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兵士を支える

土屋大洋(GLOCOM主任研究員/ジョージ・ワシントン大学サイバースペース政策研究所訪問研究員)

 アメリカでは墓地も観光名所である。一番有名なのはアーリントン墓地であろう。主に軍人が眠っており、アフガニスタンでの戦死者もすでにここで眠っている。連日たくさんの人が訪れ、墓地内は観光ツアー・モービルがガタガタと走っている。

 ここはもともと南北戦争の南軍の将、ロバート・リー将軍の夫人が所有していた土地である。リー将軍は連邦政府の軍人だったが、アメリカが南北に割れてしまったとき、連邦政府(北軍)の軍人としての地位を捨て、故郷ヴァージニア州の南軍に加わった。リー夫妻の家は今でも丘の上に残されているが、南北戦争が終わったときには、家の周りは北軍の兵士の墓地になっており、しかたなく連邦政府に売却された。

 そのリー将軍の家が立つ丘の下にあるのが、アーリントン墓地でもっとも人気のあるケネディ大統領のお墓である。そばには弟のロバート・ケネディ司法長官のお墓もある。打ち上げ直後に爆発したスペース・シャトル、チャレンジャー号の乗組員の記念碑もある。

 もう一つの見所は、無名戦士の墓である。無名戦士とは戦死した身元不明の兵士のことである。このお墓は、常に銃剣を持った衛兵によって警護されている。身元不明だからといってぞんざいに扱うのではなく、むしろ丁重に扱うことが、国家のために死んでいった人たちへの礼なのだろう。

 不謹慎な言い方かもしれないが、この警護の衛兵は、アメリカで一番忍耐強い人たちではないかと思う。24時間365日、21秒で21歩あるいては折り返し、無言で警護している。春から夏は30分に一回、秋から冬は1時間に一回交替する。夜間は2時間ごとだそうだ。

 交替の時間がくると警護している衛兵のほかに、二人の衛兵が現れる。一人が観客に口上を述べ、沈黙と起立を求める。見ているアメリカ人はカメラを構えるか、右手を左の胸に当てている。これが実に長い。10分以上かけて行われる(残念ながら全部をオンラインで流すには長すぎる)。三人の衛兵は、ゆっくり歩きながら、時折靴の踵をカチッとならす。入れ替わった一人を残して、二人は去って行き、残った一人はまた21秒、21歩を繰り返す。

 私が訪れたときは、たまたま花環の交換も行われた。ボランティアの子どもたちもセレモニーを手伝う。最後に、トランペットが奏でられる。といっても、威勢のいいものではなく、憂いを帯びた音色だ。

 こういう光景を見ると、アメリカは軍人社会だと思わされる。兵士に対する尊敬の念が自然に人々の心のなかに起こってくるようだ。無論、それは教育の結果で、超軍事大国としてのアメリカを維持していくには、軍隊と軍人に対する尊敬の念が不可欠なのだろう。

 友人から聞いた話だが、彼の息子が軍隊から休暇を取り、軍服を着たままワシントンD.C.の長距離列車が止まるユニオン駅に降り立った。するとある老婆が彼のところにやってきて、「アフガニスタンで戦ってくれてありがとう」と手を握った。彼は直接アフガニスタンの戦闘にかかわってはいなかったが、「ノー・プロブレム」と答えたそうだ。

 戦争の目的が何であれ、自分たちの息子や娘、友人が戦っている。そうした人たちを支える気持ちがアメリカ国民の心の中になければ、戦争は続けられないのかもしれない。そうした気持ちが一時的なものであり、フィクションに近いものであるとしても、それを作り出す「仕掛け」が、この国にはたくさんあるように思う。