『ドメインネーム紛争』
坪 俊宏・他 著
講師:坪 俊宏
(グローバルコモンズ株式会社代表取締役/JPNIC理事)
ドメイン名システム(DNS)は、身近な社会インフラである。ドメイン名とホスト名の対応関係が一意であるおかげで、インターネット接続は混乱することがない。5月22日のIECP読書会は、『ドメインネーム紛争』の著者の一人でJPNIC理事の坪俊宏氏をお迎えし、このDNSやドメイン名をめぐる紛争の処理手続きについてお話をうかがった。
インターネットが普及し、DNSが広範に利用されるようになるとともに、ドメイン名と商標をめぐる紛争が顕在化してきた。この主な原因が「サイバースクワッティング(ドメイン名不法占拠)」である。著名な商標名と同一(または類似)のドメイン名を、商標権を持たない者が先に登録することによって商標権者の登録を妨害し、高額買取を持ちかけたり、商標に便乗した商売を行ったりするもので、これはドメイン名本来の目的に反した不正な使用である。
だが坪氏によると、既存の紛争処理手続きは、ドメイン名紛争には使い勝手が悪いそうである。裁判は時間と費用が膨大にかかる。しかも、登録者と登録機関と商標権者が同一国内に存在しないケースでは、手続きが煩雑になるうえ、有利なルールの地域で訴えを起こす「フォーラムショッピング(法廷漁り)」が起き、正当な権利者が勝てないおそれすらある。また、仲裁や調停にも一長一短がある。
そこで、新たな裁判外紛争処理としてICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)によってUDRP(統一ドメイン名紛争処理方針)が作られた。この手続きは、低費用(20万円弱)、短期間(最大55日)、簡易(書類で処理)な点が特徴である。裁定に不服の場合は裁判を利用することもできる。これをすべての登録機関が採用し、ドメイン名登録時に契約することによって、全登録者が対象となる。
管理権限をツリー型に分散させているDNSと同様に、ドメイン名紛争も各紛争処理機関が処理する。日本では、UDRPを国内事情に適合させたJP-DRP(JPドメイン名紛争処理方針)を、日本知的財産仲裁センターが運用している。UDRPでは登録時と使用時の「双方(andの関係)」に不正目的の認定が必要であるとしているが、JP-DRPは「どちらか(orの関係)」だけで十分としている点が特徴である。
坪氏は具体例として、ドメイン名「goo.co.jp」について解説した。この登録者は、登録時には不正目的はなかったが、検索サイトの「goo」(http://www.goo.ne.jp)が有名になった後にアダルトサイトへリンクし、ヒット数に応じた利益を得た。これについて紛争処理パネルは、ドメイン名使用時の不正目的を認め、JP-DRPに基づきgoo.co.jpを検索サイト「goo」に移転させる裁定を下した。登録者はこれを不服として東京地裁に訴えたが、第一審でも同様の判決が下された。
坪氏によると、現在UDRPは特に問題なく機能しており、「大きな変更や複雑化を行う必要はない」というラフコンセンサスができているそうである。
だが、ドメイン名システム自体が、インターネットのもたらしたボーダレスな社会を反映し、利便性や統一性への要求と、法律や言語などの地域性からの要求との間で試行錯誤を続けている。この日は「.biz」「.info」ドメイン名の新設や、「.to」「.tv」などccTLD(Country Code Top Level Domain)の商用利用、「日本語.jp」などドメイン名の国際(多言語)化なども話題に上った。このようななかで「ドメイン名紛争処理」というシステムが、今後もさまざまな問題に取り組み、社会インフラとしてのドメイン名システムを支えていくことを期待したい。
庄司昌彦(GLOCOM研究員)