グローバルガバナンスの課題
講師:会津泉(アジアネットワーク研究所代表/GLOCOM主幹研究員)
2002年6月13日、アジアネットワーク研究所代表、GLOCOM主幹研究員の会津泉氏による「グローバルガバナンスの課題」をテーマにしたIECP研究会が行われた。講演の概略は、以下のようなものであった。
1. ネットのグローバル性
インターネットによって、誰でもが容易に、瞬時にかつ安価に国境を超える活動が可能になった。これは人類史上初めてのことである。一方、このことは、ヤフー・フランスによるナチ関連グッズのサイトに対する仏最高裁の判決の事例*1に見られるように、サイバー上の司法権について、国家を単位とするガバナンスでは解決できない問題群が登場していることを意味している。
2. ICANNの問題点
ドメイン名とIPアドレスのルールづくりにかかわるICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)は、国家単位の組織とは異なる民間非営利組織としてインターネットの管理を担ってきたが、現在、そのガバナンスをめぐって混迷している。2000年にインターネット・ユーザによるオンライン選挙で5人の理事を選出したICANNは、一般会員制度の見直しを進めてきたが、3月に行われたアクラ会議の直前(2月下旬)に突如、CEOであるスチュアート・リン氏が、従来の一般会員制度の廃止と政府の関与を強化する再編案を発表したのである。
リン氏は「世界で243ある国別ドメイン(ccTLD: Country Code Top Level Domain)管理組織、同じく13あるDNS(Domain Name System)のルートサーバの運用組織、アジア・北米・欧州のIPアドレス管理組織(RIR: Regional Internet Registry)がいずれもICANNと契約を締結しようとせず、主要ISP(Internet Service Provider)やバックボーン事業者、各国政府はICANNの検討・決定プロセスに十分に参加していない」と主張し、「ICANNの理事選出のための一般会員制度とグローバル選挙を廃し、役員を任命制にすること」を提案した。これが実現すると、理事の数は現在の19人から15人に減る。内5人は世界5地域から各国政府が指名し、次の5人は指名委員会が選定し、残り5名は技術・企業分野の代表として、IPアドレスの管理組織、「.com」など汎用TLD(gTLD: Generic Top Level Domain)管理組織、国別ドメイン(ccTLD)管理組織による三つの委員会から代表各1名、技術助言委員会から1名、そしてCEO 1名とし、いずれも理事会が任命することになる。
実は、それ以前に、ICANN理事会が選出した会員制度見直委員会(ALSC: At-Large Membership Study Committee)が「一般会員制度と直接選挙による理事選挙を継続すべし」との最終報告を発表した。またこれとは別に、NAIS(NGO & Academic ICANN Study)のグループが、NGOの視点から会員制度の見直しについて分析・主張を行ってきた。
これらの動きに対し、リン氏は、「NGOはプロセスばかり強調し、ICANNが重要な決定をタイムリーに行うことを妨げてきた」と一蹴したのである。リン氏の提案には、2001年9月11日のテロ事件を梃子に、ICANNの組織において、理事を一般会員の中からグローバル選挙で選ぶことを廃し、国家が任命する代表制とすることで「より良く社会の意見を反映し、かつより安定した資金源を確保したい」という思惑が読みとれる。
3. 任命制、自律分散、無秩序
ガバナンスのあり方として、1)集中・統一・管理体制、2)自律・分散・協調体制、3)無秩序の状態、という三つの体制を考えると、1)と2)の原理は、手段こそ異なるものの、いずれも秩序と効率を求めているように見える。ただし、インターネットの基本理念は当初から2)であり、今日までそれが機能してきた。前回の日本政府・企業による「組織ぐるみ選挙」の弊害もあるが、きちんとルールを整備すればグローバル選挙は可能である。
また、ルートサーバの運用体制についても、米国11、欧州2、日本1と偏在しているものの、いずれもICANNとの覚書を結び、自発的な運用をしており、根本的な改革が必要との認識にはない。むしろ多様なボランタリー組織が担当していることが、システムの柔軟性、安定度に寄与している。
小林寛三(GLOCOMフェロー)
*1 ナチス・ドイツの制服や旗、銃刀などのヤフーでの競売に反発するフランスの人権団体などが訴えを起こし、仏裁判所がヤフーに対し、2001年1月24日までに、仏国内からサイトを利用できなくするよう命じた事件。ヤフー側は「技術的理由」により命令を無視しつつも、自主的に競売サイトから撤去した。