『ネットワーク時代の知的財産権──知価変動時代のライセンスビジネス最前線──』
中野潔著
講師:中野潔(国際大学GLOCOM主任研究員)
9月24日のIECP読書会は、『知的財産権ビジネス戦略』の著者である中野潔GLOCOM主任研究員に、さまざまな知的財産の取扱いとビジネスの関連についてお話をうかがった。
中野氏はこれまで、異分野の七つの会社を渡り歩いてきた。その経験を踏まえ、本書は法学・工学・メディアの観点から知的財産権とビジネスに関するトピックを網羅的に解説している。「法務担当以外のビジネスマンに対する啓蒙書」を意図して書かれたものだそうだ。
ビジネスの世界では、これまでも特許や商標といった工業所有権の取扱いが重要であった。さらに、テキスト、音楽、映像、プログラムといった著作物に関連するビジネスが拡大を続けている。工業所有権と著作権をまとめて「知的財産権」ととらえると、このキーワードに関する身近なビジネスや社会問題の多さにあらためて気づく。そのため、今回の読書会の話題は具体例が豊富で多岐にわたった。
中野氏は情報の「複製」の問題に多く言及した。たとえば、音楽ソフトがデジタル技術で劣化せずにコピーされ、ファイル交換ソフトでインターネット上を広く流通していることなどである。「私的使用」など限られた条件以外の複製は、本来すべて違法である。したがって、特定多数の前で上映や演奏、朗読(口述)することも複製にあたり、無許諾で行えば著作権侵害になるそうだ。
これに対し、情報財に対する厳格な課金はネット社会の互恵的な文化にはなじまないという議論もある。著作物は販売促進活動として自由に流通させ、ライブ(実演)の価値を高くすればいい、と考えるのだそうだ。しかし中野氏は、リスクをとってビジネスをしている人の成果に「ただ乗り」するようなことにはどこかで歯止めが必要で、コピー可能な情報財を普遍的に無料化していくことは難しいだろう、と述べた。
また、企業と技術者の間の、特許権の帰属や報酬について参加者と意見が交わされた。これは、青色発光ダイオードや人工甘味料の特許に関する訴訟で話題となっているテーマである。特許権は、情報を公開する代償として発明を独占する権利を与え、社会的利益と創造者の動機づけのバランスをとっている。裁判では、企業がその権利を企業に所属させるために技術者に支払うべき対価を不当に低くしてきたかどうかが争われている。
中野氏によれば、技術者は成功報酬を求めるが、失敗を理由に給料が減額されることはない。企業としては、成功研究は投資の結果であり、得られた収益から失敗の損失補填やリスクヘッジを行うため、技術者に莫大な報酬を与えることはできないのだそうだ。企業が研究者の知的活動に投資をしているという議論で、これは興味深い。これまで、知的財産への投資(創作活動)がペイするかということが重視されていたとは限らなかった。だが、「知的活動に対する投資に報いる(ただ乗りも許さない)」という姿勢でなくては、今後先進国の産業が生きる道はないのではないか。創造的な行為やそれを支えることを「ばからしい」と感じない制度設計を行っていくべきである、と中野氏は何度か強調した。
知的財産権ビジネスは、投資をして利潤や報酬を得る「富のゲームの論理」と、広めたり共有することで楽しさや評判を増やす「智のゲームの論理」の葛藤の中にあるといえよう。したがってこの議論は、具体的な場面に当てはめて応用問題を考え始めると非常に複雑で難しい。だが私たちは、知的財産権とその保護とビジネスについて理解を深めておく必要がありそうである。著者がこの本で意図したとおり、奥深いこの問題の入り口に誘導された読書会であった。
庄司昌彦(GLOCOM研究員)