民間活力と日本経済の将来展望
牛尾治朗(ウシオ電機株式会社代表取締役会長)
歳出カットを強く望む国民の声
経済財政諮問会議の民間議員の一人として、日本の改革に関する基本問題についての意見を述べてみたい。日本の改革の基本は、税制改革と規制撤廃の2本である。この2つの問題を、以下で取り上げることにする。
税制改革については、今年の春に開催された税のタウンミーティングなどで声があがったように、歳出カットが国民の間で強く望まれていることを考慮する必要がある。事実、世界経済を見たときに、世界の国債残高は3割がEUで、アメリカが3割、日本が4割である。さらに昨年に先進国が発行した国債のネット増加の80%が日本である。
本来は国債残高が増えるのか減るのかが重要で、政府の歳出が昨年を上回るか下回るかが問題なのではない。借金を増やしてはならない。そのためには、経費を半分にする必要がある。そうするには制度を変えなければいけない。経済財政諮問会議の答申でも、裁量的経費を2兆円ほど削減して、非裁量的な経費は法律改正が必要であるとしている。そうすることで、2年後、3年後に経費が減るようにしようという提案をしている。
例えば、医療費は今後も拡大していくが、政府が負担する医療をもっと少なくして、自由診療を増やすべきである。民間ベースの医療サービスを増やして、保険の対象外にする。それには国民の意識改革と法律改正が必要である。国民はそういうことに応じる用意があると思う。
法人税の引き下げと税収の増大
税制改革は歳出カットと組み合わせるべきである。実際に、減税の3分の1から半分を歳出カットでまかなう必要がある。残りの部分は、法人税の課税範囲の拡大と赤字法人への課税でまかなうことが可能であろう。その結果として、法人実効税率を5%引き下げることができる。
裁量的な減税にはあまり減税効果はないが、法人税の減税は経済活性化に最も効果を発揮する。減税をすると減収になるというのは、鎖国時代の発想で、経済がグローバル化した現在では、減税すると2、3年後には増収になる可能性が高い。民間人は張り切るし、海外からの資本も流入する。もし増税したらこれらの効果はまったく望めない。
民間には潜在的な活力があり、将来が計算できれば、活力を発揮する。もし政府が裁量的で、全てをやるからというときには、民間は信用しないから何もしない。「タックス・プラニングが立てられれば」、それに応じてリスク・マネージメントにチャレンジするのが民間企業である。今の日本はタックス・プランを立てられない。だから、5年後くらいまでにはこうするというタックス・プランを経済財政諮問会議で作らないといけない。
規制撤廃と小さな政府のための特区の発想
規制撤廃では、構造改革特区の発想がある。例えば、東京都の1つの区を構造改革特区にして、規制を撤廃し、区長の責任でやらせる。それがうまくいけば、隣の区もやりたいとなるであろう。そのように地域経済が活性化していく。実際に、特区は引き合いが全国から来ている。この様な手段でさまざまな規制を突破して、行政手続も迅速化させることができる。
さらなる例としては、北九州市が24時間運営する自由港にする特区を提案している。また東京大学が経済産業省と一緒に「動け!日本」というプロジェクトを立ち上げ、大学の先生の契約を9ヶ月にしたりできる。このように特区については、様々な地域や組織から多くの提案が出されている。
このように経済を減税と規制撤廃で活性化できる。そうやって民間経済の量が増える一方で、政府部門の経済が縮小して、予算の歳出が極端に減ってくる。同時に民間部門の経済が拡大して活性化することにより、減税しても税収が増える可能性が高くなる。
イチロー選手から学ぶもの
日本は戦後世界の奇跡といわれる成長を遂げて世界でもっとも豊かな国の一つになり、いまやその成果を他国と分かち合うところまで来た。しかし、この段階で、競争力の低下の可能性に注意する必要がある。今、大切なのは、競争力の維持であり、最大の課題は、高い賃金や福祉水準、 美しい自然、安全な社会といった日本の良さを保ちながら、かつ競争力を保つことである。
企業の経営力を高めるという点では、一番分かりやすい例がイチロー選手である。アメリカでは日本にいるよりもはるかに高い能力を発揮している。能力を発揮することに集中できる社会である。果たして日本が、個人の力を発揮しやすい社会になれるかどうかが重要な問題といえる。
規制の少ない小さな政府が求められているように、企業も小さな本社が望ましい。新しい世代は個を磨く力が出てくるであろう。したがって、彼らに必要なのは、日本以外の国で飢餓や戦争で苦しんでいる人たちのことを思う気持ちである。もし個が強くなるとともに他人を思いやる気持ちを持つようになれば、そこにやさしさと同時にタフネスが出てきて、その結果、個人から生み出される利益は社会に還元され、社会全体として最大化されるであろう。
参照 : 轄煌E研究所・雑誌「財界」・2002年7月23日発行