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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

ネットワーク・サービスの地域間格差解消に向けた課題

國領二郎(慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授/CANフォーラム運営委員長)

 このたび、CAN(Community Area Networkフォーラムの運営委員長に就任させていただきました。公文俊平会長のもとで、ネットが地域に活力をもたらすように力を注ぎたいと思います。実はまだ勉強不足の面があって、偉そうなことは申し上げられないのですが、現状認識と今後の考え方について書かせていただき、ご批判をお待ちしたいと思います。

 希望がもてる要素と危険を感じる兆候の両方が見えます。まず希望の方から言うと、何といっても、中小企業やNPOや個人でも使えるネットワーク・サービスが広がってきたことでしょう。ADSLや光ファイバを利用する制度の整備によって、ネットワーク利用の増大と料金の低廉化が同時に進行する好循環が始まったように見えます。無線LAN技術の広がりとあいまって、より多くの方がネットワークに低価格でアクセスできる展望ができてきました。今年中には安価な音声通信(IP電話)も利用可能となって、今まで経済的な理由から導入を躊躇されていた中小企業や家庭にとっても、導入した方が経済的にも合理的であるようになってきます。音声通信というアプリケーションへの需要増大は、従来型の電話機と利用感覚が同じ簡単な機器を生み出す可能性が高く、(特にご高齢の方々にとって)いま一つのネックだった使いにくさを解消していく契機となっていくものと思われます。

 希望の裏返しが危険だとすると、サービスの地域間格差がまた広がっていることがあげられます。つい数日前も小樽に行って、地域情報化に取り組まれている方々と話し合いをする場がありました。SOHOとして活躍されようとしている方が、市内から少し離れているために満足のいくサービスを利用できない実態を聞き、「ADSLなどは地域の取り組みで解決できるのだから、ぜひ地域の自助努力も」と申し上げたのですが、その方の問題解決にはおそらくならず、口惜しいものがありました。同じような状況が全国にあるものと思われます。

 地域間格差の問題は、これまでも新技術が登場するたびに大都市圏から整備が進み、地方が後回しになることが問題となってきました。その意味では新しい話ではありません。今回の問題に特殊性があるとすると、料金競争が激しいなかで、これまでユニバーサル・サービスの担い手となってきた電話会社が体力を失っていることでしょう。国や地方の財政も逼迫するなかで、いかに地域の情報化を進めるか、知恵のしぼりどころと言っていいのではないでしょうか?

 個人的には指針として3点ほど考えています。

 第一は、重複投資を避けることです。現在、通信、電力、放送、道路、河川、下水など光ファイバを敷設する主体が多いのに、その相互利用制度が整備されていないために重複投資が行われています。少し漫画的に望ましい姿をイメージしますと、幹線から集落まで道路や河川にそって敷設されたファイバを地域のNPOが借り、集落のそばまで来たら無線を使ってアクセスを提供し、大手の通信会社や放送会社と接続させることによって、一本のケーブルの上を道路管理情報、通信、放送などが流れるような姿となります。理屈では当たり前のことなのですが、実現するためには(イ)公的に敷設された施設(管路やダークファイバ、周波数など)の民間利用のルール整備、(ロ)放送と通信の垣根の制度的な撤廃など、思い切った発想の転換をすることが必要となります。たとえば整備の遅れが心配されている地上波デジタル放送も、過疎地域では他のインフラを借りて仮想的に実現する。公的に敷設されたファイバを第一種電気通信事業者が借りてサービスを展開するようなことも、一般的になっていいのではないでしょうか。とにかく既存の縄張りを超えて、無駄な投資を避けて徹底的に効率化する。

 第二は、ユニバーサル・サービスの内容を本気で考え直してみることだろうと思います。結論を先に書いてしまいますと、現在の電話をユニバーサル・サービスと考えることをやめて、「すべての人間にIP網と治安・消防への緊急連絡手段を確保する」ことをユニバーサル・サービスの定義とすることを提唱したいと思います。このうち緊急通信はギャランティード・サービスとして信頼性を追求し、IP網の方はベスト・エフォート型として経済効率性を追求する。

 周知のごとく制度的には、いま電話サービスがユニバーサル・サービスということになっており、それを全国で維持するために基金が設けられることになっています。実質的には東西NTTが地域で赤字の電話事業を運営するために補助を出すような形態です。しかし、この建前が長く続くとは思えません。中期的に考えて、東西NTTにもはやコストパフォーマンスの良いシステムとは言えなくなっている電話網を維持してもらうことは、非現実的と思われます。需要サイドでも、ユーザがインターネットサービスを欲しいと言うことは確実で、音声も通るだけのスピードが十分出るとなれば、IP網に絞る方がいいということになるでしょう。その場合に配慮しなければならないのが緊急通信です。非常時にも高い信頼性で、警察や消防にアクセスできる手段を確保しなければなりません。ただし、それも高価な電話で実現する必要はなく、IP網用に敷設されたインフラストラクチャの中に容量を確保しておくなどの手段で、解決が可能と思われます。

 第三は、地域イニシアチブによる地域の実情にあった(中央で規格化されたシステムを全国普及させるのではない)インフラ整備の発想だと思います。地域にはそれぞれ地形や既存インフラの状況など、固有の状況があります。それによって費用のかかり方も違ってきます。都会に適した技術を地方にもっていっても経済合理性がない場合も多いですし、逆に電波などは都会では困難な使い方が可能だろうと思います。幸いにしてインターネットの技術は、物理層とネットワーク層のアンバンドルが容易なところが大きな特徴になっています。物理層の整備については思い切って地域のイニシアチブにお任せして、最適なシステムを構築したいものです。そのためにも、上述の管路開放やダークファイバ開放の視点が重要であることは繰り返すまでもないでしょう。

 発想を変えて、既存の制度を壊し、地域の実情にあったインフラを構築すると考えてみると、実は大都市よりも地方においての方が、より高度なサービスがより安価に受けられる可能性があるのではないかと思えてきます。国土保全のために公的に整備されるケーブルを原価で借り受け、設備を徹底的に効率利用し、電波を混雑していない環境で使うことによって、超高速のネットワークを現在の電話よりも低い料金で提供することが可能ではないでしょうか? もちろん、そこで生まれる収益が財政にも寄与し、公的な資金に頼らずインフラ整備ができるところまで持ち込めたら理想的だと思います。地域の現状を考えたときに、都会の人間が考えるように全く民間ベースで考えることは非現実的ですし、国家財政のばらまきで光ファイバ網が全国に整備されることを期待するのも間違いです。地域、ビジネス、公的機関が協調しながら、コストパフォーマンスを徹底的に意識しながら、ニーズに応える仕組みを作りたいものです。

 原稿を書き進めている間に、インフラの話が中心になってしまいました。インフラはもちろん大切ですが、そのうえで、本当に大切なのは地域からの情報発信であることは言うまでもありません。整備されたインフラの上に、いかに地域に豊かな経済や文化を育てることができるか、別途論じさせていただきます。

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