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智場、GLOCOM Review、コラム…


 

電子自治体構築の光と影

高橋明子(UFJ総合研究所主任研究員/GLOCOM主任研究員(併任))

 本稿では「地域情報化」の重要な要素のひとつである「電子自治体構築」について、その可能性と問題点・矛盾を三つの論点から検証する。

1.自治体の情報化の範囲と電子自治体の位置づけ ─電子自治体の定義

 第一の論点として、自治体の情報化の範囲と、「電子自治体」の位置づけ・構造を明らかにする。電子自治体の位置づけや構造が不明確であるために、その取組みに混乱を生じている自治体も多いが、電子自治体の構造を明らかにすることにより、その取組みの方向性が明確になる。

 「e-Japan戦略」では、電子政府について「2003年度には、電子情報を紙情報と同等に扱う行政を実現し、ひいては幅広い国民・事業者のIT化を促す」としている。この定義を援用すれば、「電子自治体」とは「文書の電子化、ペーパーレス化および情報ネットワークを通じた情報共有・活用に向けた業務改革を重点的に推進することにより、電子情報を紙情報と同等に扱う行政(自治体)」であり、「地方公共団体がITをツールとし、庁内業務の効率化、高度化を推進していくこと」と定義できる。

 地方公共団体が取り組むべき情報化施策の範囲としては、地域の住民、企業を主体とした「地域情報化」への支援があるが、「電子自治体」は、地域の構成主体のひとつとして行政自身がIT武装し、業務改革を推進していくことであり、従来、「地域情報化」に対し「行政情報化」と称されてきた分野であるともいえる。

 さらに、電子自治体の構成要素としては、「フロント・オフィス」と「バック・オフィス」がある。従来の行政情報化では、バック・オフィス・システムの構築、すなわち基幹業務の電子化が推進されてきた。近年のネットワークの発達によりいわば新たに発生したシステムがフロント・オフィス・システムである(詳細は次項参照)。

 以上の構造を図示したものが図1であり、非常に単純な構造ではあるものの、自治体の情報化政策や電子自治体について検討する場合には、全体マップの中でどの部分を検討しているのかを、常に明確に意識することが重要である。

2.フロント・オフィスとバック・オフィス ─電子自治体構築の問題点・矛盾

 第二の論点として、「電子自治体」の構成要素である「フロント・オフィス」「バック・オフィス」をめぐり、現在、自治体が直面している三つの問題点を提示する。

 フロント・オフィス、バック・オフィスのシステムを模式的に示したものが図2であるが、フロント・オフィス・システムとは、住民や企業と直接的なやりとりが発生する部分であることがわかる。これら企業、住民と行政の接点の部分は、ネットワーク化の進展により新しく必要性の生じたシステムであり、3,300余の市町村に異なるシステムが乱立する無駄や自治体の人的負担を省くため、「標準化」「汎用化」「共同化」をめざし、国主導で汎用システムの構築がすすめられている。

 ただし、国が構築、提示しようとしているのは、あくまでも企業・住民と行政の接点(受付)の部分のみであり、バック・オフィス(基幹業務)との連携部分は、各自治体が構築する必要がある(図3)。ところが、国による汎用システム部分の開発、仕様の提示を待つべき部分と、各自治体が検討すべき部分の切り分けを意識せずに、国の仕様提示をただ待っているだけの自治体が多い。これが、自治体が直面する第一の問題点である。

 また、フロント・オフィス・システムとバック・オフィス・システムの連携は必要不可欠であるが、多くの自治体において、数十年にわたりバック・オフィス・システムが組織別、時期別に開発されてきたために、フロント・オフィス・システムとの連携はもとより、バック・オフィスを構成するシステム同士においてもデータやシステム連携を図ることがきわめて困難な状況に陥っている。これが、自治体の直面する第二の問題点である。ただし、フロント・オフィス・システムの導入が国主導で推進されていることは、バック・オフィスを含めた全庁的な業務改革を推進する好機でもあり、電子自治体構築は、行政の仕組みそのものを変革する可能性を秘めている。この点については次項で詳述したい。

 さらに、フロント・オフィス、バック・オフィス構築に関して自治体が直面する第三の問題点として、国主導のフロント・オフィス・システム構築の是非を指摘することができる。本シリーズ第3回(本誌No.77)で、「ブロードバンド化政策がもたらす地方暗黒時代」として、GLOCOMの丸田一主幹研究員が、「国内の網トポロジーが大手町を頂点とした集中構造を示していること」「IT関連の人材(技術者)や企業などの資源が東京に集中していること」等により、結果として、地域が自発的・主体的なシステム開発を行うことができなくなるという、悪循環の構造が地域にもたらされる危険性があることを問題提起した。

 国主導のフロント・オフィス・システム構築に関しても、ネットワーク(ブロードバンド化)と同様の問題点を指摘することができる。すなわち、国が「標準化」「汎用化」「共同化」をめざし、フロント・オフィス・システムを提示することにより、システム乱立の回避、全自治体での早期システム整備、自治体の人的・経費的負担軽減を実現することができるというメリットがある一方で、システム開発や運用の東京集中(大手寡占)が発生し、地域にシステム開発や運用のノウハウがストックされず、自治体は永遠に東京(大手ベンダ)から提供されるシステムを使い続ける構造に置かれることが危惧される。このように、一見、非常に無駄なく、利便性の高いシステムが供給されるかのように見える「汎用システム」や「共同運営方式による行政サービス(ASP)」は、同時に地域の自立性や地域情報産業の発展の機会を奪う危険性も秘めている。こうした電子自治体構築の抱える矛盾、問題点に対しては、各地域において、地元業者を交えたシステム開発や、ソースコードの開放による地域へのノウハウ還元、また自治体内部でのリテラシー向上など、地域にノウハウをストックし、地域の自立性を確保するための自衛策が必要である。

3.電子自治体構築による行政経営改革の推進 ─電子自治体構築の可能性

 第二の論点で提示したように、新しいシステム(フロント・オフィス)の登場に伴うさまざまな問題点・矛盾を抱える電子自治体構築であるが、この構築は、行政の仕組みそのものを変革し、行政経営改革を推進する可能性を秘めている。電子自治体構築の第三の論点として、電子自治体の可能性について提示する。

 電子自治体構築の最終目的は、ITを活用することで行政経営の質を高めることにある。行政活動においては、最小のコストで最大の成果をあげることが必要であり、近年の住民ニーズの増大・多様化と財政状況の悪化により、その要請はますます高まっている。自治体は、住民の行政ニーズに対して最も効果的な政策を立案し、その政策に対してヒト・モノ・カネの行政資源を最適に配分することにより、最も効率的に政策を実施することが求められているのである。

 効率的な行政資源の配分のためには、行政活動にかかわるあらゆる情報を活用できるようにする必要があり、フロント・オフィス・システムとバック・オフィス・システムの密接な連携による行政経営資源の最適配分を行うことが必要である。

 国が主導するフロント・オフィス・システムは、バック・オフィス・システムとの連携を必要不可欠なものとして要求し、庁内の各組織別、時期別に構築されてきた膨大なバック・オフィス(基幹業務)・システムを抜本的に改革する契機となる可能性を秘める。

 すなわち、電子自治体の構築は、フロント・オフィス・システムの導入を契機としてバック・オフィスの改革を促すという点で、行政経営改革を進展させる自治体にとって大きなチャンスである。地域最大の産業ともいえる地方公共団体の情報化を契機として、地域の情報産業を育成する取組みなどに発展させることができるかどうか、各地域の手腕が問われているといえる。

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