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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

懐かしく思う(だろう)もの

土屋大洋(GLOCOM主任研究員/ジョージ・ワシントン大学サイバースペース政策研究所訪問研究員)

 もうすぐアメリカ生活も終わる。最近ずっと、「日本に帰ったらアメリカ生活の何を懐かしく思うだろうか」と考えている。

 この1年の間で、日本に帰ったのは韓国へ行く飛行機の乗り継ぎで30分だけだ。成田空港で週刊誌を立ち読みしながら、「う〜ん」とうなったのを覚えている。まったく知らない話題ばかりなのだ。ワシントンD.C.でも、日本の某民放局のニュースが平日1時間だけ見られる(私の加入しているケーブルテレビ会社では、TVジャパンやNHKの国際放送は見られなかった)。しかし、それを見ているだけでは外務省問題や国会議員の秘書問題などの裏側が見えず、たまに日本から来る人に話を聞いてなるほどと思ったことがよくあった。

 アメリカにいて日本が恋しくなるのは、風呂である。ご承知の通り、アメリカのバスタブは浅くて、すぐ冷える。じっくり肩まで浸かるというのはとうてい無理だ。ある日、日本人が経営している大きな風呂付きB&Bがバージニア州の西にあるというので出掛けてみた。苦労して作ったという大きな浴場に感激した。

 日本の食べ物はたいていのものが韓国食材店などに行けば手に入ったが、塩鮭がどうしても食べたかった。サーモンならどこにでもあるが、大味でやわらかい。ソースにつかったサーモンは見るのも嫌になった。ビシッとしまった塩鮭が食べたい。

 逆に、日本に帰ったら何を思うだろう。7月の日本の暑さは嫌だが、暑いのはワシントンも変わらない。日本と同じくらいに蒸し暑い。しかし、スペースが違う。ワシントンの地下鉄では、体が触れ合うほど満員にはならない。暑さ以外に不快な思いはしなくていい。ダウンタウンに行く以外は、たいてい車で出掛ける。エネルギーの浪費だとは思いつつも(ほとんどのアメリカ人はそう思っていないだろうが)、冷房をきかせた車で買い物に行ってしまう。

 食べ物ではステーキかもしれない。実は渡米前は、ダイエットも兼ねて「ベジタリアンになる」と宣言していた。日本のレストランにはベジタリアン・メニューなど滅多にないが、たいていのアメリカのレストランにはあるので、アメリカの方がやりやすいだろうと思ったのだ。しかし、3回ぐらいベジタリアン・メニューを食べて、あっさりあきらめた。おいしくないし、せっかくのおいしい肉を食べないのもばからしい。日本では滅多にお目にかからないTボーン・ステーキ(日本とは肉の切り方が違うらしい)は、なかなかおいしい。しかし、しゃぶしゃぶやすき焼きはだめだった。薄切り肉が手に入らない。「紙ぐらいの薄さにスライスしてくれ」と頼むと、「自分でやってみろ」と言われてしまう。

 コンサートやスポーツ観戦も、日本にいるときよりも圧倒的に行く機会が増えた。車を使えば自宅からどこへ行くにも15分から30分程度だし、チケットも日本より安い。アメリカン・フットボールやバスケットボール、アイスホッケーなど、観たことがなかったものにも行くことができた。オペラは渡米前は一度しか観たことがなかったが、アメリカでは6回も観てしまった。ロック・コンサートやメジャー・リーグ・ベースボールも堪能できた。

 総じて言えば、空間や物資の豊富さと言えるだろうか。この値段でこんな大きな家が買えるのかと思うと、日本に帰りたくなくなる人の気持ちもよくわかる。それでも、この1年間は「たった1年間だから」という気持ちで走り続けてきたので、温泉に入って少し休みたいと思う。

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