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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

米国通信政策の転換

講師:公文俊平(GLOCOM所長)

 2001年度最後となった3月15日のIECP研究会では、GLOCOMの公文俊平所長が、アメリカの通信政策をめぐる最近の動向を分析し、今後の展望を示したうえで、急速な技術革新の下での通信業界のあるべき姿について提言を行った。通信事業における収益モデルの難しさ、またコミュニティに基づく草の根ネットワークの盛り上がりを踏まえ、「事業」としての通信業がとるべき姿を示したという点で、2001年度の最後を飾る研究会として、まさにふさわしい内容になったといえるだろう。

 1999年の秋ごろから始まったいわゆる「ドット・コム・バブル」の崩壊は、通信業界全体、そして経済全体の不況に結びついたといわれる。このようななか、アメリカでは昨年後半から、政府がイニシアチブをとってブロードバンドネットワークを全国的に普及させることの必要性を、IT産業の業界団体、学界、シンクタンクがいっせいに主張し始めた。

 このような主張は、無線やブロードバンドでアジアに追い抜かれ、国家戦略でも他国の後塵を拝しているアメリカの危機感に基づいているといえる。またその裏にはブロードバンドネットワークを普及させることで通信業界、IT業界を活性化させ、さらには経済全体の活性化につなげたいという期待が込められているわけだが、公文所長の分析によれば、現実はそのような淡い期待を打ち砕く方向に動きかねないようである。

 市場原理による通信基盤の整備を狙った1996年改正通信法のもと、通信市場に参入した新興の通信事業者はビジネスに失敗し、いまや次々と市場から撤退している。新興通信事業者が次々と倒れ、最後に残った地域電話会社により市場が再び独占されることになれば、改正通信法が目指したサービスの高速化と低価格化は遠のいてしまう。しかもその場合、地域電話会社も財政的に困難であることには変わらず、新規投資には消極的にならざるをえない。とすれば、利用者は、所詮「ミドルバンド」にすぎないADSLやCATVインターネットに甘んじるほかないというのである。

 さらに公文所長は、最近、通信産業とコンテント産業との連携が特に強化されているが、コンテントを大衆に対して一方向的に配信しやすくするために、インターネットの管理を強化しようという流れに向かいつつあるという点にも目を向ける。自由で双方向なインターネットという理念からすれば、これは一種の「反革命」であるという。公文所長は、このような事態を、まさに「テレコム暗黒時代」の到来と表現した。

 最後に残るかもしれない地域電話会社にあっても、携帯電話やVoIP(Voice over Internet Protocol)によって固定電話の収益はますます減少し、期待のデータ通信事業は収支をつぶさに見れば実は赤字であるともいわれる。にもかかわらず市場には、新しい技術をたてにした新しい事業者が次々と参入してくる。仮に勝ち組となった事業者であっても、次の技術を持った別の新しい事業者によってその座を奪われるというジレンマを遠ざけることはできないだろうという。

 このような分析を背景に、公文所長は、一定の期間内に資金を回収して投資家に配当するという「ビジネスモデル」が、情報通信インフラの整備事業ではそもそも成立しないのではないかと指摘する。しかし、インターネットの普及の伸びを考えると、このことは決して情報通信インフラが必要とされていないことを意味するものではない。むしろ、通信インフラは一種の公共財として構築されるべきであり、その意味で、新しい通信インフラの構築は、住民との共働による地方政府の「公共事業」として実施されるべきだと公文所長は提言した。

上村圭介(GLOCOM主任研究員)

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