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Center for Global Communications,International University of Japan

智場、GLOCOM Review、コラム…


 

国際情報発信ロサンゼルス・フォーラム

携帯・無線技術の社会経済的影響:日米比較

宮尾尊弘(GLOCOM主幹研究員)

基調講演

「携帯と無線:われわれは今どこにいるか」

 日本が米国よりも数年進んでいるといわれる携帯の技術に注目が集まるなか、去る9月26日にロサンゼルスの南カリフォルニア大学で、GLOCOMの国際情報発信プラットフォームが主催する国際フォーラム「携帯・無線技術の社会経済的影響:日米比較」が開催された。

 日本側からは、NTTドコモ米国社長の小野伸治氏、日本経済新聞社編集委員の勝又美智雄氏、時事通信社編集委員の湯川鶴章氏がパネリストとして参加し、筆者が総合司会を務めた。米国側からは、カリフォルニアで携帯や無線に関して第一線で活躍する学者、ジャーナリスト、ビジネス関係者8名ほどがスピーカーやパネリストとして参加し、南カリフォルニア大学デビッドソン・コンファレンス・センターのメインの会議場に100名以上の聴衆が集まり、活発な議論が展開された。

 まず、今回のフォーラムの共催相手である南カリフォルニア大学コミュニケーション・スクールのディーンのジェフェリー・コーアン氏が、開会の挨拶において主催のGLOCOMや資金的な助成団体である東芝国際交流財団に謝辞を述べた後、同スクールのジョナサン・アロンソン教授が基調講演を行った。その要旨は以下のとおりである。

 無線と携帯に関する重要な設問は、無線の分野がどのように展開するか、この分野のビジネスを推進するものは供給側の革新か需要側の飛躍的変化か、政策当局は何をなすべきかといったものである。携帯については、第3世代へ向けて技術と市場が進化してはいるが、はたしてどれだけ支配的になるかどうかは、コスト、無線との競争、需要のあり方、ネットワーク全体の構造といった要因に依存して決まる。携帯と無線の両方を概観すると、一方で利用者の移動が高まる方向と、他方でデータ通信量が増える方向がトレード・オフの関係にある。それが将来、第4世代の時代に統合されるかどうかは、まだ不明である。無線のネットワークの展望としては、予想もしなかったような需要、特に利用者自身が発信するような需要が今後の成長をもたらすであろう。それを左右するのは、ビジネス需要か個人の需要か、周波数政策がどうなるか、レイヤー構造がどうなるか、成長を生み出すアプリケーションは何かといった諸問題である。ここで注目すべきは、センサーの発達によって、マシンがマシンと交信して、新しいユビキタス・コンピュータの時代を作るかもしれないということである。

第1セッション 「携帯・無線のオンライン・ジャーナリズムへの影響」

 この基調講演を受けて、第1セッションでは、「携帯・無線のオンライン・ジャーナリズムへの影響」が議論された。まず、この分野を代表するダン・ギルモア氏(サンノゼ・マーキュリー・ニュース・テクノロジー・コラムニスト)がプレゼンテーションを行い、オンライン・ジャーナリズムを概観して、以下の点を指摘した。

 現在、オンライン・ジャーナリズムで起こっているのは、新旧メディアの融合であるが、これは旧メディアが、ピア・ツー・ピア型の中抜きの直接的ジャーナリズムを認めて、取り込んでいく過程である。誰もが発信できるジャーナリズムではあるが、ただし誰も金儲けができないでいる。いずれにしても以前はエディターに手紙を書く以外になかった一般の人が、今やウェブログなどでコミュニティを作ってジャーナリスト以上のことを知るようになっている。携帯はこの状況をさらに興味深いものにしている。日本の「2ちゃんねる」などは、携帯を活用して新しいタイプのジャーナリズムを作り出しているといえる。

 これに対して、勝又日本経済新聞社編集委員は、いくつかの問題点を指摘した。

@オンライン・ジャーナリズムの時代には「信頼性」が問題になるが、メディアはニュースをスクリーンして信頼性を得られるか。

A日本では日経ネットだけが利益を上げているが、一般に高いコストを広告収入などでどうカバーして利益を上げることができるか。

Bジャーナリストがプロフェッショナルとして、どこまで自主規制して倫理感を維持できるか。など、非常に難しい問題である。

 次に、携帯・無線の影響については、サンディエゴ・ユニオン・トリビューンのインターネット担当のクリス・ジェニワイン氏が、2002年2月以来、携帯端末用に短いニュースの配信を始めているなかで、いくつか気づいた点を指摘。たとえば、米国ではまだ携帯電話型の端末の質が低いこと、また、短い(バイト・サイズの)ニュースが少なく、既存の記事を短く書き直す手間がかかることなどが問題だが、その反面、いつでもどこでもニュースが見られること、瞬時にニュースが配信できることなどのメリットは大きいことが強調された。

 これに対して、湯川時事通信社編集委員より携帯・無線に関する日本の状況について、PC文化の米国と違って日本は携帯文化といえること、これまではテキストが主であったが、デジカメ搭載の携帯が普及していることなどの説明があった。「ジャーナリズムへの影響も少しずつ出はじめており、たとえば大阪市は、一般市民に犯罪の場面の写真を撮って送るように呼びかけている。『2ちゃんねる』も携帯を利用して伸びており、さらに朝日新聞社が提供している『知恵蔵』のサービスが携帯で利用されて、すでに1万3,000人が登録しているが、これは主要なニュースの内容をキーワードで検索できるサービスで、若者の間で評判になっている。これは新たなニュース・オンデマンドといえる」とのことであった。

 リチャード・オーエン氏(アヴァントゴー社代表)は、携帯のメリットとして、乗り物の中などでの暇つぶしに適していること、他の手段がないときにスポーツの結果などを知るのに便利なこと、さらに旧来型のビジネスと組み合わせて新しい価値を作り出せることを指摘。「しかしながら、iモードを米国で成功させるのは容易ではない。日本は混雑する電車の中で小さい携帯がうまくフィットするが、米国ではPC中心の文化が支配的である。また米国では、日本のNTTのように独占的な利益を享受できない。さらに若者が日本のように外でたむろすることが少なく、自分の部屋でPCに向かっていることが多い」といった違いが強調された。

ランチョン・スピーチと第2セッション 「携帯・無線のデジタル・エンターテインメントへの影響」

 ランチタイムには、MTGP社北米ベンチャーマネージャであるロバート・ターセック氏が「携帯デジタル・エンターテインメント」というテーマで講演を行った。この分野ではすでにテレビ型のモデルが成り立たなくなってきており、双方向のネットワークが創作者と消費者を直接結び付けて、配給会社をバイパスしはじめていることが指摘された。さらに、「携帯の時代に入り、人々の行動を変えるようなコンテンツが出てきている。たとえば、日本の『ひまひま』のサイトでは地図情報を含んだインスタント・メッセージが盛んに交換されている。このように携帯の利用者が参加して決めるコンテンツが流行るのは、日本に限らず世界中どこでも起こりつつある。課金がやりやすく、ネット上でのクレジットカードの利用より安全である点も携帯を使う利点である。米国では双方向テレビのような従来型メディアと組み合わされて利用され、効果を上げている。携帯を利用した新しいタイプのエンターテインメントについて、世界中で成功例が出はじめているのが現状」との指摘があった。

 これを受けて、午後の第2セッションでは、筆者の司会で「携帯・無線のデジタル・エンターテインメント」についての議論が展開された。まず、小野NTTドコモ米国社長がプレゼンテーションを行い、iモードは若い社員がトップの反対を押し切って始めたもので、誰もが予測しなかった使い方がなされることで成功してきたことが指摘された。「そのポイントは、それまで注目されなかった個人消費者市場を開拓したことで、現在までに3,000万の登録者数を獲得しており、iモードのメニューだけで6万ものウェブサイトにアクセスできるようになっている。利用は8割がゲームや着メロといったエンターテインメント系で、残りが日経新聞などの情報検索や株取引のようなビジネス系などとなっている。最近では無線LANサービスを狙った機種を出して、iモードのサービスの拡大に努めている」とのことであった。

 ルーシー・フード氏(ニュースコープ・コンテンツ担当副社長)は、まず、ニュースコープ社のコンテンツ配信と携帯電話によるマーケティングがどのように融合しているかを示す世界中のCMのビデオを映して、携帯でワン・ツー・ワン・マーケティングを達成しつつある状況を説明した。携帯端末を活用して世界中でマーケティングを行う可能性に触れて、どのように個々人の好みに応えていくかについて具体例を挙げた。たとえば、既存のメディアのコンテンツについての質問に携帯で答えてもらったり、人気のある映画やTV番組について観客の間で会話をしてもらったり、スポーツやアニメのキャラクターなどと携帯を通じて交流したり、さまざまな工夫が可能で、それが全世界に広がっていると指摘した。

 ブラウニング社の携帯エンターテインメント専門家であるタピオ・アンティラ氏は、以下の四つのポイントを強調した。

@この分野で利益を上げるには、ブランド名が非常に重要であり、消費者にアピールして、ワン・ツー・ワン・リレーションを作ることが大切であること。

A携帯性(ポータビリティ)によって、すべて必要な情報を持ち運びできることが特徴であること。

B個人間のメッセージ・サービスがますます重要になっており、最近ではテキストだけでなく、カメラ搭載の端末も人気が出てきていること。

C創造性にあふれたコンテンツに人々はお金を払うが、最終消費者自身が作り出す情報がますます面白くなってきていること。

 以上のプレゼンテーションに対して、勝又氏は、エンターテインメント中心の若者文化に危惧を表明し、「特に日本の若者がほとんど会話を交わさずに、ゲームやメッセージの交換に集中していることへの社会的なマイナス面に注意を払うべき」と警告した。これに対して、小野氏は、逆にプラス面が大きいとして、たとえば聴覚障害者にはテキストや映像の情報が有用であり、視覚障害者にはカメラ搭載の携帯が盲導犬代わりに使われたりする可能性を指摘した。ルーシー・フード氏は、世界中で若者が新しいコミュニケーションと交流の手段を手に入れたことの重要性を強調し、タピオ・アンティラ氏も比喩として、「両手が酒とタバコでふさがっている場合に、携帯が鳴ればどちらかを手放さざるを得ない。エンターテインメントの形態が変わっているのであって、特に若者の文化が悪くなっているわけではない」という意見であった。

第3セッション 「携帯・無線の国際比較:日本、米国、欧州」

 携帯・無線に関する国際比較については、この分野を代表する学者であるスタンフォード大学コミュニケーション・スクールのフランソア・バー教授が、豊富なデータに基づいて興味深いプレゼンテーションを行った。まず、インターネットと携帯電話が対照的な性格を持っていることを指摘して、インターネットは参入が容易で規制されておらず、スタンダードがオープンで利用者がアプリケーションを自由に選べるのに対して、携帯電話は参入障壁が高く、周波数規制も強く、スタンダードも確立しておらず、アプリケーションもプロバイダーが提供する場合が多いと指摘。「そのためもあり、携帯の利用者は国や地域によってかなり異なり、日本や欧州では個人の利用が多く、米国ではビジネス利用が主流である。また、米国では音声中心であるが、日本ではデータ通信が中心である。米国での普及率は低く、日本や欧州ではかなり高くなっているが、それは、米国ではさまざまな会社がいろいろな機種や端末を提供してスタンダードがないのに対して、日本ではNTTドコモがベンチマークを提供しているからである。また欧州では、個人向けのワン・ツー・ワンのコミュニケーションやエンターテインメントが盛んで、それが普及率を高める原因となっている。今後は利用者が作るコンテンツが主流となっていくので、日本、米国、欧州の状況がさらに異なってくる可能性もある」とバー教授は結論づけた。

 それに続いて、エリザベス・ファイファ氏(南カリフォルニア大学ビジネススクール研究フェロー)が、携帯・無線の利用状況や今後の見通しについての自分のアンケート調査を発表し、また、南カリフォルニア大学コミュニケーション・スクールのオンライン・プログラム・ディレクターであるラリー・プライアー教授の司会のもとで、タピオ・アンティラ氏より、自分の経験からグローバルなビジネス展開で注意すべき点、特にこの分野でグローバルなビジネスモデルが確立していない点などについて説明があった。

 その後に湯川氏が、携帯のキラーアプリケーションを考える場合の日米の発想の違いを強調し、米国ではPC中心の文化なので、キラーアプリケーションを考える場合でも従来型の発想に陥ってしまう傾向があるが、そうでない日本の方が自由な発想で新しい展開をみせていると主張。「具体的には、小さくて安価なチップやセンサーの開発によって、さまざまな応用を考えることが可能になっており、たとえば製品の一つひとつにセンサーを付けて盗難を防いだり、分別を自動的に行ったりできるようになっている。またセンサーを利用して、電灯や冷暖房のより効率的な自動制御に役立てたり、高齢者の動きを追って、それを携帯に伝えたりするサービスも実現している。これがショッピングなど、生活を便利に快適にすることに広く使われるようになれば、キラーアプリケーションになるかもしれない」とのことであった。

 最後に、小野氏がNTTドコモのビジネスの視点から、日米欧の比較を行った。「現在のタイプの携帯電話が市場で伸びはじめた6年前から現在まで、日本と欧州では14倍になっているのに対して、米国では3.8倍程度しか伸びていない。一方、中国が絶対数では世界一となっており、すでに1億5,000万人が登録して、毎月500万人が新規に登録している。普及率では、昨年末の時点で、欧州の主要国が65%以上、日本が64%に対して、米国は46%にとどまっている。ただし、GDPの比率で見れば米国やカナダの普及率は異常に低いので、その分だけ今後のビジネスチャンスがあるということを意味する。特に米国では、日本や欧州のように個人の消費者市場に十分浸透していないので、そこにビジネスが拡大する可能性がある」という見方を、小野氏は強調した。

 閉会の辞は、南カリフォルニア大学副学長のマイケル・ダイヤモンド教授が大学全体を代表して、GLOCOMをはじめ、日本からの参加の意義を高く評価する趣旨の挨拶があり、丸一日に及ぶフォーラムは無事閉会した。世界の情報通信産業が問題を抱えている今日、この携帯・無線の分野は、依然として今後とも発展することが期待されている。日米双方がお互いに学び合い、協力し合って、研究の上でもビジネスの上でもさらなる成果をあげるべく、今後もこのような対話と議論が必要であることがわかっただけでも、このフォーラムの目的は十分に達せられたといえよう。

 なお、このロサンゼルス・フォーラム全体のビデオは以下のURLで見ることができる。

<http://annenberg.usc.edu/japan>

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