000万ドルの融資返済が不能になったために、ニューヨーク州連邦破産裁判所に米国破産法第11章の適用を申請するに至った。その後、100%減資後の再投資による大型増資を前提として、事業再建の努力を続けてきた。DDI(当時)と京セラも支援体制を表明していた。しかし、結局は充分な数の投資家を集めることができなかった。翌年3月にはクレイグ・マッコー氏*4がイリジウムへの追加投資を断念したので、再建計画の実行が事実上不可能となり、米国破産法第7章の清算手続きに入った。これにともない日本イリジウムも、2000年3月に清算されるに至った。
この約50億ドルが注ぎ込まれた事業の資産に対して、いくつかのグループが名乗りをあげたが、いずれも超安値を提示した。ニューヨーク州連邦破産裁判所は、そのうちの実際に保証金を支払うことができたグループ(後に Iridium Satellite LLC として継承)が、たったの2,500万ドルで買い取ることを承認せざるを得なかったのである。2000年12月には米国防総省が、事業停止中の衛星を使用した携帯電話サービスを2年間につき7,200万ドルで利用する契約を締結した。結局は日本テレコムや京セラを含む民間事業会社が投資をして開発した通信衛星インフラストラクチャーを、米国の軍隊が格安で手に入れたという結末になった。
(2)グローバル・クロッシング
通信大手のグローバル・クロッシング社(本社バーミューダ)は、これまで米国、欧州およびアジア諸国において光ファイバー網を構築し、世界27カ国の200以上の都市でサービスを展開してきたが、需要低迷により経営計画どおりの収入が確保できず、経営が急速に悪化した。その結果、遂に125億ドルの借金を抱えて2002年1月28日、米国破産法第11章の適用をニューヨーク南部地区破産裁判所に申請して受理された。なにしろ米国発の海底ケーブルの約20%を保有している大手であるから、その影響は極めて大きい。香港のハチソン・ワンポア社とシンガポール・テクノロジーズ・テレメディア社から7億5千万ドルの融資を受けて再建を目指すといわれている。
しかし、ここにきて人為的に売り上げを膨らませていたという疑惑が発覚して、SEC*5とFBIの調査が入った。90年代の後半には同社やクエスト、レベル3などの事業者が互いの回線を長期リース契約(Indefeasible Rights of Use:取消不能使用権)によりスワップしあって広域網の構築に努めたものだが、このリース売上代金を契約期間に関係なく一括計上して収益を操作していたというものである。特に同社のクエストとの取引が問題視されている。こうした不正経理操作問題があると、破産法第11章はもともと現経営陣の誠実な経営姿勢と能力を尊重して再建への道を確保しようという方策だけに、裁判所から再建計画の承認を取り付けるのが極めて困難になる。
同社は今のところ、再建計画実施中も米国および世界中における業務を従来どおり継続し、顧客へのサービスにも変更はないと発表しているが、現実にはすでに関連会社にも影響が出始めている。子会社の アジア・グローバル・クロッシング社(AGC)は、1999年にマイクロソフトとソフトバンクの合弁会社として設立され、香港のハチソン・ワンポア社やシンガポールのシンガポール・テクノロジーズ・テレメディア社と提携して事業を展開してきたものだが、早速資金不足に陥った。親会社から資金を引き出せなくなったためと見られている。
日本においては、グローバル・クロッシング・ジャパン(株)およびアジア・グローバル・クロッシング・ジャパン(株)の2社が活動を行っているが、双方とも米国破産法第11章を申請した米国企業とは別企業なので、日本国内における事業展開には全く影響はないと発表している。
このように米国破産法第11章は、従前からの経営の枠組みをあくまでも尊重し、事業を継続せしめつつ経営の建て直しを図ろうとする善意に満ちた前向きの制度ではあるが、現実には大型倒産の場合には実効を挙げることが難しい。それまで事業を正当化していた経済や社会の枠組みやビジネスモデルそのものが立ち行かなくなって、破綻に至っているケースが多いからであろう。
*1 米国破産法(National Bankruptcy Code):連邦制の行きわたった米国であるが、こと破産に関する限り連邦憲法によって連邦議会の専権立法権に属するとされており、各州の議会による破産関連の立法権は排除されている。事件は連邦裁判所としての破産裁判所(Bankruptcy Court)がこれを扱うことになっている。ただし破産裁判官(Bankruptcy Judge)は、1984年の改正破産・連邦裁判官法に基づいて地方裁判所(District Court)の補助裁判官の扱いとなっている。第11章は自主再建(Reorganization)についての手続きを規定し、第7章は清算(Liquidation)手続きを規定している。
*2 民事再生法:従前の和議法が廃止されて、1999年12月に民事再生法が成立、2000年(平成12年)4月1日から施行された。原則として現在の経営陣が主体となり、債権者の同意を得て再建計画を作って、裁判所の承認を得て企業の自主的再建を目指すというものである。ただし、裁判所が必要と判断した場合には監督委員を選任し、以後は債務者(経営者)は裁判所が指定した行為については監督委員の同意を得なければならない。また経営者の資産管理や処分に著しい問題があると判断したときは再生管財人が選任されて、以後、経営者は経営に関する権限を失う。
*3 72機:66機のサービス機および6機の予備機の合計。1998年5月までにすべての打ち上げを完了した。
*4 クレイグ・マッコー(Craig O. McCaw):米国最大の移動電話会社マッコー・セルラー・コミュニケーションズ社の会長。
*5 SEC(U.S. Securities and Exchange Commission):米国証券取引委員会。1934年の証券取引法に基づいて設立された独立の証券業界監督官庁で、一般投資家を保護し市場の公正さを確保する役目を持っている。米国の金融システムは直接金融システム(株式、社債、CP等の有価証券による資金調達)が中心で、銀行を介す間接金融システム中心の日本と逆であるが、それだけにSECは極めて強大な監督権限を持って、証券会社の監視や市場・取引の監視を行っている。日本にも証券取引等監視委員会があるが、SECは比較にならないほど強力かつ広範な役割、機能および権限を持っている。<http://www.sec.gov/>