パンドラの箱を開けたアメリカ
2002年夏シリコンバレーを中心とする変わりゆくアメリカの現状
講師:大柴ひさみ(JaM Japan Marketing LLC代表)
7月16日のIECP研究会は、JaM Japan Marketing LLCの大柴ひさみ代表を招き、「2002年夏シリコンバレーを中心とする変わりゆくアメリカビジネスの現状『パンドラの箱を開けたアメリカ』」と題して、昨年9月11日以降アメリカで起きている、社会や人びとの心境の変化について語ってもらった。
2001年9月11日に起きたアメリカ中枢同時多発テロ事件から1年が過ぎようとしている。この1年というもの「安全神話」が崩壊し、不安との共存というトラウマに捕われた人びとの生活がcocoon化(繭化)し、アメリカの力の源泉となっていた株式市場や消費市場といった社会活動のさまざまな分野が冷え込んでいる。それに加えて、不正会計操作、インサイダー取引、脱税など、エンロンの崩壊に端を発したアメリカの企業経営者のスキャンダルが次々に明るみに出た。
大柴氏は、テロ以降のトラウマと企業スキャンダルは、重なりあってアメリカに住む人たちの心を一層深くとらえてしまったのだと述べる。アメリカ人の個人資産の3分の1は株式で保有され、半数の世帯が株取引を行っているという。株式市場の冷え込みは、市民一人ひとりに当然のように不安の影を投げかける。
続出する企業スキャンダルは、アメリカ式のビジネスのやりかたそのものを疑問視する傾向へとつながっている。その後のドル安や、アメリカ市場への外国からの投資の減少など、アメリカ経済にとって不安材料は尽きることがない。なぜ、アメリカはかくも堕落してしまったのか。大柴氏は、そもそもこれらの企業が掲げてきた経営方針や報酬制度が間違いのもとだったと述べる。ストックオプションは、企業経営者たちの強欲な欲望の源にほかならず、"get rich quick" を実現するための単なる手段に成り下がってしまったというのだ。
大柴氏は、繭化するアメリカのマイナスの影響を次のように述べる。心理的には、あらゆる種類のテロ攻撃に対する不安感、パレスチナやカシミールなどの地域紛争への緊張感にさらされ、テロ防衛のためのプロファイリングと個人のプライバシー問題の間で良心がせめぎあう。ビジネスの点からは、航空や観光は顧客が激減し、衣料やテクノロジーなどの産業では買い控えが進んでいる。逆に、「確かなもの」にすがるという反動からか、住宅価格は高騰してしまっている。
一方で、繭化のプラスの面として、大柴氏は、家族や友人との連帯感が強まり、仕事よりも家庭や生活の質を重視する傾向を挙げた。他にもDVD、ホームシアター、インテリアなどの家庭用品の売れ行きが好調であるなど、家庭回帰を如実に裏づけている。また低金利を受けて、住宅販売やリフォーム、自動車販売などが活況を呈しているようだ。大柴氏は、SOHOの増加や、フルタイムのテレコミューターの増加も特徴的だと述べる。
昨秋以降明らかになった企業スキャンダルは、どれもコーポレートアメリカの規律とは無縁と思われてきたものばかりだった。このような現実を目の前にした「知米派」の日本人に共通するのは「アメリカに裏切られた」という感想だという。それは、政治、経済、文化、そして倫理の指針として高らかにうたわれてきたアメリカニズムのあきれるほど杜撰な実態を知ってしまった知識人たちの、嘆きとも諦めともつかない実感だったのではないか。
上村圭介(GLOCOM主任研究員)