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ワシントン大聖堂

土屋大洋(GLOCOM主任研究員/ジョージ・ワシントン大学サイバースペース政策研究所訪問研究員)

 10カ月過ごしたアパートの部屋は10階建ての8階にある。窓からは、通りの向かいの公園と学校の林が見える。その林の向こうにはポトマック川があるはずだが水面は見えない。さらに、向こう岸の丘の上に小さく見えるのが、ワシントン大聖堂(National Cathedral)である。自宅から唯一見えるランドマークである。

 大聖堂は比較的新しく見えるが、最初にアイデアを出したのはジョージ・ワシントンで(園内にはジョージ・ワシントンが馬に乗った像がある)、議会が建設を承認したのは約1世紀後の1893年、礎石が据えられたのが1907年、完成したのが1990年9月というから気の長い話である。インディアナの石灰岩を使ったゴシック建築になっている。

 カトリックの体裁をとっているが、首都ワシントンで「ナショナル」と付くぐらいなので、すべての宗教・宗派に開放されている。最近では、9月11日のテロ事件の後に急遽設けられた祈りの日に、ブッシュ大統領をはじめ政府要人が集まった。クリントン前大統領、ゴア前副大統領も参列した礼拝の様子は、全米に中継された。

 ビショップ(司教)の庭と名づけられた庭園には、大ぶりのバラの花のほか、色とりどりの花が咲いている。休日には、のんびりしたい人々が集まり、ベンチで本を読んだり、おしゃべりに興じている。学校も併設されている。

 この大聖堂には、ほかにもいろいろ見所がある。壮大な礼拝堂の窓にほどこされたステンドグラスも美しい。両側の窓にあるステンドグラスのひとつには、月面から持ち帰った石の破片が埋め込まれている。

 礼拝堂の両側は細い通路になっていて、大聖堂の建築・運営に寄与した人や、ワシントンの有力者を記念する石碑やお墓がある。なかでも有名なのは、第28代大統領ウッドロー・ウイルソンであろう。ひっそりと置かれた石棺は、アーリントン墓地のケネディ大統領と比べるとややさびしい感じがする。

 『地球の歩き方』ワシントンD.C.版には、もう二人有名な人が眠っていると書いてあるが、大聖堂で配られているパンフレットにはそのことが書かれていない。3回目の訪問で、ようやく二人のお墓を探し出すことができた。

 大聖堂で働いていると思しき人に尋ねてみると、階下だという。ちらっと腕時計をみた彼女は「時間がないから急いで」という。午後5時に大聖堂は閉まってしまうのだ。

 礼拝堂に向かって左側の階段を降りていき、右に曲がると、もうひとつ小さな礼拝堂が見えてくる。片側には絵が飾られ、反対側には格子で仕切られた祭壇のようなものがある。お墓はどこだかよくわからない。うろうろ部屋の中を歩き回って、ようやく小さな金属のプレートを見つけた。

 プレートの上側にはアルファベットが刻印されている。下側の文字はピカピカに光っている。点字なのだ。ここに眠っているのはヘレン・ケラーとアニー・サリバン先生である。

 それにしても、大きな円柱形の壁に小さなプレートが張られているだけで、どこがお墓なのかよくわからない。ちょうどそのとき、礼拝堂の鍵を閉めるために職員がやってきた。「お墓はどこにあるの?」と聞いてみた。「あそこだよ」とプレートを指さす。「この壁の向こうなの?」、「そうだよ」。あらためて壁とプレートを映そうと思ったら、部屋の電気を消されてしまった。