802.11:Ethernet Marches On
講師:ロバート・バーガー(Internet Bandwidth /Presedent)
9月9日、IECPでは、米Internet Bandwidth Development, LLC*1のロバート・バーガー氏を招いてコロキウムを開催した。その中で出席者の歓声が最も高かったのは、針金を巻いたポテトチップの空き缶を、無線LANのアンテナとして用いている写真を表示したときだった。
話が突然飛ぶが、この「缶」の字の音は「フ」*2。西欧から、金属容器を示すcanという言葉が入ってきたとき、水を注ぎ入れる広口のかめ(土器)を本来示していた缶の旧字「罐」(カン)を日本で独自に当てたのである。扁の缶の訓は「ほとぎ」で、酒の入れ物の形状をなぞったもの。旁の「 」は一説では、風雨を予知して口々に鳴きかわす小鳥で、叫ぶ、大きく口を開ける、水のかたまり、注ぐといった意を示す。灌は、水を注ぐの意であり、歓、懽、讙は、喜ぶ、呼ぶ、叫ぶ、かまびすしいといった意味になる。さらに、声をそろえる歓から、バランスのとれた景色を見る場所の観、力のバランスを考えたはかりごとの権が生じたらしい。
さて、草の根型の無線LANを視野の中心に据えたバーガー氏の目指すところは、GLOCOMの提唱するCAN(Community Area Network)の目標に、かなり似ている。CANが敷かれたとき、その中を行き交うのは、地域の文化土壌を灌漑する、人々の交歓の声のはずだ。そして、バーガー氏の予測のとおり、この10年のうちに、1TB(テラバイト)のディスクが200ドル未満で、また、100GbE(ギガビット・イーサネット)が100ドル未満でコンシューマ市場に提供されるようになれば、CANそのものが、地域の情報を満々とたたえる本来の意味での罐となる。
写真など「photogy」(英語での俗語)のデータも、不自由なく蓄えられる「ほとぎ」となろう。バーガー氏の言うとおり10年の間に、Wi-Fi(Wireless Fidelity)で11Mbps、やがて54Mbpsと、第3世代(3G)携帯電話よりはるかに速い通信が可能になるならば、3Gへの投資見直しも視野に入る。見えないコンピュータもこの10年で増加するという。300億個の電子チップ、前出、伝説の鳥「 」のようなセンサICチップが、ポストインターネットに接続されるのだ*3。
9層モデルが示されたときも、会場から讙噪*4の声が上がった。第8層が経済性の層で、第9層が政治性の層。通信バブルの崩壊で、競争相手がいなくなった既存の電話会社とCATV会社は今後、アクセス網で特に新しい投資はせず、政治力に頼り、ボトルネックを握る状態を続ける。しかし、彼らが解決すべき大きな課題は、哲学、理念を、IP型、データ型にかえることだという。イーサネットの技術を用いた無線LANなら、屋上から屋上へと飛ばすなどして、今までよりずっと安価にアクセス網が構築できる。既存会社がやらなくても、無線ISPのタワーが数千と立ち並び、進化していくことになるだろうと警告する。
ちなみに、 の音はカンだが、訓はタヌキの一種を意味する「まみ」。バーガー氏の論議は、日本での電波規制の問題を、旧態依然の権の擁護に堕することなく、原点*5に戻ってオープンに話し合う土台として、東京・狸穴(まみあな)近くの国営研究所にも有効なものだろうと推察した。
中野潔(GLOCOM主任研究員)
*1 LLC:Limited Liability Corporation。有限責任の個人会社、小規模会社。
*2 学習研究社『漢字源』、角川書店『新字源』。
*3 中野潔[2002]「地域密着型ITビジネスの種々の様相」『GITI紀要2001-2002』pp.62-71、早稲田大学国際情報通信研究センター、2002年7月。
*4 喧噪、喧騒とほぼ同義。
*5 東京都港区麻布狸穴町から東に200m、麻布台2-2-1 中央官庁合同会議所の近くに、日本経緯度原点と飯倉熊野権現社がある。熊野権現の目と鼻の先に、権化(権現)としての熊の姿で表現されることのあるロシアの大使館があるのは偶然であろう。