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智場、GLOCOM Review、コラム…


 

ベリー・ショート・プリーズ

土屋大洋(GLOCOM主任研究員/ジョージ・ワシントン大学サイバースペース政策研究所訪問研究員)

 アメリカ生活に悩みは尽きない。その一つが散髪である。ワシントンD.C.に来た当初、もうすぐ帰国する日本人研究者に聞いたところ、一年間、奥さんに頼んで切ってもらっていたという。日本人の髪は太くて丈夫なので、アメリカ人用のハサミでは切れないという話も聞いた。う〜んと悩んだあげく、しばらく放置していた。

 しかし、3カ月ほど伸ばしたあげく、いい加減にボサボサになったので、思い切ってベセスダの床屋に行くことにした。ベセスダはワシントンD.C.の北側のメリーランド州にあり、日本人がたくさん住んでいる。きっとこの町の床屋なら日本人の髪の毛を切ったことがあるに違いない。

 よく通っていた図書館の近くの店に入った。主人は南米移民。店の中ではスペイン語が飛び交っていて、ちょっと臆してしまう。「アメリカで散髪するの初めてなんだけど、こんな風にしてくれる?」と3カ月前に大学のID取得のために撮った写真を見せる。「まかせとけ」と主人が言うので、座って覚悟を決めた。

 あっという間だった。バサバサと切った後、シャンプーなどは一切なく終わり。店を出てから頭をかくと、パラパラと髪の毛が落ちてくる。首の周りもチクチク痛い。すぐに帰宅して頭を洗った。

 次はニューヨーク。ここならセンスのいいカットにしてくれるに違いない。アジア系の若者が担当してくれた。「どうするの?」と聞かれて、「半分くらいの長さに」と頼む。これもあっさりと終わって、シャンプーなし。耳周りのカットが雑なので、どうも切った気がしない。同じ日、妻は日本人のスタイリストがいる美容院に予約して行って来た。私の3倍以上の値段だが、値段なりにすばらしいデキであった。

 他の人はどうしているのだろうかと、いろいろ聞いてみた。傑作だったのはある日本人ジャーナリスト。奥さんに頼んだところ、タイガーカット(いわゆる虎刈り)になってしまい、文句を言ったら夫婦げんかになってしまったらしい。意を決して近所の床屋に飛び込み、「ベリー・ショート・プリーズ」と頼んだら、今度はGIカット(軍人の超ショート・カット)になってしまったという話だった。

 全部バリカンという人もいるらしい。また聞きなのだが、バリカンにもいろいろあるらしく、その特定の番号を覚えておいて、そのバリカン番号を言うと、きっちり仕上げてくれるというものだ。しかし、これも最初の一回はリスクが大きい。

 思い悩んだあげく、ある日本人が「特に問題ないよ」というところに行ってみた。大きなアパートの一角にある小さな店で、小雨のその日は暇そうだった。店のレジでは夫とおぼしき人がパソコンに向かっている。女主人が「こっちへ来い」と言うのでついていくと、いきなり洗髪が始まった。日本ほど丁寧ではないが、アメリカでは初めてだ。

 「どんな感じにするのか」と聞かれ、ベリー・ショートは危険なので、「ミディアム・ショート」と言ってみた。水が垂れないほどにしめらせた髪をチョキチョキと切っていく。なかなか手際がいい。これまでとは違う。夫婦の会話を聞いてみると、どうやら韓国出身のようだ。

 韓国風に横側は刈り上げ、上の方はややツンツンと立った感じだが、これまでで最高のデキである。足下にはどっさりと切った髪の毛が落ちていて「何ポンドも切っちゃったわよ」と女主人は上機嫌であった。私も一安心で帰宅した。

 しかし、誤算があった。髪を一気に切りすぎてしまい、アメリカ人が私を認識できなくなったのだ。ヨーロッパ系アメリカ人はアジア系の顔を識別するのが下手だ。ジョージ・ワシントン大学で私をホストしてくれている教授に会って声をかけたら、「誰だ、お前は」という顔をされてしまい、ショックだった。

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