理念としてのCAN目標像としてのCAN
―「彩(いろどり)情報ネットワーク・プロジェクト」の現場から―
吉村俊次郎(技術士(都市および地方計画)(CANフォーラム事務局長/GLOCOM主幹研究員))
1.「地域情報化」の現場から
これまで、国や地方自治体が支援し、多くの実践コンソーシアムが地域情報化システムを構築し実証してきた。しかし、住民生活を豊かにし、地域産業を新しい展開に導く地域情報化システムは一向に現れてはこない。多くの地域情報化の試みは、地域住民、地域企業から遊離し、硬直化され、肥大化していく。
このような状況を避けるには、地域情報化の実践プロジェクトを収集し、整理し、そのシステムを正しく再検証し、新しい地域情報化システムのあり方を探る必要がある。そして、理念としてのCAN(Community Area Network)、目標像としてのCANの視点を持って、今後の地域情報化の多くの局面に対処できる知識と技術を再確認しなければならない。本稿は以上を目的とする試論である。
2.情報ネットワーク導入前の生産体制の現状
1999年初頭から徳島県で開発実証された「彩(いろどり)情報ネットワーク・プロジェクト」を紹介し検証したい。生産地の徳島県上勝町は人口約2,300人、4割が65歳以上の高齢・過疎地域である。中山間地の山菜摘みや自然採取をヒントに、役場や農協の後押しで15年前から「彩事業」を始めた。平成10年、213人の生産組合は年商2億円を記録した。
同事業の生産物の「つまもの」の素材は、わが国の中山間地で栽培・採取された植物である。これらは「生姜(しょうが)」などの食材、「なんてん」や「柿の葉」のような飾り素材、細工ものなどで構成され、季節感を演出する日本料理の脇役になっている(写真1参照)。
本事業は受注生産が基本である。市場への売り込み、注文への正確な出荷活動、売上げの向上を図る必要がある。しかし、以下の要因(@〜D)がこれらを阻んでいた。
- 320種を超える、多品種、少量の「彩」、「細工もの」の生産管理、生産調整の難しさ
- 自生物の採取個選方式による製品の不揃い
- イベントや行事時に注文が集中する不安定な需要とその対応
- 市場からの短納期、即日配送の要求仕様への対応の困難さ
- 生産者の単独生産活動による情報共有化や協業化の困難さ
そのため、市場からの注文に応じられないものが出るなど、現状の生産方式(現行システム)では対応不可能な面が徐々に出てきた。そして、生産意欲の減退、高齢化による生産者のリタイアが続き、このままでは唯一の特定産業が消滅してしまう。これが、地域情報化システムを導入するまでの地域コミュニティの現状である。
3.彩情報ネットワーク・システムの導入
本システムは、従来の生産体制(現行システム)に情報化装置を導入し、情報共有化による生産調整、集出荷業務の半自動化、コンテンツづくりなどに取り組み、ダイヤルアップのエクストラネットを通じた生産協業を模索したものである。生産者のうち40人が、これを実証してきた。
情報化システムを導入する下地は古くから地域にあった。中山間地コミュニティのハンディ克服のため、「農事用同報無線ファクシミリィ送出装置(市町村行政防災無線)」が、宝城無線株式会社(徳島市)によって支援整備されていた。そして、行政(町)や農協による日々の生産支援活動、宝城無線の継続的な地域情報化支援活動の二つの努力が結びつき、このプロジェクトを実現させた。
本システムは、無線通信システムを基本に、Webベースの生産者端末によるエクストラネットを導入し、「彩」生産協業に活用するものである。図1のとおり、本システムは一つのメインシステム(@)と四つのサブシステム(A〜D)、データベース化装置(E)で構成されている。
- 「集出荷業務支援システム」(メイン)は、複雑な集出荷作業と多くの事務処理時間に対応するため、バーコードラベル発行システムによる貼付ラベルを発行、荷受/出荷検品スキャンにより作業の迅速化を図る。
- 「上勝情報センターシステム」(サブ)は、どの端末からでも閲覧が可能となるよう、センターサーバとクライアント端末(生産者農家)とを結び、農家からの事前出荷予約(「本日は、モミジ20パック、明後日はなんてん10パック」などの連絡)が行われる。センターではこれを受けて、市場調査や過去の実績による販売戦略等を元に生産出荷計画(過不足の調整)を事前に練る。結果を外部との通信制御、接続と検索のアクセス権を持ったエクストラネットで生産者農家へ随時伝送する。
- 「サテライト産地システム」(サブ)は、広域エクストラネットによる他県の同様な産地との連携システムである。実証では愛知県のJA愛知東農協、徳島県内JAとくしま勝浦支所と協力している。各地の産地データは上勝情報センターシステムに集計される。
- 「生産者端末システム」(サブ)は、お年寄りでも容易に扱える専用ブラウザを搭載し、無線ファクシミリィ装置と連動した端末機器一式である。本端末装置は実証のため40軒各戸に配布された。生産者からはメインシステムに出荷予約を送信し、販売実績、出荷実績、生産技術登録情報などを受信閲覧できる。
- 「外勤営業支援システム」(サブ)は、外勤営業者がモバイル端末を用いて、末端消費者や中間ユーザ(問屋、卸売市場)の場所から、リアルタイムに出荷状況や売れ筋情報を送信するものである。
- 「彩情報コンテンツ」(データベース化装置)は、生産物のデータや種別による生産方式、梱包や出荷方法、出荷規格、その他の一切の情報をまとめ、農家生産者への供与データ、生産ガイダンスとして日々更新されるデータを保存する。
4.地域コミュニティの情報化とCANの目標像
「きれいなものだねぇ。それに、二つとして同じ模様はない。仕事をしていて楽しいですよ」(生産者)。
「お年寄りが、パソコンで市況を見て、頭を使って体を使って生産し利益が出る。パック詰めで手先も使う。健康面でも大きなプラスです」(担当者)。
パソコン(生産者端末装置)を使った彩事業の生産者は、現在、100人を超えた。高齢者向けの簡素化されたキーボード操作や簡易ブラウザはおおむね好評である。プロジェクト終了後、全国各地から4,000人が上勝町を訪れ視察した。同生産地は全国各地の22カ所以上の産地との連携強化、受注生産拡大と新しい特産品を育成しつつある。
本システムを構築した動機は、主婦の勤労意欲や高齢者の生き甲斐をベースに、中山間地から与えられる自然の恵みを「つまもの」特産品として育成し続けることにある。過疎地コミュニティの生きる糧づくり(特定産業)はすでに古い生産方式になった。そこで、新しい情報化システムを導入し、新しい生産方式にすれば、減少する生産者を呼び戻し、過疎地唯一の特定産業を守ることができるのではないか。これを表現した民間主導による快活なプロジェクトである。
CANの理念に基づき、CANが目標とする地域情報化の像は、同プロジェクトのような、そこに生きようとする生活者の動機や生き方を反映した「日々使われる」地域情報化システムの構築、普及促進である。多くの地域情報化システムが使われず失敗に帰するのは、「地域情報化ありき…(ハード、ソフト)」とし、これを先行させるあまり、地域コミュニティの動機や生き方を掬い上げようとはしないためである。
彩情報化ネットワーク・システムは、その動機や生き方を出発点とし、これを大事に育みつつ、今でもCANの理念、目標像を、中山間地という「地方」から発信し続けている。