韓国のブロードバンド事情
通信と放送の観点からブロードバンドの動向を追う
講師:飯塚留美(財団法人国際通信経済研究所第一研究部上席研究員)
韓国では、2000年ごろから無料放送や無料電話サービスが火付け役となって高速インターネットへのニーズが広がり、ADSLの加入者が激増した。2002年5月末時点での高速インターネット加入数は860万で、約6割の世帯に普及している。「ブロードバンド化」において、隣の国が日本よりもこれほど先行したのは、どのような事情によるものであろうか。7月23日のIECP研究会では飯塚留美氏をお招きし、インターネット放送を中心に韓国のブロードバンド事情についてお話をうかがった。
「韓国には現在、一定の番組を編成し、ストリーミング技術を利用して伝送を行うインターネット放送事業者が、約1,400存在する。
有力なのは地上波テレビ局の子会社で、地上波の番組を再放送したり、オンラインゲームやアニメ、地上波の再編集番組などの独自コンテンツを提供したりしている。また、番組に電子商取引を連動させる有料サービスも始まり、住民登録番号と携帯電話番号を組み合わせた方法で小額決済が容易に行われている。だが、収益モデルが未構築であるうえ、景気の低迷により、半数以上の事業者が開店休業状態である。今後は、スポーツ中継など、リアルタイム性のあるコンテンツが収益を上げるカギと目されている。
インターネット放送事業者は行政機関への届出が義務づけられており、コンテンツへの規制も行われている。行政機関が社会的影響や青少年保護の観点から事後的に内容を審議し、2001年度は年間2万3,000件以上が審議された。また、2001年初頭の大掛かりな捜査では一度に25社が摘発された。」
飯塚氏は、韓国におけるブロードバンド普及の要因として、大統領主導によるトップダウンで迅速かつ一貫した政策推進を挙げた。韓国政府は情報通信産業の振興のために、オンラインゲームとアニメ産業を国策と位置づけ、クリエイター育成や放送事業への参入促進に集中的に取り組んでいるという。
次に要因として挙げられたのが、既存の地上波テレビ放送の不便さとの対比である。韓国では全国ネットの地上波放送局が三つしかなく、昼間は放送を休止する。また公共放送の性格が強いため、間接広告(番組中での特定企業名やロゴの表示)が禁止されている。これに対し、インターネット放送は、今後の方向性を探る実験場として規制が緩和されており、間接広告や電子商取引、成人向けアニメの放送など、現行の地上波テレビではできないことへの取組みが認められているからだと話す。
また飯塚氏は、映像コンテンツに対する権利意識の低さにも言及した。地上波、衛星、有線、インターネットによる放送権など、番組に関する主要な権利は包括的に放送局が保有し、出演者や製作会社の立場が弱い。これはコンテンツの流通を促進するためであったが、韓国産コンテンツの海外進出を図るためにも、今後は著作権問題の克服が急務となるであろうとのことであった。
韓国は、人口の一極集中度や、教育熱・投資熱の高さなどでは日本を上回る。また、情報通信政策は中央集権的でキャッチアップ志向が強く、「開発主義的」ともいえる。隣の国ではあるが、ブロードバンド化をとりまく社会条件が、日本とはずいぶんと異なるという印象を受けた。
韓国のブロードバンド戦略とその動向は、権限の分散と自由な風土の上で多様な主体が競争を行い、イノベーションを生んできたとされるインターネット社会において、非常に興味深いモデルであるといえよう。
庄司昌彦(GLOCOM研究員)