地域情報化の目指すもの
─岐阜県地域情報化実践報告─
神成淳司(岐阜県情報技術顧問)
電子メールアドレスの配布やパソコン講習会の実施などが、地域情報化の具体的な成功例として語られているように、地域情報化という言葉が非常に狭い範囲でとらえられている。もちろん、従来、情報機器が使用できなかった方々にリテラシーを付与するという点において、このような講習会の実施は非常に重要である。しかし、これらはあくまで地域情報化の一部であり、目指すべき目的ではない。このことが理解されず、単なる情報機器の導入、リテラシーの付与が、地域情報化と同義に語られるという現状があるのではないだろうか。この現状は、地域情報化に対する皆の認識を誤らせるばかりか、維持管理費用などにより、情報化を推進する自治体の中長期的なコスト増をもたらすものであるため、是正していくべき問題である。
このような問題点が山積していることから、最近では、地域情報化について悲観的な意見が出されることが多い。しかし、私自身は、この問題点を認識しながらも、地域情報化に大いなる可能性を確信している。本稿では、私自身が岐阜県の情報技術顧問としてさまざまなプロジェクトや政策に関与してきた経験を踏まえ、行政サービス、地域産業の活性化、そしてこれらを推進していくための人材育成に関し、私自身が立てた仮説と関与しているプロジェクトを紹介し、地域情報化の可能性と展望について論じたい。
行政サービスの維持向上
地域情報化を推進する前に、考慮しなければならない点がある。それは、地方自治体の財政状況である。
現在、日本各地において市町村合併が急速に推進されているが、その目的のひとつに、市町村の財政破綻の回避があげられる。従来の保険制度に加えて介護保険の導入により、市町村の財政は急速に悪化している。小規模の町村では、大病を患う方に間接的に引越しを勧めるほどに状況は緊迫している。このような状況にさらに追い討ちをかけているのが、ここ10年ほどの間に次々と進められた交通・通信・ライフラインなどのユニバーサルサービスの民営化、自由化に伴うサービスの廃止、あるいはレベル低下である。たとえば、岐阜県の中山間地域では、JRの長距離バスが次々と廃止されている。別の山間地域では、公共施設への通信専用線敷設がコスト的に見合わないために断られる。住民は生活の足を奪われ、また、インターネット時代が叫ばれながら、遠く離れた街のアクセスポイントを利用する以外にインターネットを利用することができない。これらの政策に対する批評はさておいて、各自治体はこのような現状に対し、コミュニティバスの運用に代表されるように、独自でサービスの供給、あるいはサービスレベルの維持を行っており、重い財政負担となっている。
すなわち、地域情報化において行政サイドが第一に考慮すべき点は、この厳しい経済状況を踏まえ、各自治体組織が破綻しないようなコスト負担の中で、住民サービスや地域産業の活性化など、地域の生活レベルの維持向上を実現させることなのである。
この際、従来からよく考慮されてきたのは、横並び行政として、全国均一でのサービスをいかに提供するのかという点であり、さらにその具体的な内容として、東京においてすでに導入実施されてきたシステム/サービスが検討項目に挙げられることが多かった。一般的に、情報化投資/システム導入は、東京など、都市圏において周辺地域より先に導入されるため、先進的なサービスを各地域が導入しようとすれば、東京において実施されたシステムを地域へ伝播しようという方法論は、一見、正しいように感じられる。
しかし、それは本当に正しいのだろうか。この問いに答えるために、東京という都市の特異性を、都市の構造という観点から考えてみたい。
東京には、渋谷、秋葉原など、複数の異なった景観をもつ地域が存在する。渋谷に立地するビルと秋葉原に立地するビルは、外観からして大きく異なっている。渋谷のビルは、着実に空間に溶け込もうとするかのように透明度が上がっている。ビルの中に存在する人までも街中の景観として取り込もうとしているかのように思われる。それに対し、秋葉原に新しく建てられたビルを見ると、段々と窓が小さくなっていく。環境から隔絶された内部空間を築いているのである。街中を歩く人々の服装も大きく異なっている。秋葉原、渋谷だけではなく、ほかの街にも多様な特性が存在している。東京と一口に言うけれども、全く違ったカテゴリーに存在する人々が入り混じって一つの複雑系を形成しているように思われる。複数のカテゴリーが入り混じり、さらに複数のシステムが存在している。これら複数のシステムが入り混じることにより、全体としての冗長性が確保されているということが、東京という地域の特性にほかならない。そしてまたこの特性は、ニューヨークなどの海外の都市にも共通する、ある一定以上の規模をもつ「都市」の特性なのであろう。非常に乱暴な解釈であるが、このような共通する特性をもつ地域は、本質的に地域独自の特性を追求するのとは違う、非常に汎個性的な存在であり、それゆえ、「グローバルスタンダード」として標準的な存在へと発展していく道が最適解となるように感じられる。
この仮説に基づいて考えると、東京において成立した情報システム、地域システムを、他の地域に適応させようとすることの問題点が明確になる。東京型モデルとは、どこでも通用する仕組みづくりであり、本来から保持している地域特性を無視するということをも意味する。それは、同種の地域が存在したときに、規模と経営の最適化によってその優劣が決められるという状況をもたらすのみである。この状況において、人件費が圧倒的に安いアジア諸国と勝負できるような地域が、国内にいくつ存在するのだろうか。結局のところ、中長期的な地域産業を根幹とした域内活性化を考えたときに、どこでも通用するモデルづくりを推進するということは、競争力がなくなるということを意味するのである。公共事業に代表される行政活動、あるいはユニバーサルサービスについても同種のことが言える。これからは、普遍的なサービスをあまねく提供することに労力を費やすのではなく、より競争力を高めるための独自の活動、サービスに特化すべきなのではないだろうか。たとえば、地域特性に合致した日常生活というものがある。「孫の顔が見たい」という欲求は、高齢者がコンピュータを使うための重要な動機になり得るが、必ずしも家庭でのコンピュータ利用を意味するものではない。地域によっては、公民館、あるいは郵便局でのコンピュータ利用が最初に論じられなければならないかもしれないし、そのような地域においては、公民館や郵便局に、より資金を投入すべきなのである。
このような地域特性に合致したものとして、たとえば、岐阜県が独自の行政サービスとして取り組んでいる、コンビニを活用した図書貸出しシステムがある。岐阜県は非常に広い面積をもち、高山地方から岐阜市内まで、高速道路を利用しても2時間程度を要する。岐阜県立図書館は岐阜市内にあるだけで、これまでもさまざまな手法を用いて他地域への図書貸出しサービスを実施してきたが、使い勝手が悪いためか、利用率はそれほど高くなかった。今回のサービスは、24時間開店しているコンビニエンスストアに着目し、Web、あるいはLモードなどで予約した書籍の貸出しと返却を、コンビニエンスストアでできるようにしようというものである。該当するコンビニエンスストアと図書館との間の輸送コストは住民にも負担してもらう予定であるが、コンビニエンスストアの配送網を一部利用させてもらうことで、非常に安価にサービスを提供することが可能となった。コンビニエンスストアにとっては公共料金の支払いと同様、来店客を増加させるための付加価値サービスの一環であり、行政にとっては、独自で同様のサービスを提供することに比べて貸出し・返却にかかる人件費を抑制したサービス提供が可能であり、利用者は24時間、近所のコンビニエンスストアでサービスを受けることができる。情報化により可能となった新たなサービスモデルとして非常にわかりやすく、利便性の高いものである。なお、この図書貸出しサービスは、コンビニ活用型プロジェクトの第一弾であり、先日、記者発表を行い、今年度末にはサービス提供を開始する予定である。さらに来年度以降、コンビニを活用して別のサービス提供を行うことも検討している。東京には図書館も書店も豊富にあり、欲しい本を比較的容易に入手可能である。しかし、岐阜県では図書館の数が少なく、このようなサービスの需要は非常に高いのである。
また、前述したように、多くの山間部では民間の交通機関はほとんど撤退しており、行政が運営するコミュニティバスが、高齢者や小中学生など、域内住民の足となっている。コミュニティバスに関する自治体の費用負担はそれなりに大きなものであるが、間違いなく今後も、効率などの面だけで運営の是非を議論できないような重要な行政サービスである。そこで、まだまだ実験的な段階であるが、このコミュニティバスを活用した新たな通信サービスの仕組みづくりに取り組んでいる。それは、コミュニティバス自身をデータを輸送するパケットとして活用しようという、BBCP(Bus to Bus-stop Copy Protocol)システムである。一目見てわかるように、この名前は、ネットワーク通信の初期の段階においてよく用いられていたUUCP(Unix to Unix Copy)の名前をもじってつけたものである。
地域によっては、データ通信のためのインフラ網がなかなか敷設できない。後述する岐阜情報スーパーハイウェイにしても各市町村の行政組織までであるし、山間地域ではケーブルを敷設するだけで莫大な投資が必要となるところも多い。また、山間地域では雪や土砂崩れによるケーブルの断線もしばしば発生する。そこで、このようなインフラが十分に機能してない状況において、コミュニティバスを利用してデータ交換をしようというのがBBCPである。バスが路線を走っていくと、その走行に応じて順次、バス停とデータ交換を行っていく。このシステムは、私が所属する国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)の吉田茂樹教授と私とが、地場のバス関連の情報システム会社と共同で開発しているものであり、今年後半から地域での実証実験を行うことも計画している。
このシステムにおいて、個々のデータ蓄積先を単にバス停にとどめるのではなく、地方の公民館や病院などの集会場と連携させることにより、地域コミュニティの安価なインフラとして利用可能であるし、また、災害時にも非常に有効である。同種のシステムとして、携帯電話やPHSを通信手段として採用したシステムがすでに存在しており、シンガポールのバスシステムとして採用されている。国内でもいくつかの自治体が実証実験を行っているが、これらのシステムでは通信コストが恒常的にかかってくるため、なかなか採用されないのが実情であった。本システムは、無線LANを応用しているために恒常的なコストがかからず、災害時などインフラ設備が瓦解し、携帯電話や既存インフラの利用が難しくなるような状況下においても機能するため、いくつかの自治体が興味を示している。
このようなシステムやサービスはほかにもある。一見ばかばかしいようなものも多く、また、適用範囲があまり広くないものも少なくない。しかし、従来進められてきたような画一的な政策と比較すると、確実に地域の動向やニーズを踏まえたものであり、財政的投資も非常に抑えられており、評価されてしかるべきものである。また、このようなサービスだけでなく、やはり公共の立場として大きな投資を必要とするものも数多い。実際に岐阜県では、県営で岐阜情報スーパーハイウェイと名づけた県内光ファイバー網の整備を実施している。前述したようなユニバーサルサービスの民営化により、岐阜県内でも山間地域の一部では光ファイバー網整備の滞りがみられ、町村レベルの財政では独自インフラの敷設が難しかった。そこで県営で、すべての市町村の行政組織と小中学校などの教育機関を結ぶ光ファイバー網を整備することにしたのである。これは現在整備中で、今年度中には利用可能となる予定であり、今後は民間開放も検討している。2011年にはテレビ放送のデジタル化が予定されているが、その際、現状のままだと中山間地域でテレビ放送が視聴できなくなるところも数多い。何に投資するべきであるのかということを明確にしたうえでの、画一的ではない投資が非常に重要になってきていると言える。
産業振興と地域活性化
地域情報化の重要な役割は、言うまでもなく地域経済、地域産業の活性化である。私は地域産業の活性化策のひとつとして、「個」が非常に重要であるととらえている。20世紀後半、産業構造はその主眼を大きく変化させてきた。高度経済成長時期の主眼は少種大量生産であった。その後、技術革新により、20世紀後半には多種少量生産へと次第にシフトしてきた。ところが20世紀末になると、不況の影響もあり、技術進歩による品質向上が図られたものの、経営最適化に基づく少種大量生産へと生産形態を戻す企業が一定の成功を収める業種が出てきた。アパレルがその代表例であり、時代のニーズに合致したため一定の成功を収めることができたが、中長期的にみると、該当産業/企業の競争形態を技術力から規模と経営での勝負へと変化させることにつながり、力をつけてきたアジア諸国と厳しい勝負に挑まざるを得ない。特に地域産業においては、大企業を頂点とした日本のピラミッド型産業構造崩壊後、独自の舵取りができない中小企業で、この手法に陥り非常に厳しい経営状態となっているところがある。規模の面で劣る地域の中小企業が生き残るためには、独自の付加価値をもち、多種少量生産の次に来るであろう「個」人のニーズ、あるいは個々の案件に即した製品供給が可能な生産を実現するための新たな産業構造/形態の創出、あるいは支援するためのシステム構築が不可欠であり、そのためには、個々の技術者の経験として培われてきた技術を、いかに個々のニーズや案件と結びつけていくのかということが重要である。
私自身、一番興味を感じているテーマは、従来型のシステム中心のコンピュータではなく、技術者の勘やひらめきをさらに伸ばして新たなコラボレーションを促進する情報環境、個々人の特性に合致した人間中心の情報環境をどのようにして構築するかということであり、その第一段階として、いくつかのプロジェクトを進めている。
その中のひとつに、岐阜県の主要産業でもある金型産業に携わる中小企業と連携したプロジェクトがある。金型産業は、シンガポール、タイなどのアジア諸国においても大きな産業となっており、今後は国際的な分業体制が必要である。一定以上の精度や技術が必要とされる案件に関しては自社、あるいは地域連携によって取り組み、そうでないものに関しては内容に応じてその一部を最適な企業に外注していく。そのためには、個々の企業がどのような技術をもっているかを把握するとともに、外注先の技術者との密接な連携が必要となる。そこで、セキュリティが確保されたネットワーク回線を介し、どのような情報を共有することが技術者の連携にとって重要であるかというテーマに取り組んでおり、製造現場との連携を深めている。このような連携を実現するために、岐阜県各務原にあるVRテクノセンターにおいて、東京大学の廣瀬道孝教授が中心となり実験されていたCAVE(Cave Automatic Virtual Environment)などの大規模なVR(Virtual Reality)環境を用いたコラボレーション環境を使用することも、ひとつの解答となり得る。しかし、ギガビット・イーサネットに匹敵する高速回線が必要になることも含め、あまりに必要とされるインフラ、設備投資額が莫大であり、さらには現場の作業環境を著しく阻害しかねないため、現段階における導入は現実的とは言えない。そこで、汎用のコンピュータを用いながら共有されるデータの種類や作業環境について吟味を重ねるとともに、昨年はJETRO(日本貿易振興会)の支援を受け、最低限のデータ交換と企業連携/マッチング機能を備えたミドルウェアのプロトタイプを開発した。今年度後半より、シンガポール政府関連機関との連携の下で実証実験に入る予定である。今後、実証実験の結果を踏まえながら実用化を目指している。
このようなプロジェクトを推進して実感するのが、地場の中小企業が保持する技術力の高さと可能性である。岐阜県内の企業の中で、私が実際に現場を訪れているのは100社に満たないが、その中の1割以上が国際的にもトップと言える何らかの独自技術を保持していた。これらの技術力を保持し伸ばすための新たな産業クラスターの創造が一番の地域活性化策であり、地域情報化の中の主眼とすべきテーマなのである。
上述した私自身の取組みはこのひとつであるが、非常に小さな取組みにすぎず、大きな成果と成り得るものではない。具体的な産業クラスターの創造のために私自身が着目しているのが、地場の核となる人材の存在と情報産業の活用法である。地場産業にはオーナー経営者が多く、信頼を得れば非常に密接な連携が可能であるが、信頼を得るのが難しい。彼らの信頼を得ることができる地場人材が不可欠である。幸いなことに、岐阜県には(財)産業経済振興センターに該当する方がおり、彼と連携することにより、私は早期に数名の経営者などの信頼を得ることができた。次に、今後の地場産業の活性化のために、情報技術の積極的な活用は非常に重要な要素である。ただしここで、東京に立地する企業が進出し情報化を促進するという従来型の方式は、あまり成功するとは言えない。地場産業の特異性や考え方を肌で感じとれる地場の人材でなければ、地場特有の取組みは成功し難いし、それ以上に、地場産業の経営者や技術者の信頼度合いが全く違う。彼らにとって、今後も地元において活躍する人材であるからこそ信頼し、自社の生命線である独自技術を委ねることができるのである。情報産業自身にとっても、地域において東京と同様に新たな産業クラスターを形成し、大きな利潤を上げていくのは非常に困難である。東京渋谷のビットバレーが形成されたひとつの要因に、渋谷にNHKが立地していたという点があげられるように、他のメディアも含めて、東京という都市がもつ市場と情報集積という特異性が、一時的にせよネットバブルを形成させ、崩壊後も一定の産業クラスターを維持させることができた。しかし、東京の情報産業が地方に進出しようと焦るほど、東京においてもその現状は厳しく、将来が見えたわけではない。それに対し、前述したように、地場産業との連携には、この先、大きな可能性がある。
前項で述べた行政の取組みにも共通するが、現在、地場の情報技術をもった人材の必要性とその可能性が、かつてなかったほど高まっている。
地域活性化に向けた人材育成
地域情報化において、最終的に核となるのが人材育成である。ここでは、私自身が関与している岐阜県内での人材育成への取組みとその可能性について論じる。
市町村における情報化リーダーの育成は、すぐに取り組む必要がある問題である。そこで、私自身も委員を務めているが、県主導により、昨年から県内市町村の情報化評価を行い、その結果を公表し、特異的な取組みが見られる市町村については特別表彰を行っている。このような情報化評価においては、コンピュータの普及度合い、ネットワークの敷設状況などを優先して評価することがよく行われるが、このような評価だけでは都市部の市町村の評価が高くなる傾向がみられる。このため、独自の情報発信への取組みとして、メールによるサービスやホームページ掲載情報の充実/更新度合い、すなわち、現場の情報化担当職員の努力を高く評価する仕組みを採用している。また、市町村の情報化担当職員の情報関連資格取得を奨励するため、このような資格取得者の存在を高く評価するとともに、講習会や資格取得費用の一部負担制度等を整備している。市町村の情報化においては各首長の情報化への取組み意欲が非常に重要であるため、このような市町村情報化評価は現場の情報化職員に非常に歓迎されており、今後も継続的に実施していく予定である。さらに、市町村行政の情報化支援として、県の情報化推進団体(財)ソフトピアジャパンの協力を得て、前述の吉田教授と私が指導するゼミの学生数名をインターンシップとして派遣し、市町村の担当者との連携強化を進めている段階である。確かに、かつて市町村職員の情報技術はそれほど高いとは言えない時期があった。しかし、現状では、家庭でのインターネット利用が増えたこともあり、積極的に技術を高めたい職員の数は着実に増えている。そのため、今やるべきことは、彼ら職員がさらにその技術を伸ばす体制をどのようにしてつくりあげるのかということなのである。
次に、中長期的な人材育成として、われわれ自身が学校で地域の若手育成に取り組んでいる。最近注目しているのが、商業高校、工業高校などの普通科以外の高校の卒業生である。10年前は、このような専門科に進む学生は普通科よりも一段低く見られることが多く、実際に平均的に見るとレベルが低いことが多かった。しかし、最近では、終身雇用制度が事実上瓦解したこともあり、中堅、あるいはそれ以上の学生が商業高校、工業高校に進む傾向が出ているように思われる。これらの生徒はそもそも非常に優秀であるし、高校時代から情報技術に積極的に取り組むため、高校卒業時点において基本的な情報リテラシーを保持している学生もいる。彼らがわれわれの学校に入学し、ネットワーク、情報理論、システム理論などの基礎を学ぶことにより、従来では考えられなかったほどに若く優秀な学生が育つ可能性がある。実際、われわれのゼミの卒業生の中に、在学中の20歳の時に起業し、地域産業の情報化に取り組んでいる者がおり、会社はすでに3期目を迎えて順調に業績を伸ばしている。着実に地域に残り、地域特性を感覚的に理解しており、地域連携も容易である。やはり、地域の情報化のためには、その地域の人材をその地域で育てることが重要である。
さらに、地域には、このような若手を支援する経営者が複数存在する。彼らはIPO(株式公開)によるキャピタルゲインを目的としているわけではなく、純粋に支援として起業資金を提供し、さらなる長期的支援を行う場合もある。彼らの多くは中小企業のオーナー社長であり、個人の資産から資金を提供しており、彼らの信頼を得られれば、細かい制約を受けずに会社経営が可能である。結果として、東京で銀行やキャピタルから起業資金を調達することと比較すると、非常に会社設立が容易なのである。また、一度失敗したとしても、彼らを納得させるようなきちんとした理由があれば、再挑戦さえ可能である。実際、前述した卒業生ベンチャーは、起業資金の約50%をこのような支援者から調達している。
このほかに、地場製造業にも非常に優秀な若手技術者が存在している。職業訓練短大や高専を卒業した人も多く、大卒だけが優秀というわけではない。このような優秀な若手技術者と、前述したようなやはり若手の情報技術者をどのようにマッチングさせ、新しい産業クラスターを築いていくのかという点が、これからの大きな課題であり期待でもある。
最後に
私は岐阜県出身ではない。梶原拓知事、そして県全体の取組みに共感し、6年前に大学院卒業後そのまま岐阜に来て、現在所属する学校のスタッフとなったのが岐阜での初めての生活であった。支援してくださる方々に支えられ、現在ではコンピュータサイエンスの研究に携わる傍ら、岐阜地域において多数のプロジェクトに関与させていただいている。結果として、現在痛感しているのは、新たな産業クラスターの創造にしても、若手の人材育成にしても、東京では不可能な取組みが地域には存在し、その可能性は非常に大きいということである。人材育成のところで紹介した卒業生にしても、東京ではおそらく起業できなかったであろう。しかし、岐阜では順調に成長し、さらに飛躍しようとしている。このような、一見して非常に地味であるが、地に足をつけたクラスターの創造が、これからの日本の新しい国際競争力となっていくことを確信している。